一般社団法人 日本消化器内視鏡学会 Japan Gastroenterological Endoscopy Society

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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への消化器内視鏡診療についての提言

〜緊急事態宣言解除に伴う、検診も含めた通常内視鏡診療再開を含めて〜

改訂第6版

日本消化器内視鏡学会 2020年5月29日

 

この度のアップデートに伴う前提言からの主な変更・追加点は以下の通りです。

詳細は本文をご参照ください。

1.全国的な緊急事態宣言解除に伴い、適切なトリアージと確実な感染防護策により、検診を含む通常消化器内視鏡診療の再開は可能。

2.SARS-CoV-2感染が確認された有症状者でも、発症日から2週間経過し、かつ症状軽快後72時間経過した場合、あるいは10日以上経過しPCR検査2回にて陰性が確認されている場合は、治癒していると考えて通常内視鏡検査は施行可能。無症候陽性者も同様。

 

 本提言の内容は日本消化器内視鏡学会が示したひとつの目安であり、それぞれの施設の対応を制限するものではありません。この提言を参考にして頂き、地域・施設の状況に応じて、各施設の関連部門等と協議し具体的な方針を決定して頂くことが重要です。なお、今回記しました内容については、情勢や政府からの情報更新等に伴い改訂される可能性がありますのでご承知おきください。

はじめに

 今般の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大に関して、消化器内視鏡診療の実施については、国・厚労省の方針や各施設の状況等を考慮した対応が求められています。令和2年4月16日に発出された新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言は、幸いにも、最近の新たな感染者数の減少傾向や、重症者に対応できる医療提供体制が整いつつあること等から、5月25日にはすべての都道府県で解除されました。また、これまでに内視鏡診療を介した内視鏡従事者及び被検者間の感染は世界的にも報告されていないことからも、適切なトリアージと確実な感染防護策をとって頂ければ、検診を含む通常消化器内視鏡診療の再開は可能と考えます。

 しかし、世界的には終息の見込みはたっておらず、新規感染者の報告も続いています。そして、第二波・第三波と感染拡大が再燃する可能性もあることには十分注意しなくてはなりません。全国的な緊急事態宣言解除に鑑みた消化器内視鏡診療について、以下の様に提言をアップデートいたします。

1.COVID-19の感染経路と消化器内視鏡診療について

 コロナウイルスの感染経路は飛沫感染、接触感染が基本であり、2019新型コロナウィルス(SARS-CoV-2)も主な感染経路は同様であるとされています[1][2]。消化器内視鏡診療にあたっては、特に経口・経鼻での施行では患者の咳嗽を誘発する場合もあり、エアロゾルによる医療従事者への感染も危惧されます[3]。内視鏡検査室など密閉された空間で、高濃度の汚染されたエアロゾルに一定程度の時間曝露した場合には、エアロゾルによるウイルスの伝播が高頻度で起こりうると考えられます。また、糞便からのウイルス排出の可能性も指摘されており[4][5]、下部消化管内視鏡検査における潜在的な感染リスクもあるとされております。

2.消化器内視鏡診療の施行について

 国のCOVID-19対策本部より、対策の基本方針が発表され日々アップデートされています(https://www.cas.go.jp/jp/influenza/novel_coronavirus.html)。4月16日には緊急事態宣言の対象区域が全国に拡大されましたが、5月25日にはすべての都道府県で解除されました。しかしながら、COVID-19への感染リスクが高いとされる消化器内視鏡診療においては、引き続きこれまでと同様に、慎重な対応が求められます。

 SARS-CoV-2のPCR検査や抗原検査陽性の方・以下の条件のいずれかに該当する方(COVID-19が確定した症例・臨床的にCOVID-19を疑う症例:内視鏡診療におけるハイリスク患者)[4][5][6][7][8][9][10] に対しては、緊急性のある場合においてのみ消化器内視鏡診療の施行を推奨します。

 なお、SARS-CoV-2感染が確認された有症状者でも、発症日から2週間経過し、かつ症状軽快後72時間経過した場合、あるいは10日以上経過しPCR検査2回にて陰性が確認されている場合は、治癒していると考えて通常内視鏡検査も施行可能です[11]。無症候陽性者に対しても同様に対処してください。しかしながら、いずれの場合においても、治癒判断後から内視鏡施行までの健康チェックと当日の問診や体温測定は必須と考えます。また、30日を超える長期ウイルス排出者の報告[12]もありますので、この点もご留意ください。

 条件に該当しない方(無症候等により臨床的にCOVID-19を疑わない症例:内視鏡診療におけるローリスク患者)への検診を含む通常内視鏡診療の再開においても、ローリスク患者であってもSARS-CoV-2陽性の可能性もあること[13][14]をご理解頂いて、確実な感染防護策を取った上で施行してください。

 なお、ハイリスク患者に対して緊急の消化器内視鏡診療が必要な場合は、これまで通り各施設基準に則り施行してください。

 

臨床的にCOVID-19を疑う症例

1)持続する感冒症状や発熱、息苦しさ(呼吸困難感)、強いだるさ(倦怠感)のいずれかがある場合。

2)2週間以内の新型コロナウイルスの患者やその疑いがある患者との濃厚接触歴。

3)明らかな誘因のない味覚・嗅覚異常。

4)明らかな誘因なく4−5日続く下痢等の消化器症状。

3.消化器内視鏡診療における防護策について

 緊急事態宣言が解除されても、無症状の感染例は一定数存在していることを念頭に、消化器内視鏡診療の際のスタンダードプリコーションは引き続き徹底してください。その上で、飛沫予防策と接触予防策をスタンダードプリコーションに追加して行うことを強く推奨します。

 フェースシールド付きマスク(またはゴーグル+マスク)・手袋・キャップ・ガウン(長袖)の着用、そして各種防護具は患者毎に取り換え、検査・治療終了後には手指から肘までのしっかりとした洗浄を行ってください。各施設の個人防護具等医療資源の状況に応じた実施可能な最大限の感染防御を実践してください。また、対面式のジャクソンスプレーなどを用いた咽頭局所麻酔は、咳嗽を誘発しエアロゾルを発生させる可能性がありますので、ビスカスでの対応など可及的にエアロゾルを発生させない配慮が必要となります。その上で、前処置施行に際しても上記の防護策をご考慮ください。また、消化器内視鏡診療終了後の内視鏡運搬や洗浄に際しては、十分な防護策の下で本学会の「消化器内視鏡の洗浄・消毒標準化にむけたガイドライン」[15]に則り対処してください。

 なお、COVID-19が確定されている患者に対して内視鏡検査・治療を行わなくてはならない場合、または内視鏡施行後に感染が判明した場合は、事前事後の対応策(内視鏡室の消毒、閉鎖の是非、閉鎖期間、再開の判断等々)については各施設で検討していただき、十分な対応をとってください[16]。また、COVID-19確定の方に対して使用した防護具は速やかに廃棄してください。

 なお、仮にハイリスク患者に対して内視鏡診療を行ったとしても、感染防護策および検査後の手指洗浄が徹底されていれば、感染のリスクは低いと判定されます。

 ※日本環境感染学会から感染対策に関する詳細なガイドが出ております。こちらのリンクからご確認ください。

4.消化器内視鏡診療に携わる医療従事者について

 各施設で、COVID-19に関する医療従事者側の就業基準が設けられていると思いますが、消化器内視鏡担当医もしくはメディカルスタッフが前述の1)-4)に該当する際には、内視鏡診療には携わらないでください。

5.消化器内視鏡室における対応と環境について

 内視鏡施行当日、内視鏡室入室前には確実な問診、そして体温測定を行うことを推奨します。体温および当日の身体症状の確認により、内視鏡施行の可否について慎重に判断してください。消化器内視鏡を予定する患者さんに対して、あらかじめ検温表を配り検査当日までの体温や異状等を記載して頂くことも、感染予防としては重要な対策です。また、内視鏡室において飛沫感染や接触感染を予防するために、すべての患者(付添い者等も含む)において安全な距離(できるだけ2m、最低でも1m)を保てる環境を整備し[17][18]、十分な換気に努めてください。

6.緊急事態宣言解除に伴う通常の内視鏡診療再開時の留意点について

 緊急性のない待機的な内視鏡検査や内視鏡検診に関しても、長期にわたる休止は患者や検診受診者に重大な不利益を生む可能性は否定できません。また、確実な感染防護下における内視鏡診療においては、手技を介した内視鏡従事者及び被検者間の感染は世界的にも報告されておりません。本学会としては、このたびの全国的な緊急事態宣言解除に伴い、適切なトリアージと確実な感染防護策をとって頂ければ、検診を含む通常消化器内視鏡診療の再開は可能と考えます。

 一方、先述の様に、無症状のウイルス感染例は依然として一定数存在しているため、再開にあたっては引き続き感染防護策を徹底し、政府や各自治体から発表される感染状況に注視しながら緊張感をもって内視鏡診療を実施してください。なお、内視鏡診療前のPCR検査は院内感染防止に一定の効果が期待できますが、偽陰性の可能性も考慮する必要があります。

 消化器内視鏡診療の再開あるいは適応拡大を考慮する際には、個人防護具の在庫等も含めた感染防止対策を再度確認し、各施設での対応をご検討ください。また、緊急時に依頼する他施設のバックアップ体制は、自院での通常内視鏡診療再開ならびに適応拡大を左右する重要な要素となりますので、あらかじめ確認してください。特に、内視鏡検診の再開に関しては、感染防護体制の状況に加えて、実施主体である自治体や企業、または医師会等の意見も参考にご検討ください。
 なお、今後、感染の第二波・第三波が来る可能性は否定できません。その際には緊急事態宣言期間中と同様の対応が必要となります。しかしながら、感染拡大を過度に恐れることなく内視鏡診療が実施できるよう、感染の勢いが低下してきた今こそ、各施設での感染防護策の強化、可能であれば換気設備の改修、検査室や待合のレイアウトの工夫・改修、個人防護具の在庫の確保、感染対策規則の周知徹底等を行い、感染拡大の再来に備えておくことを是非ご考慮ください。長期的には、通常の消化器内視鏡診療体制が、あらゆる感染症に対応できる体制であることが理想と言えます。

 

令和2年5月29日

一般社団法人日本消化器内視鏡学会

理事長 井上 晴洋

医療安全委員会

担当理事 入澤 篤志

*添付資料

 本文に示しましたように、消化器内視鏡診療を行う患者をハイリスク(PCR陽性患者、臨床症状・問診等から感染が疑われる患者)とローリスクに分類し、それに応じた対応について表1−3に記しております。こちらについても、現況に併せてアップデートしています。ご参照ください。

 

参考文献

[1]The National Health Commission of the People’s Republic of China. http://www.nhc.gov.cn/xcs/zhengcwj/202002/8334a8326dd94d329df351d7da8aefc2.shtml

[2] Yu IT, Li Y, Wong TW, et al. Evidence of airborne transmission of the severe acute respiratory syndrome virus. N Engl J Med. 2004;350:1731–1739.

[3] Wang J, Du G. COVID-19 may transmit through aerosol. Ir J Med Sci. 2020 [Epub ahead of print]

[4] Gu J, Han B, Wang J. COVID-19: Gastrointestinal manifestations and potential fecal-oral transmission. Gastroenterology. 2020 [Epub ahead of print]

[5] Wong SH, Lui RN, Sung JJ. Covid-19 and the Digestive System. J Gastroenterol Hepatol. 2020 [Epub ahead of print]

[6] Guan WJ, Ni ZY, Hu Y, et al. China Medical Treatment Expert Group for Covid-19. Clinical Characteristics of Coronavirus Disease 2019 in China. N Engl J Med. 2020 [Epub ahead of print]

[7] Huang C, Wang Y, Li X, et al. Clinical features of patients infected with 2019 novel coronavirus in Wuhan, China. Lancet. 2020;395(10223):497-506.

[8] Jin X, Lian JS, Hu JH, Gao J et al. Epidemiological, clinical and virological characteristics of 74 cases of coronavirus-infected disease 2019 (COVID-19) with gastrointestinal symptoms. Gut. 2020 [Epub ahead of print]

[9] Giacomelli A, Pezzati L, Conti F, et al. Self-reported olfactory and taste disorders in SARS-CoV-2 patients: a cross-sectional study. Clin Infect Dis. 2020 [Epub ahead of print]

[10] Tian Y, Rong L, Nian W et al. Review article: gastrointestinal features in COVID-19 and the possibility of faecal transmission. Aliment Pharmacol Ther. 2020 [Epub ahead of print]

[11] https://www.mhlw.go.jp/content/000635345.pdf

[12] Li N, Wang X, Lv T. Prolonged SARS-CoV-2 RNA Shedding: Not a Rare Phenomenon Affiliations expand. J Med Viro 2020. [Online ahead of print.]

[13] Zhu J, Zhong Z, Ji P, et al. Clinicopathological characteristics of 8697 patients with COVID-19 in China: a meta-analysis. Fam Med Community Health. 2020 ;8. pii: e000406.
[14] Zhu J, Ji P, Pang J, et al. Clinical characteristics of 3,062 COVID-19 patients: a meta-analysis. J Med Virol. 2020 [Epub ahead of print]

[15] Iwakiri R, Tanaka K, Gotoda T, et al. Guidelines for standardizing cleansing and disinfection of gastrointestinal endoscopes. Dig Endosc. 2019 ;31:477-497.

[16] Dexter F, Parra MC, Brown JR, et al. Perioperative COVID-19 Defense: An Evidence-Based Approach for Optimization of Infection Control and Operating Room Management. Anesth Analg. 2020 [Epub ahead of print]

[17] Chiu PWY, Ng AC, Inoue H et al. Practice of endoscopy during COVID-19 pandemic: position statements of the Asian Pacific Society for Digestive Endoscopy (APSDE-COVID statements). GUT 2020 [Epub ahead of print]

[18] https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_newlifestyle.html

 

▼過去の掲載実績

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への消化器内視鏡診療の対応について(2020年3月25日)

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への消化器内視鏡診療の対応について(2020年3月30日更新)

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への消化器内視鏡診療についての提言(2020年4月6日 第2版)

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への消化器内視鏡診療についての提言(2020年4月9日 第3版)

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への消化器内視鏡診療についての提言(2020年4月22日 第4版)

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への消化器内視鏡診療についての提言(2020年5月18日 第5版)

 

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