(特にクリニックや比較的規模の小さな病院での内視鏡検査を想定した場合)
日本消化器内視鏡学会、2022年7月14日(改訂第8版)
今回のアップデートの概要
新型コロナウイルスが大きな問題となっている現況での消化器内視鏡診療にあたっては、第一線専門施設では本学会の提言を含めて種々のガイドラインや各施設内の指針に準じて万全の体制で臨まれていると存じます。感染拡大を防ぎ、かつ医療従事者を守ることは極めて重要です。一方、一般のクリニックや比較的規模の小さな病院では対策に苦慮されているとのお話を多く耳にします。このような状況に鑑み、日本消化器内視鏡学会では、そのような先生方への情報提供として「新型コロナウイルス感染症に関する消化器内視鏡診療についてのQ&A」を作成してきました。
令和4年初頭からはオミクロン株が主体となり、一時感染者数は増加したものの重症化率は下がりました。また、ワクチン接種が普及しており、3回目のワクチン接種を終了した人は国民の約62%(2022.6.21現在)になりました。また、既に4回目の接種も始まっております。このような状況に鑑みて、様々な状況での規制緩和がなされておりますが、最近では第7波と考えられる感染拡大傾向が始まっています。なかなか終わりの見えない状況が続いており、医療現場においては、現在でも感染リスクを常に念頭におきつつ通常の内視鏡診療を遂行していかねばなりません。
一方、ワクチン接種の普及に伴い、ワクチン接種と侵襲的医療に関する問題事例の報告も散見されるようになりました。このQ&Aでは、ワクチン接種が始まった時期に合わせて2021年6月にワクチン接種と内視鏡診療の時期について記しておりましたが、最近の知見を踏まえて再度アップデートすることといたしました。また、新型コロナウイルス新規感染者が一定数存在している現状では、感染後から内視鏡治療まで空けるべき期間についても十分考慮しなくてはならず、こちらについても新たに追記することとしました。なお、感染予防やPPE等につきましては、これまで同様の対応が重要であり、特に追記はございません。この内容は一般のクリニックや小規模病院のみならず、幅広いご施設で参考としていただけるものと考えております。
このQ&Aは本学会が示したひとつの目安であり、それぞれの施設の対応を制限するものではありません。この指針を参考にしていただき、各地域の感染状況や方針、各施設の状況に応じて具体的に適切な対応策を決めていただくことが重要です。
2022年7月14日
一般社団法人日本消化器内視鏡学会
理事長 田中 信治
医療安全委員会 委員長 入澤 篤志
副委員長 古田 隆久
委員 稲葉 知己、河原 祥朗、松田 浩二、潟沼 朗生
大塚 隆生、菅野 敦、水上 一弘、青木 利佳
池田 宜央、山田 玲子、鷹取 元
I. はじめに
II. 新型コロナウイルス感染症に関する消化器内視鏡診療についての Q&A
CQ2. すでに検査予約済みの内視鏡検査の実施に関しての対応
CQ9. 患者が来院した際に、新型コロナ感染症に対して事前に問診すべき項目
CQ10. 予約患者に対して、事前にCQ9の質問を事前に行うことは推奨できるか
CQ12. 新型コロナウイルス感染の可能性が低いと判断された時の対応
CQ13. 問診にて感染リスクが低いと判断された患者の検査当日の同意取得
CQ14. 感染が疑わしいと考えられた患者への検査当日の同意取得
CQ18. 内視鏡検査実施するスタッフとしての基本的な考え方
CQ22. 内視鏡検査室の人流れ、人員について工夫すべきこと
CQ23. 感染確定・疑い患者に対する緊急内視鏡検査を施行する場合の対応
CQ24. 検査の付き添いの家族への検査室への入室で注意すべきこと
CQ25. 感染確定・疑い患者に対する緊急内視鏡検査施行後における術者の留意点
CQ26. 感染確定・疑い患者に対する緊急内視鏡検査施行後における患者対応の留意点
CQ27. 感染確定・疑い患者に対する緊急内視鏡検査施行後の内視鏡機器の取り扱い
CQ29. 検査終了後の処置具(critical器具)の洗浄・消毒
CQ30. 感染確定・疑い患者に対する緊急内視鏡検査施行後の検査室への処置
CQ31. 感染確定・疑い患者に使用したスコープ以外の機器の取り扱い
CQ32. 消毒用のアルコールが入手困難な場合のアルコールフラッシュの代替方法
CQ34. 消化器内視鏡診療終了後の病院・施設のスタッフにおける注意事項
CQ36. 緊急事態宣言非発出の状況でも緊急性のない内視鏡診療は延期すべきか
CQ38. 新型ウイルスの既感染者や濃厚接触者への対応の留意点
CQ40. 感染確定・疑い患者に対する経験の浅い内視鏡医による施行の是非
CQ46. 消化器内視鏡施行前の SARS-CoV-2検査について
CQ47. 内視鏡診療時の院外からの見学あるいは研修スタッフの同席
CQ49. 観察目的の消化器内視鏡検査とワクチン接種時期について
CQ51. コロナ感染後から内視鏡診療までの空けるべき期間について
今般の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大に関して、消化器内視鏡診療の実施については、国・厚労省の方針や各施設の状況等を考慮した対応が求められています。日本消化器内視鏡学会は現在のCOVID-19の状況に鑑みた内視鏡診療について、『新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への消化器内視鏡診療についての提言(https://www.jges.net/medical/covid-19-proposal)を発表し、2020年3月25日の第1版発表以降、本邦における状況に鑑みたアップデートを行ってまいりました。現在では第9版となっております(2022年7月14日更新)。2020年4月7日に発出された1回目の緊急事態宣言により、感染拡大は一時的に落ち着いた状況でしたが、冬期間になり感染拡大は顕著となり、2021年1月7日には一部の都道府県に2回目の緊急事態宣言が発出されております。その後も感染拡大はコントロールできず、3回目、4回目の緊急事態宣言が出されております。一方で、ワクチン接種が始まりましたが、未知の部分も多い状況です。このような状況に鑑みて、 本Q&Aもアップデートを行ってまいりました。
ここでは、消化器内視鏡に関わる医師および関連するスタッフにむけた、具体的な対応案を示しています。なお、このQ&Aは、一般のクリニックや比較的規模の小さな病院のみならず、幅広いご施設で参考としていただけるものとして作成しておりますが、その内容は本学会が示したひとつの目安であり、それぞれの施設の対応を制限するものではありません。この指針を参考にしていただき、各地域の感染状況や方針、各施設の状況に応じて具体的に適切な対応策を決めていただくことが重要です。特に、日本全国において感染拡大が続いている状況ですので、SARS-CoV2に関連したエアロゾル発生の危険性があるとされる消化器内視鏡診療においては万全の対策を講じるようお願い申し上げます。
CQ1. 新規の内視鏡検査の予約に際して留意すべき点はありますか? |
Ans. 無症候性の感染者は約20−30%とされており、 内視鏡従事者と被検者を守る観点から、緊急事態宣言が発出された場合は緊急性の無い内視鏡検査は延期を考慮することを推奨します1–4。なお、新型コロナウイルス感染は地域での差が見られており、その地域ごとの状況に応じての対処が必要なのは言うまでもありません。新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく政府による緊急事態宣言(以下 緊急事態宣言)の解除後は検診を含む通常の内視鏡検査の再開は可能と考えますが、感染防護体制の状況に加えて、地域の感染状況、自治体独自に発出される新型コロナウィルスに関する通達や医師会等の意見も参考に再開ならびに新規予約をご検討ください。
CQ2. すでに検査予約済みの内視鏡検査に関してはどのように対応すべきでしょうか? |
Ans. CQ1と同様に、緊急事態宣言下では緊急性のない消化器内視鏡検査・治療に関しては延期を考慮することを推奨します2,3。被検者に電話や郵便等で連絡し、事情を説明し来院を控えるよう指示することが肝要と考えます。この「事情」については、物品不足・感染拡大など、各施設や地域の実情に沿ってご説明ください。緊急事態宣言の解除後は、検診を含む通常の内視鏡検査の再開は可能と考えますが、感染防護体制の状況に加えて、地域の感染状況や医師会等の意見も参考に再開をご検討ください。
CQ3. 緊急事態宣言下では延期を考慮すべき内視鏡検査・治療にはどのようなものがありますか? |
Ans. 以下の検査は緊急事態宣言下では延期を考慮すべきであると考えられます5。
CQ4. 緊急事態宣言下でも延期すべきではない内視鏡検査・治療にはどのようなものがありますか? |
Ans. 以下の場合は緊急事態宣言下でも延期すべきではないと考えます1,3,5。
これらの検査・治療の多くはクリニックで施行する頻度は低いと考えられますので、実施可能で感染対策がとれている施設に紹介されることが肝要と考えます。その際にはしっかりと新型コロナウイルス感染症に関する問診をとっていただいて、その内容を紹介先にお伝えいただけると病診連携がスムーズに運びます。
CQ5. 検査の前に患者に対応するスタッフ(受付等)でも防護策は必要でしょうか? |
Ans. 必要です。受付のスタッフも手指消毒に努め、マスクを着用し、可能であれば、フェースシールドまたはゴーグル(アイシールド付きマスクも可)着用を考慮してください。その上で、いわゆる社会的距離をしっかりと保ってください。目、口、鼻の防護が肝要です。コンビニエンスストアやスーパーマーケットのレジなどでみられるビニールカーテンの設置もご検討ください。
CQ6. 患者待合での注意事項について教えてください。 |
Ans. 以下を参考にしてください。
CQ7. 待合室の環境管理での注意事項について教えてください。 |
Ans. 以下を参考にしてください。
CQ8. 内視鏡検査・治療で来院した患者に伝えるべき事はありますか? |
Ans. 以下の内容をお伝えください。
CQ9. 患者が来院した際に、新型コロナウイルス感染症に対して事前に問診すべき項目とその時の注意点を教えてください。 |
Ans. 問診票での質問項目としては下記の項目を含めることを推奨します(どのような状況であってもしっかりとリスクについての情報を得ることは重要です)。
1.患者の状態について
①発熱、のどの痛み、咳や痰などの風邪の症状はありますか?
②疲れやすい、倦怠感などの症状はありますか?
③味覚や嗅覚に異常を感じますか?
④4−5日続く下痢等の消化器症状はありますか?
⑤現在の体温は?
2.感染リスクについて
①2週間以内に感染が拡大している地域*を訪問したり、そちらから来られた方と接触したことがありましたか?
*「感染者が拡大している地域」の定義は地域・施設によって異なりますので、その時の状況によって各施設でご判断ください。
②2週間以内に「新型コロナウイルス感染者やその疑いがある人」、または、「そのような人と接触した人」との接触がありましたか?
③2週間以内に海外に渡航されましたか?
④2週間以内に海外から帰国された方や、そうした方と接触した人との接触がありましたか?
⑤2週間以内にいつも同居されている方以外と会食をされましたか?
⑥2週間以内に、大規模なイベント、ライブハウス等の人の多いお店や接待を伴う外食店に行かれたことがありましたか?
⑦ワクチン接種はうけましたか?
未、1回、2回、3回、4回
3.新型ウイルス感染の既往について
① 新型コロナウイルスに感染したことがありますか?
② 新型コロナウイルスへ感染の治癒はどのようにして確認されましたか?
*厚生労働省が公開している治癒判断(退院基準)は以下の通りです。
1.症状がある方
1)発熱等の症状が出現してから10日間が経過し、かつ、発熱などの症状が軽快してから、72時間が経過。
2)10日間が経過していない場合でも、症状が軽快して24時間後にPCR等検査(抗原定量検査でも可能)を実施(1回目)し、陰性が確認されたら、1回目の検体採取後24時間後に再度PCR等検査を行い(2回目)、2回連続で陰性が確認された場合。なお、PCR等検査で陽性が確認された場合は、再度PCR等検査を2回行う。
2.症状のない方(無症状病原体保有者)
1)検査のための検体採取をした日から7日間が経過(オミクロン株の場合)。
2)検査のための検体をとった日から6日間が経過後、PCR等検査を実施(1回目)し、陰性が確認されたら、1回目の検体採取後24時間後に再度PCR等検査を行い(2回目)、2回連続で陰性が確認された場合。なお、PCR等検査で陽性が確認された場合は、再度PCR等検査を2回行う。
消化器内視鏡診療当日は検温することが肝要です。問診や体温測定の結果、すべての項目で該当しなければ感染の可能性が低いと判断してください。1項目でも該当する場合は感染が否定できないと考え、各施設の規則に従って対応してください。
なお、直接問診する場合には、最低でも 1m以上の距離をあけて、マスクやフェースシールド等を着用するなど個人防護に配慮した状態でお願いします7。この際にも、アクリル板などを介して問診することでより安全性が高まります。医療従事者の曝露リスクについては日本環境感染学会から報告されている『医療機関における新型コロナウイルス感染症への対応ガイド(第3版)』を参照してください。(http://www.kankyokansen.org/uploads/uploads/files/jsipc/COVID-19_taioguide3.pdf)
CQ10. 予約患者に対して、来院前にCQ9の質問を事前に行う事は推奨できますか? |
Ans. 推奨できます。来院前に問診にて感染リスクがわかれば、感染リスクのある患者の来院を防ぐことができます。この観点から、可能であれば来院前に電話等によりCQ9で示した問診を行い、感染のリスクが疑われた場合は、検査の延期をご検討ください7。延期できない場合には、実施可能で感染対策がとれている施設に紹介することご検討ください。自院で実施される場合には自院の感染防護策を確認するとともに、患者さんには内視鏡検査をうける当日までの毎日、体温と各種症状の記録をつけていただくことを推奨します。新規の予約時には体温を含む症状の日誌( 参考1_新型コロナウイルス感染症 内視鏡検査前症状日誌 (案))を渡し、それを検査日に持参してもらってください。
CQ11. 問診や体温測定で新型コロナウイルスの感染が否定できませんでした。どのように対応すべきでしょうか? |
Ans. 以下の対応を推奨します。
CQ12. 問診や体温測定で新型コロナウイルス感染者の可能性が低いと判断されました。どのように対応すべきでしょうか? |
Ans. 万全を期すためにも、内視鏡室や待合室にいる間にウイルスに曝露する可能性があることを伝えた上で検査・治療を行ってください。また、無症候感染例も報告されておりますことから、個人防護策等を含む感染対策には万全を期してください。なお、患者の状態や検査内容によっては他施設への紹介をご検討ください7。この点については、各地域の感染状況に応じた連携体制をあらかじめご確認ください。
CQ13. 問診にて感染リスクが低いと判断された患者の検査当日の同意取得は通常どおりの対応で宜しいでしょうか? |
Ans. 無症候感染例や発症前の潜伏期間中の患者からの感染も報告されております。同意を取る際には、マスクを着用し可能な限りの距離を保ってください。なお、地域や施設の状況に応じて、内視鏡検査室や待合室にいる間にウイルスに曝露する可能性についての同意をいただくこともご検討ください。
CQ14. 感染が疑わしいと考えられた患者からの検査当日の同意の取り方について教えてください。 |
Ans. 感染が疑わしいとされた患者で検査を施行すると判断した場合、患者には必ずマスクを着用してもらったうえで、同意書のサインには使い捨てのペンを使用して、マスク、フェースシールドと手袋を着用したスタッフが対応する必要があります1。
CQ15. 消化器内視鏡診療前の前処置に関して注意点を教えてください。 |
Ans. 以下の点にご注意ください。
CQ16. 感染リスクの低い患者での前処置での防護策はどうしたらよいでしょうか? |
Ans. 無症候の感染者もいることが知られており、スタッフは専用スクラブ、サージカルマスク、袖付きのガウン、手袋、フェースシールドまたはゴーグル(アイシールド付きマスクも可)、さらにキャップを着用することを推奨します。基本的には全ての患者さんが感染者であることを前提に対処する事が望ましいですが、各地域・施設によって感染状況や防護具在庫状況は異なります。その状況に応じた対応策をご検討ください。また、この判断には患者のリスク(参考5)もご考慮ください。基本的にハイリスクの場合は確実な防護策が必要となります。
CQ17. 感染リスクが疑われている患者に対する前処置はどのようにすべきでしょうか? |
Ans. 前処置室への患者出入においては、各患者の手指消毒などをしっかりと行うことを推奨します。また、前処置を行う際にはCQ16の防護に加えて、N95のマスクを使用するなど、前処置における感染の危険性を十分考慮ください。内視鏡の必要性を判断し、他施設への紹介もご検討ください。なお、咳嗽誘発、エアロゾル発生を防止する観点から、スプレーなどを用いた咽頭麻酔は行わず、ゼリー・ビスカス等での対処がよいと考えます。
CQ18. 内視鏡診療を実施するスタッフとしての基本的な考え方を教えてください。 |
Ans. 誰もがこのウイルスを保有している可能性があるとして対応してください。感染しないための個人防護策、感染させないための対策等々に関して、各施設のルールを遵守してください。特に目、鼻、口の防護が重要です。内視鏡室に入るスタッフの人数は最小限としてください2,7,9。このことは、防護具不足対策にも繋がります。。内視鏡診療に関わる全スタッフが各施設でのCOVID-19対策の取り決めついて十分に理解している必要があります10。
CQ19. 内視鏡診療はなぜ感染リスクを高めるのでしょうか? |
Ans. 新型コロナウイルスは気道分泌物および糞便から分離されます。そして、飛沫やエアロゾルを介しての感染が考えられます。上部消化管内視鏡では患者の咳き込みや嘔吐反射の際に、また、大腸内視鏡検査ではガス排出時などに、ウイルスを含む⾶沫やエアロゾルが拡散し、これらを介した感染が起こりえます11。その他、ウイルスが付着した手や手袋等から直接あるいは間接的に⽬、⿐、⼝の粘膜に付着する事もあり得ます。検査後のスコープや使用したその他の機器も感染源となり得ます。また、検査室に設置してある電子カルテ等のキーボードも感染源になる可能性もあります。
CQ20. 内視鏡スタッフの個人防護策について具体的に教えてください。 |
Ans. 新型コロナウイルス感染拡大下での内視鏡診療においては、⾶沫感染予防策と接触感染予防策を講じる必要があります。以下の点をご考慮ください5,9,12。 なお、個⼈防護具(Personal Protective Equipment、以下PPE)着脱については様々な動画を含む資料が公開されています(日本医師会 http://www.med.or.jp/doctor/kansen/novel_corona/009082.html など)。これらを参考に確実な着脱を心がけてください。
ここでは、すべての内視鏡検査・処置における最低限のPPEについてお示しします。感染陽性あるいは感染が疑われる症例に対する緊急内視鏡の場合は、CQ23を参照ください。なお、最新の報告14では、適切にPPEを使用することで、消化器内視鏡診療を介した内視鏡スタッフ(施行医・介助者等)への感染リスクはほとんどないことが示されています。
CQ21. 内視鏡スタッフの健康管理としてすべきことがあれば教えてください。 |
Ans. 以下の内容を推奨します。
CQ22. 内視鏡室における人の流れ、人員について工夫すべき事があれば教えてください。 |
Ans. 内視鏡室への人の出入を最小限にすることに努め、また、感染例や感染の可能性の高い症例に対するマニュアル(患者の待合での場所、使用する内視鏡室、リカバリー室での場所、患者の動線等々)を作成しておくことが肝要です7。特に、感染リスクの高い患者の動線については、予め施設内で決めておくことが必要です(ゾーニングの推奨)。また、内視鏡診療に関わるスタッフも最小限にすることを推奨します。
CQ23. 感染が疑われる患者や感染確定患者に対して緊急内視鏡を施行する場合にはどのように対応すべきでしょうか? |
Ans. 以下の対応を推奨します。
CQ24. 付き添いの家族への内視鏡室への入室に関してはどうしたらよいでしょうか? |
Ans. 基本的に付き添い家族は内視鏡室への入室は禁止すべきです。やむを得ず必要な場合は1名に限定し、付き添いの方が内視鏡室に入室する際にも、患者と同等の問診や体温測定を行なってください。また、付き添い者も感染リスクを負うことになるため9、術者と同等レベルの個人防護策を講じる必要があります。しかしPPEには限りがあるため、モニターがあれば、それを活用したり、内視鏡診療後の画像を紹介するなど施設の状況に応じた工夫が必要です。付き添いに関しては、内視鏡終了後のリカバリー室での感染リスクにも充分な注意が必要です。
CQ25. 感染が疑われる患者や感染確定患者での緊急内視鏡の施行後の術者が留意すべきことについて教えてください。 |
Ans. 施行後も引き続き感染予防対策を講じていくことが必要です。術者・スタッフのPPEは、内視鏡室を出る際に破棄します。なお、PPEを破棄する際にはウイルス飛散などの可能性について十分に留意してください。PPEを外す際には、手袋、ゴーグルあるいはフェースシールド、ガウン、マスクの順に外す、もしくは手袋とガウンを同時に外して最後にマスクを外す、などの方法がありますが、いずれも汚染面に触れないように注意して下さい。ガウンは汚染面が内側にくるようにたたんでまとめて廃棄して下さい。また、破棄後は肘までの手指洗浄を徹底して行うことが重要です。なお、PPEの具体的な外し方についてはCQ20を参照してください。また、スコープや再利用する機器は本学会ガイドライン16に従った洗浄をお願いします。
感染確定患者の内視鏡診療後は、個人防護策を徹底していれば曝露リスクは低リスクと判定されます。しかし、認識されない曝露があるかもしれないため、その日は業務から外れるなど各施設の基準に則り対応してください。以降は、自己モニタリングは必須であり、毎日の体温測定、症状の評価を行い無症状であることを確認してからその日の業務を始めてください17。
PPEの着脱法については、日本職業制御研究会などから具体例が公開されていますので参照してください。各施設においてPPEの着脱のトレーニングを行うことも効果的です。
https://www.safety.jrgoicp.org/ppe-3-usage-putonoff.html
CQ26. 感染が疑われる患者や感染確定患者での緊急内視鏡施行後の患者への対応で注意すべき点について教えてください。 |
Ans. 内視鏡終了後には患者にもマスクを着用させます。特に経口内視鏡を施行した場合では、咳嗽の頻度も高く、飛沫感染を予防するためにマスクを必ず着用させてください。また、感染が疑われる患者がリカバリー部屋を用いる場合は、必ず他の患者と隔離される別の部屋をご用意ください5。
CQ27. 感染が疑われる患者や感染確定患者での緊急内視鏡施行後の内視鏡機器の取り扱いについて注意すべき点について教えてください。 |
Ans. 終了後の内視鏡の運搬や洗浄に関しても十分な感染予防策をとることが重要です。スコープ類など洗浄にかけるものは、可能な限り密閉容器での運搬を推奨します。それが難しい場合は、台車にオイフのようなディスポーザブルシーツを敷き、その上にスコープを置き、さらにスコープの上にもディスポーザブルシーツをかけて周囲への汚染を最小限にすることに努めてください。また、洗浄を担当するスタッフも、飛散による汚染、感染防止のため、術者同様に長袖ガウン、マスク、ゴーグル(もしくはフェースシールド)、キャップ、二重手袋、シューズカバーを着用して、直接、口、目、鼻のみならず、肌への飛散がないようにしてください。洗浄終了後にスコープを取り出すときには、汚染されていない長袖ガウンに交換していることが望ましいと考えます。洗浄も手慣れたスタッフが施行することが必要です7。なお、PPEの着脱については十分に注意を払ってください。
CQ28. 感染が疑われる患者や感染確定患者での緊急内視鏡後のスコープの洗浄方法は何か特殊な方法がありますか? |
Ans. 特殊な方法はありません。スコープの洗浄は本学会の「消化器内視鏡の洗浄・消毒標準化にむけたガイドライン」に従って洗浄、消毒していただければ問題ありません16(https://www.jstage.jst.go.jp/article/gee/60/7/60_1370/_pdf/-char/ja)。洗浄履歴をきちんとつけることが肝要です。
CQ29. 感染が疑われる患者や感染確定患者での緊急内視鏡後の処置具等のcritical器具の洗浄方法は何か特殊な方法がありますか? |
Ans. 特殊な方法はありません。処置具はディスポーザブル製品を用いることを推奨しますが、再使用可能製品を使用する場合は、再使用可能製品メーカーの取扱い説明書に従った十分な洗浄・滅菌が必要であると考えます。
具体的な方法の一案として、ある施設での運用方法をご紹介いたします18。使用した器具は、使用後直ぐに蛋白分解酵素を溶解した水にしっかりと浸します。その後、鉗子ではカップなどをブラシで洗浄します。そして超音波洗浄機に30分かけます。流水ですすぎ、潤滑・防錆剤(スティンミルクs200など)に浸します。ガーゼで水分を拭き取り、滅菌パックにいれて、オートクレーブ等の滅菌処置を行います。
CQ30. 感染疑い、あるいは確定患者での緊急内視鏡後の内視鏡室はどのような処置が必要でしょうか? |
Ans. 内視鏡施行後は、ウイルスが飛沫しエアロゾル感染が起こりやすい状況となっていると考えるべきで、内視鏡室の扉は開放せずに十分な時間をかけて換気を行ってください。内視鏡室の換気回数の把握は、換気時間の参考になりますので調べておくことを推奨します(CQ23参照)。その後、室内を通常清掃し、部屋全体をアルコール等で清拭し消毒を行うことを推奨します5,6。また、先述のように、内視鏡室内の電子カルテキーボードの消毒も徹底してください。
CQ31. 消化器内視鏡診療の際に使用した、スコープ以外の機器の取り扱いについて教えてください。 |
Ans. 鉗子等のディスポのデバイス類は、各内視鏡室に備え付けの感染性廃棄容器に入れてください。そうした容器を開ける際にも注意が必要です。Critical器具で再利用される場合はCQ29を参考にしてください。それ以外のnon-criticalなもので再利用する物品に関しても本学会のガイドライン16に従い、洗浄後アルコール等での消毒をすることを推奨します。患者に触れた聴診器や体温計、⾎圧計等、パルスオキシメータ等の器材は、アルコールや抗ウイルス作⽤のある消毒剤含有のクロスでの清拭消毒を⾏います。検査台のシーツ、枕カバー、トロリー使用の紙シーツ類は毎回交換してください。シーツ類は感染汚染物として取り扱ってください。
CQ32. 消毒用のアルコールが入手困難となってしまいました。スコープの洗浄過程でのアルコールフラッシュができなくなりそうです。何かよい方法はありますでしょうか? |
Ans. 以下の内容を推奨いたします。
CQ33. 感染のリスクの少ない患者に消化器内視鏡診療を行ったところ、後日感染していることが判明しました。どのように対応したら宜しいでしょうか? |
Ans. 個人防護策および検査後の手指洗浄が徹底されていれば、感染のリスクは低いと考えられます14,17。ただし、認識されない曝露の可能性は否定できないため、無症候性の感染をしていることも想定しなくてはなりません。自己モニタリングだけではなく、施設の関係部署に連絡し対応を協議してください。検査受診者にすぐに連絡がつく体制を整えておくことが重要で、受診者には検査後に体調不良を自覚した場合には、すぐに施設に連絡をするように促す事が必要です。
個人防護策に不備があった場合(フェースシールド、マスク、袖付きのガウン、手袋のいずれかが未着用で、目・鼻・口や手指腕等のいずれかの防護が不完全であった場合)、濃厚接触者と判定されますので、内視鏡施行時の状況を含めて、各施設の対応部署、または保健所に報告し、消毒の方法や範囲、濃厚接触者への対応、業務継続の可否など事後措置について指示を仰いでください。曝露後濃厚接触した個人(他の医療スタッフ)がいれば同様の対応が必要です17。また、内視鏡室の消毒も不十分であれば、徹底して行う必要があります。
なお、「忙しさ」は感染のリスクに関わる重要なポイントです。消化器内視鏡診療が多くなることで、多忙・疲労がもたらす注意力低下により、PPE装着や手指洗浄などの感染防御がおろそかになる可能性があります。この点も考慮した診療スケジュールを立てることも重要と考えます。
CQ34. 消化器内視鏡診療終了後の病院・施設のスタッフにおける注意事項はありますか? |
Ans.政府のコロナ専門家会議から『居場所の切り替わり』についての注意喚起がなされています。すなわち、内視鏡診療中は感染対策に集中しているものの、休憩中など若干の気の緩みが関連したスタッフ間での感染拡大が知られています。職場の休憩、食事、更衣室などの環境を見直し、職員間での感染を広げないような注意が必要です。またカンファレンス等やスタッフ間での会話においてもマスクを着用し、なるべく短時間で済ませるようにしてください。さらに、パソコンやタブレットなどを介しての感染も知られていますので、接触感染対策も十分に行ってください。
CQ35. 消化器内視鏡診療終了後の被検者に対する注意事項はありますか? |
Ans.内視鏡診療当日に無症状であっても、施行翌日に症状が出現し感染が判明した事例も報告されております。被検者には内視鏡診療後も体調管理に注意をしていただき、検査後2週間以内に異変があれば、速やかに連絡してもらうことを伝えておくべきです。このことは院内感染対策としても極めて重要と考えます。
CQ36. 緊急事態宣言が発出されていない状況でも緊急性のない内視鏡診療は延期すべきでしょうか? |
Ans. 緊急性のない待機的な内視鏡診療であっても、長期にわたる休止は患者や検診受診者に重大な不利益を生む可能性は否定できません。従って、緊急事態宣言が発出されていない状況下では、ハイリスク条件(参考5)に該当しない方(無症候等により臨床的にCOVID-19を疑わない症例:ローリスク患者)への検診を含む通常内視鏡診療は、適切なトリアージと確実な感染防護策の実施下であれば通常通り施行することが可能です。しかしながら、感染拡大状況が続いている状況においては、待機的な内視鏡診療予定日の2週間以内には3密となる行動を避けてもらう、1日の内視鏡件数を少なく設定しておく、なども一案です。また、施設によっては内視鏡診療前のPCR検査も一考です。繰り返しますが、ローリスク患者であってもSARS-CoV-2陽性の可能性もあることをご理解いただいて、確実な感染防護策を取った上で施行してください。また、PCR検査で陰性であっても、偽陰性の可能性があることにも注意が必要です。
なお、ハイリスク患者に対して緊急の消化器内視鏡診療が必要な場合は、これまで通り各施設基準に則り施行してください。
CQ37. 感染拡大下における消化器内視鏡診療に際して留意すべき点はありますでしょうか? |
Ans. 現在でも感染拡大は続いています。無症状のウィルス感染例も多く報告されていますので、感染防護策を徹底し、緊張感をもって内視鏡診療を実施してください。受診者ならびにスタッフに対する事前の問診と健康チェックは確実に実施してください。また、感染状況は地域により差がありますので、実施すべき感染防御は異なります。感染防御具の供給状況も影響を与える要素ですが、学会としては、術者の安全管理にも十分考慮した体制整備が不可欠であると考えます。特にマスクに関しては、サージカルマスクの着用を標準的防護具として推奨しますが、無症状の感染者の存在もあるため、ローリスクの症例に対しても、地域の感染拡大状況を参考に、各施設のご事情等に応じてN95マスクの使用もご検討ください。ハイリスク患者に対しては、確実な感染防護の観点からN95マスクの使用が推奨されます。
CQ38. 新型コロナウイルスの既感染者や濃厚接触者に対する消化器内視鏡診療に際して留意すべき点を教えてください。 |
Ans. 厚生労働省の指針では、SARS-CoV-2感染が確認された有症状者では、発症日から10日間以上が経過し、かつ症状軽快後72時間経過した時点、あるいは10日間が経過していない場合でも、症状が軽快して24時間経過した後にPCRまたは抗原定量検査で24時間以上間隔をあけ、2回の陰性を確認できれば療養解除となります。また、無症状者では、検体採取日から7日間経過した時点(オミクロン株の場合)、もしくは検体採取日から6日間経過後、PCRまたは抗原定量検査で24時間以上間隔をあけ、2回の陰性を確認できれば療養解除となります(CQ9参照)。感染者との濃厚接触者は、7日間の自宅待機を経て臨床症状に問題がない、あるいは4日目及び5日目の抗原定性検査キットを用いた検査(注)で陰性を確認した場合は、感染低リスクと判断されます。濃厚接触者においては、療養解除がされれば内視鏡診療を行うことは可能です。しかしながら、既感染者においては療養解除から内視鏡診療が可能となるまでの間隔に関する明確なエビデンスはありません。侵襲性の高い内視鏡治療については外科治療に準ずるとすれば、数週間の間隔をあげることが良いと考えられます(CQ51を参照してください)。一方、通常の内視鏡検査であればそれほどの間隔を空けなくてもよいとは考えられますが、消化器内視鏡がエアロゾルを発生させる手技であることを考慮し、施設内でご検討ください。いずれの場合においても、療養解除後から内視鏡施行までの健康チェックおよび当日の問診や体温測定は必須です。
注)抗原定性検査については厚生労働省より下記の指針が出されております:『抗原定性キットは自費検査とし、薬事承認されたものを必ず用いること。令和4年1月5日付け厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部事務連絡「新型コロナウイルス感染症の感染急拡大が確認された場合の対応について」に基づき、事業者が社会機能維持者に使用するために購入した抗原定性検査キットを活用することは差し支えない。なお、無症状者に対する唾液検体を用いた抗原定性検査キットの使用は推奨されていないため、抗原定性検査キットを用いる場合は鼻咽頭検体又は鼻腔検体を用いること(自己採取する場合は鼻腔検体を推奨している)。』
CQ39. 新型コロナウィルス感染症は終息しておらず、また、今後も別の感染症でのPandemicもあり得ます。消化器内視鏡診療に際して今後どう対応すべきでしょうか? |
Ans. 日本消化器内視鏡学会が施行したアンケート結果19により、SARS-CoV2の感染広がりにける重大な問題として、感染防護具不足(特に長袖ガウン、マスク、フェイスシールド)があげられました。内視鏡実施施設においては、ある程度のPPEの備蓄が必要と考えます。マスク、フェースシールド、袖付きガウン、手袋、キャップ等のPPEの確保は、今後の内視鏡診療を行う際に必須と考えてください。手指や内視鏡室の消毒薬の確保も同様に必要です。その他、各施設での感染防護策の強化、感染対策規則の周知徹底、スタッフへの教育、可能であれば換気設備の改修、内視鏡室や待合のレイアウトの工夫・改修、等を行い、感染拡大の再来に備えておくことを是非ご考慮ください。長期的には、通常の消化器内視鏡診療体制が、あらゆる感染症に対応できる体制になることが理想と言えます。
CQ40. 経験の浅い内視鏡医が感染疑いあるいは確定患者に対して消化器内視鏡診療をしてもよいでしょうか? |
Ans. 施行医の技術が未熟な場合には、経口的な検査では、挿入がスムーズにいかず、被検者の誤嚥や反射的な咳嗽を誘発しやすく、飛沫感染のリスクを高めます。大腸内視鏡検査においても送気量が多くなりがちであり、排ガスの頻度も増加し、結果として飛沫感染のリスクが高くなります10。全体的な検査時間が長くなることも予想され、全ての面で感染リスクも上昇します。したがって、感染確定患者に対しては介助者も含めて十分経験を積んだ上級者が行うことを推奨します14。一方、感染疑い患者に対しては、検査時間が長くなる状況においては上級者への術者交代をご検討ください。
CQ41. 患者毎に袖付きのガウン等を交換していると在庫が直ぐに無くなってしまいます。本当に全例での感染防護具の交換が毎回必要でしょうか? |
Ans. 基本的には必要と考えます。それは、PPEが感染源になるためです。しかしながら、各地域・施設によって感染状況や防護具在庫状況は異なり、PPEがどの施設でも潤沢に使用できるとは限りません。以下をご参考に、施設ごとに具体的な方策を講じてください。
CQ42. N95マスクは供給に限りがあるため、再利用も可能と言われています。どのようにすればよいでしょうか? |
Ans. 内視鏡診療はエアロゾルが発生しやすくN95マスクを用いることが望ましいため、使用頻度も高いと考えます。使い捨てが好ましいですが、N95マスクの供給が安定しない状況においては、破棄せずに再利用に努めることが厚生労働省から提示されました。以下の方法が提示されております。
CQ43. 防護具不足に対する工夫はなにかありますか? |
Ans. 下記のようなことが報告されています。
CQ44. COVID-19の感染リスクを考えた場合、観察目的の上部消化管内視鏡検査では、咳や嘔吐反射が少ない経鼻内視鏡の方が適当と考えて宜しいでしょうか? |
Ans. いいえ、 経鼻内視鏡検査が経口内視鏡検査よりも感染リスクが低いかは明らかにされておりません。確かに、経鼻内視鏡検査では経口内視鏡検査に比較して咳や嘔吐反射が少なく、エアロゾル発生による感染のリスクは低く抑えられる可能性はあります。しかし、感染初期より副鼻腔や鼻腔にはウイルスは定着しており21、鼻腔からのswabでウイルスの検査が施行されているのもこのためです。また、経鼻内視鏡検査においては、前処置の際の反射による嚔(くしゃみ)や咳嗽にも十分な注意が必要です。また、使用したスコープは汚染されている可能性が高いとの認識を持ち、スコープの取り扱い(特に運搬)には十分な配慮が必要です。内視鏡検査の延期が難しい場合は、臭覚異常等の感染徴候以外の鼻腔の症状にも注意が必要です。その上で、経鼻、経口いずれにおいても感染のリスクがあることを十分認識してください。何れにしても、適切な防護策を取る必要があることは言うまでもありません。
CQ45. 消化器内視鏡施行時の飛沫対策としてどのような方法がありますでしょうか? |
Ans. SARS-CoV-2の感染経路は主として飛沫感染と接触感染ですが、各種ガイドラインにおいては、これまでのいくつかの研究結果により、可能性は低いものの空気感染についても注意喚起がなされています22,23。周知の通り、飛沫感染と空気感染のいずれにおいても換気が極めて重要ですが、消化器内視鏡診療にあたっては、内視鏡挿入部からの飛沫拡散への対策が重要となります。
上部消化管内視鏡施行時の飛沫散乱対策としては、いくつか考案されております。サージカルマスクに内視鏡スコープが通過できるような切り込みをいれて、マウスピースの上から患者さんにつけてもらう方法24,25、マウスピースに飛沫防止のためのシートをつける方法26、密閉性のある麻酔用マスクのようなものに内視鏡が通過できるような穴をあける方法27、などがあります。また、マウスピースの内視鏡挿入部に切れ込みの入ったスポンジを有し、患者さんの顔を覆うドレープを備えた飛沫低減機構付きマウスピース28やボックスタイプの内視鏡専用飛沫遮蔽機材29,30なども発売されていますし、同様の観点から被検者の頭部付近を透明なビニールで覆う方法31,32も考案されております。そのほか、患者の飛沫を吸引し特殊なフィルタで捕集する機器も販売されています33。大腸内視鏡に関しても、挿入部付近を覆う方法が考案され実用化に向けて検証されております。
しかしながら、各々の方法がどの程度の飛沫防止効果があるのか、そしてどの方法が優れているか等についての十分な検証はできておりません。このことはしっかりと理解しておく必要があります。いずれにしても、室内換気については十分にご配慮ください。
CQ46. 消化器内視鏡診療前に SARS-CoV-2検査は必要でしょうか? |
Ans. 消化器内視鏡診療前のPCR検査や抗原定量検査は、偽陰性の可能性を考慮する必要はありますが、院内感染防止に一定の効果が期待できます。従って、入院にて内視鏡診療を行う患者に対しては、院内感染リスクの問題もあり、入院時・内視鏡診療直前などにPCR検査や抗原定量検査を施行することもご一考ください。施設の事情により実施困難な場合は、無症候者の存在に留意して、できる範囲での対応をご検討ください。また、外来での内視鏡診療前のPCR検査等の実施については、各地の感染状況、検査の供給体制等鑑みて、各御施設でご判断下さい。なお、これらの検査は偽陰性の問題もありますので、陰性と判断されてもPPEをしっかりして検査を行うことが肝要です。
米国消化器病学会では、以下の指針を出していますので、参考にされてください34。
CQ47. 消化器内視鏡診療時に院外からの見学あるいは研修スタッフを同席させても良いですか?また院外からの内視鏡診療応援は依頼しても良いですか? |
Ans. 院外からの医師やコメディカルスタッフの見学や研修を受け入れる施設においては、院内の関係部署と相談し受け入れの可否を決定する必要があります。また見学・研修を目的に来られる方に関しては、来院前2週間は、感染リスクのある行動(感染が拡大している地域への訪問や、大規模なイベント・ライブハウス等の人の多いお店や接待を伴う外食店の利用)を控えることを徹底していただく必要があります。また見学・研修前に問診・体温測定を行うなどの健康管理も重要です。さらに見学・研修中には、患者に近距離で接しないようにする注意も必要です。
また、他施設からの消化器内視鏡診療の応援を依頼する場合には、医療従事者が感染源とならないように、個人の感染対策を徹底するとともに、依頼元と依頼先の施設の間で十分に協議を行い、お互いの施設での了承を得るようにしてください。この際にも、来院時の体温測定等の管理が必要となります。
CQ48. 新型コロナウィルスワクチンの接種が始まりました。ワクチン接種後での感染対策で何か変化はありますでしょうか? |
Ans. ワクチン接種は感染の終息に向けて効果が期待されます。しかし、全国民のワクチン接種完了の目処は立っておりません。また、現時点ではワクチンの効果は症状の発現や重症化を抑制しますが、感染そのものを阻止できるかは不明です。従って、上述した感染対策は継続し、引き続き緊張感を持って内視鏡検査を行う必要があります。
CQ49. 観察目的の消化器内視鏡検査と新型コロナワクチンの接種が予定される場合、両者の実施時期について注意すべき点はありますでしょうか? |
Ans. ワクチン接種後の観察目的に施行する消化器内視鏡検査(生検を含む)は、接種時期に関わらす施行可能です35。ワクチン接種後であっても、通常の検査と同様に患者の状態(副反応の有無を含む)を考慮して検査を施行してください。なお、検査中に発見されたポリープ等の病変の扱いは、各施設の通常の方針に従って対応してください。また、観察目的の内視鏡検査後のワクチン接種に関しては、検査後に特に問題がなければ接種は可能と判断できます。
CQ50. 消化器内視鏡治療と新型コロナワクチン接種の実施時期について注意すべき点はありますでしょうか? |
Ans. ワクチン接種後の消化器内視鏡治療は副反応の確認のため3日目以降で治療の侵襲度を考慮して予定して下さい。逆に、内視鏡治療後にワクチン接種をするのであれば、可能であれば1−2週経過後にしてください。
新型コロナワクチン接種と手術侵襲に関して、両者の実施間隔についてのエビデンスに基づく医学的に明確な基準はありませんが、ある一定期間を空けることが推奨されています。その理由としては、1)処置に伴って発熱等の症状が出た場合にワクチンの影響かどうかを区別するため、2)一般的なワクチンの十分な抗体産生には1〜2 週間程度を要することから、免疫抑制をきたす侵襲性の高い治療までには2 週間を空ける、等が考えられています36,37,38。従って、副反応の頻度が少なくなる接種後3日目以降であれば待期的手術は可能ではありますが、コロナワクチンの抗体産生といった観点から、免疫抑制をきたしかねない外科手術であればワクチン接種から14日以上空けることが望ましいとされています36。消化器内視鏡治療における侵襲性は様々ですが、ワクチン接種後の患者の副反応の有無を確認の上、患者の状態と内視鏡治療の侵襲性を考慮し、担当医の判断で治療を施行してください。しかしながら、治療の侵襲によっては、ワクチン接種による抗体産生が減少する可能性があるため、このことを患者さんに説明する事も必要とされています36。一方、緊急での処置が必要な場合はこの限りではなく、内視鏡治療を優先しなくてはなりません38。
内視鏡治療後のワクチン接種についても、特に定められた期間はありません。治療処置後の臨床経過に問題なければ、ワクチン接種は可能と考えます。なお、外科的手術後の場合は、一般的な待機期間である2週間が妥当ではないかという考えも示されております。これは、ワクチンの副反応への体力回復期間を考慮すること、また、手術治療を含め免疫抑制をきたす治療は、免疫機能の回復に 1〜2週間を要すること等がその理由として挙げられています。いずれにしても、施行した内視鏡治療による侵襲を勘案し、各施設でご検討ください。
なお、上記については明確なエビデンスに基づいたものではないことであり、施設の感染対策部門ともよく検討し、院内で共通認識をもって臨むことを推奨します36。
(この項の作成にあたっては、英国レスター大学教授の鈴木亨先生にもご指導いただきました。この場を借りて深謝致します。)
CQ51. コロナ感染後からどのくらいの間隔を空けて消化器内視鏡診療をすべきでしょうか? |
Ans. COVID-19の罹患後の緊急性のない内視鏡診療は、COVID-19感染の重症度と内視鏡の侵襲度を考慮して決定すべきですが、最低でも4週間は空ける事が望ましいと考えます。また、侵襲度の高い内視鏡治療に関しては、緊急性のない限り4−12週空けることが良いと考えます。
COVID-19の罹患後から消化器内視鏡診療を行うまでの期間について明確なエビデンスはありませんが、COVID-19蔓延初期における感染後の外科的治療についての研究では、治癒から7週間後に有意に術後合併症・死亡率が減るといった報告がなされており39、この観点からは待期的外科手術は7週間の間隔を空けることが考慮できます。しかしながら、現在のオミクロン株の状況に合致するか否かはわからず、また、内視鏡的治療の侵襲と外科的手術の侵襲度の違いもあるため、あくまで参考程度としてください。日本麻酔科学会では、COVID-19治癒後から待期的外科手術までの期間を、軽症から中等症患者では発症から4週間、集中治療を要した患者では12週間空けることを推奨しています36。内視鏡治療との関係においては、侵襲度や患者状態等を考慮し各施設でご検討下さい(CQ38参照)。なお、緊急治療が必要な際はこの限りではありません。治療を優先させて下さい。また、侵襲性の低い上下部内視鏡検査であれば、COVID-19治癒後は、対象となる患者さんの状況に応じた施設基準に則り施行して頂いて良いと考えます。
なお、無症状者のウイルス排出期間を検討した報告では、診断日から12日目以降も33%の症例でRNAは検出されていますが、診断8日目以降にウイルス分離可能な症例はなかったことが示されています40。このデータは内視鏡診療開始までの時期を考える際の重要なデータではありますが、ウイルス分離試験は採取方法・保管期間・保管状態等に大きく依存するため、陰性の結果が、検体採取時の感染者体内に感染性ウイルスが存在しないことを必ずしも保証するものではないことが本報告の制限として述べられています。内視鏡診療の観点からも今後のさらなる研究が期待されます。
参考1_新型コロナウイルス感染症 内視鏡検査前症状日誌 (案)
参考2_アルコールフラッシュを行うことができない場合の対応方法 オリンパス社製スコープ用
参考3_アルコールフラッシュを行うことができない場合の対応方法 富士フイルム社製スコープ用(2020年6月11日改訂)
参考4_アルコールフラッシュを行うことができない場合の対応方法 HOYA社製(PENTAX)スコープ用
参考5 消化器内視鏡診療における新型コロナ感染症のリスク分析
Transmission of SARS-CoV-2: implications for infection prevention precautions: scientific brief, 09 July 2020. World Health Organization. https://apps.who.int/iris/bitstream/handle/10665/333114/WHO-2019-nCoV-Sci_Brief-Transmission_modes-2020.3-eng.pdf?sequence=1&isAllowed=y
Lazaridis N, Skamnelos A, Murino A, et al. “Double-surgical-mask-with-slit” method: reducing exposure to aerosol generation at upper gastrointestinal endoscopy during the COVID-19 pandemic. Endoscopy 2020;52:928-929.
Endo H, Koike T, Masamune A. Novel device for preventing diffusion of aerosol droplets from subjects undergoing esophagogastroduodenoscopy during COVID-19 pandemic. Dig Endosc 2020.
Bojorquez A, Larequi FJZ, Betes MT, et al. Commercially available endoscopy facemasks to prevent aerosolizing spread of droplets during COVID-19 outbreak. Endosc Int Open 2020;8:E815-E816.
Maruyama H, Higashimori A, Yamamoto K, et al. Coronavirus disease outbreak: a simple infection prevention measure using a surgical mask during endoscopy. Endoscopy 2020 Aug 20. (online ahead of print)
医科用体外バキューム
http://www.forest-one.co.jp/free-100m/
内視鏡専用エアロゾルボックス
https://www.yomiuri.co.jp/local/oita/news/20200902-OYTNT50062/
Kikuchi D, Suzuki Y, Nomura K, et al. New safety measure for the endoscopic procedures during the COVID-19 pandemic: New STEP. VideoGIE. 12;634-636:2020.
内視鏡用ウイルス感染防御システム「Endo barrier(エンドバリア)」https://www.youtube.com/watch?v=O2smbdhv8Yg&t=11s
Sultan S, Siddique SM, Altayar O, et al. AGA Institute Rapid Review and Recommendations on the Role of Pre-Procedure SARS-CoV-2 Testing and Endoscopy. Gastroenterology 2020 Jul. (Online ahead of print)
COVID-19 Vaccination and Other Medical Procedures https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/vaccines/expect/other-procedures.html
公益社団法人 日本麻酔科学会「麻酔・手術を受ける患者さんへのワクチン接種の提言」 https://anesth.or.jp/img/upload/news/9cae8b8d50e6a6c89ea69bc34a8349f1.pdf
日本医学会連合 COVID-19ワクチンの普及と開発に関する提言 https://www.jmsf.or.jp/uploads/media/2021/04/20210426063706.pdf
For surgeons and surgical teams treating patients during COVID-19 – endorsement of the Academy statement. 22 January 2021
https://www.rcseng.ac.uk/coronavirus/vaccinated-patients-guidance/
▼過去の掲載実績
新型コロナウイルス感染症に関する消化器内視鏡診療についてのQ&A(2020年4月16日 第1版)
新型コロナウイルス感染症に関する消化器内視鏡診療についてのQ&A(2020年4月22日 第2版)
新型コロナウイルス感染症に関する消化器内視鏡診療についてのQ&A(2020年5月1日 第3版)
新型コロナウイルス感染症に関する消化器内視鏡診療についてのQ&A(2020年6月5日 第4版)
新型コロナウイルス感染症に関する消化器内視鏡診療についてのQ&A(2020年10月7日 第5版)
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