藤崎順子(がん研有明病院)
兒玉雅明(大分大学)
上山浩也(順天堂大学)
2021年5月16日 13:20~15:50
リーガロイヤルホテル広島 「音戸」(第 7 会場)
上山 浩也 (順天堂大学医学部 消化器内科)
司会:伊藤 公訓 (広島大学 総合内科・総合診療科)
ピロリ菌除菌10年後からの世界:変化する胃癌リスク
水野 元夫(倉敷中央病院 消化器内科)
司会:八尾 建史 (福岡大学筑紫病院 内視鏡部)
若槻 俊之、梅川 剛、光宗 真佑、永原 華子、佐柿 司、須藤 和樹、福本 康史、古立 真一、
清水 慎一、万波 智彦
国立病院機構岡山医療センター 消化器内科
2.H.pylori未感染胃の幽門腺領域における未分化型浸潤癌(発表 4分、質疑 1分)
佐々木 亜希子, 市田 親正, 隅田 ちひろ, 伊藤 絢子
湘南鎌倉総合病院 消化器病センター
3.Helicobacter pylori未感染胃にみられるRaspberry様外観腫瘍の治療に関する考察
(発表 6分、質疑 2分)
吉村 大輔1) 2)、吉村 理江3)、落合 利彰2)、原田 直彦1)
国立病院機構九州医療センター 消化器内科1)、済生会福岡総合病院 消化器内科2)、
人間ドックセンターウェルネス3)
4.当院におけるラズベリー様腺窩上皮型胃癌の臨床病理学的・内視鏡的特徴
(発表 6分、質疑 2分)
赤澤 陽一1)、上山 浩也1)、内田 涼太1)、宇都宮 尚典1)、阿部 大樹1)、沖 翔太朗1)、
鈴木信之1)、池田 厚1)、谷田 貝昴1)、小森 寛之1)、竹田 努1)、松本 紘平1)、
上田 久美子1)、松本 健史1)、浅岡 大介1)、北條 麻理子1)、八尾 隆史2)、
永原 章仁1)
順天堂大学医学部 消化器内科1)、順天堂大学大学院医学研究科 人体病理病態学2)
司会:吉村 大輔(済生会福岡総合病院 消化器内科)
5.2年経過した胃底腺領域の胃型低異形度分化型胃癌の症例(発表 4分、質疑 1分)
植木 信江1)、渡邊 嘉行1)、小高康裕、三島圭介2)、松谷毅2)、阿川周平1)、山脇博士1)、
二神生爾
日本医科大学武蔵小杉病院消化器内科1)、日本医科大学武蔵小杉病院消化器外科2)
6.H.pylori未感染胃癌(分化型早期胃癌)の臨床病理学的・分子病理学的特徴(発表 6分、質疑 2分)
赤澤 陽一1)、上山 浩也1)、内田 涼太1)、宇都宮 尚典1)、阿部 大樹1)、沖翔 太朗1)、
鈴木 信之1)、池田 厚1)、谷田貝 昴1)、小森 寛之1)、竹田 努1)、松本 紘平1)、
上田 久美子1)、松本 健史1)、浅岡 大介1)、北條 麻理子1)、八尾 隆史2)、
永原 章仁1)
順天堂大学医学部 消化器内科1)、順天堂大学大学院医学研究科 人体病理病態学2)
7.pylori未感染胃粘膜に生じた腸型分化型胃癌の質的診断にLBCとWOS陽性所見が有用であった1例
(発表 4分、質疑 1分)
秋山 英俊1)、上尾 哲也1)、高橋 晴彦1)、 綿田 雅秀2)、 米増 博俊3)、 村上 和成4)
大分赤十字病院 消化器内科1)、 臼杵医師会立コスモス病院 消化器内科2)、
大分赤十字病院 病理診断科3)、大分大学医学部付属病院消化器内科学講座4)
8.幽門腺粘膜に発生したpylori未感染早期胃癌:拡大内視鏡所見・病理組織学的所見の解析(発表 6分、質疑 2分)
今村 健太郎1),八尾 建史1),宇野 駿太郎1),田邉 寛2),二村 聡2) ,金光 高雄1),小野 陽一郎1),
宮岡 正喜1) ,植木 敏晴3),原岡 誠司2) ,岩下 明德2)4)
福岡大学筑紫病院 内視鏡部1)、同病理診断科2)、同消化器内科3)、 AII病理画像研究所4)
司会:小林 正明 (新潟県立がんセンター新潟病院内科)
9.HP陰性の前庭部に発症する分化型癌について(発表 6分、質疑 2分)
瀧田 麻衣子1) 、大圃 研1) 、松橋 信行2) 、増田 芳雄3) 、森川 鉄平3)
NTT東日本関東病院 消化管内科1) 、消化器内科2) 、病理診断科3)
10.Helicobacter pylori未感染胃粘膜における腸型胃癌の臨床病理学的特徴
(発表 6分、質疑 2分)
柴垣 広太郎1)、板脇 綾子2)、宮岡 洋一3)
島根大学医学部附属病院 光学医療診療部1)、同 消化器内科2)、島根県立中央病院 内視鏡科3)
東江 大樹1)、新里 雅人1)、神田 修平2)、岩泉 守哉3)、山田 英孝4)、椙村 春彦4)、外間 昭5)
沖縄県立宮古病院 消化器内科1)、外科2) 、浜松医科大学 臨床検査医学3)、腫瘍病理学4)、琉球大学病院 光学医療診療部5)
2.H.pylori除菌後の長期的な血清学的、組織学的変化の検討(発表 6分、質疑 2分)
福田 健介、松成 修、岡本 和久、小川 竜、水上 一弘、沖本 忠義、兒玉 雅明、村上 和成
大分大学医学部消化器内学講座
司会:八木 一芳 (新潟大学地域医療教育センター・魚沼基幹病院 消化器内科)
3.除菌後進行胃癌の臨床病理学的特徴の検討(発表 6分、質疑 2分)
田中 匡実、菊池 大輔、布袋屋 修
虎の門病院
4.過去画像の検討が可能であった除菌後浸潤癌(発表 6分、質疑 2分)
小林 正明1)、丹羽 佑輔1)、高橋 祥史1)、今井 径卓1)、塩路 和彦1)、曾澤 雅樹2)、松木淳2)、
薮崎 裕2)、中川 悟2)
新潟県立がんセンター新潟病院内科1)、同 消化器外科2)
5.Helicobacter pylori 除菌後スキルス胃癌の長期予後に関する検討(発表 6分、質疑 2分)
並河 健、藤崎順子
がん研究会有明病院 消化器内科 上部消化管内科
6.網羅的遺伝子発現解析による除菌後胃癌における胃癌発症メカニズムの解明
(発表 6分、質疑 2分)
小畑 美穂、坂口 賀基、高橋 悠、辻 陽介、山道 信毅、小池 和彦
東京大学医学部附属病院 消化器内科
兒玉 雅明(大分大学医学部消化器内科・福祉健康科学部)
上村 直実(国立国際医療研究センター 国府台病院)
第一部
1.Helicobacter pylori未感染胃癌の臨床病理学的特徴
演者:若槻俊之、梅川剛、光宗真佑、永原華子、佐柿司、須藤和樹、福本康史、古立真一、
清水慎一、万波智彦
所属機関:国立病院機構岡山医療センター消化器内科
連絡先:tel 086-294-9911 fax 086-294-9255
E-mail:t_wakatsuki0530@yahoo.co.jp
【背景と目的】Helicobacter pylor(以下HP)感染率の低下に伴い、HP未感染胃癌に遭遇する頻度が増えている。従来、HP未感染胃癌では印環細胞癌が多いとされてきたが、近年では分化型癌の報告が増加している。そこで、市中病院におけるHP未感染胃癌の頻度とその臨床病理学的特徴を解明することを目的とした。
【対象と方法】2014年12月から2021年1月までに当院にてESD適応と判断された早期胃癌371例のうち、HP未感染と診断した9症例を対象とした(接合部癌1例は除外した)。HP未感染の定義としては、①内視鏡所見でHP未感染の特徴を認め、②HP除菌歴がなく、③HP感染診断検査のうち2項目以上行ったすべてが陰性であること、この3つの条件を満たすものとした。
【結果】HP未感染胃癌の頻度は2.4%(9病変/371病変)であった。対象9例の内訳は男性/女性:4/5、平均年齢は61.6歳、病変部位はU/M/L:3/2/4、肉眼型はIIa/IIc:4/5、色調は発赤/褪色:6/3、平均腫瘍径は6.6mm(4-20)、組織型は分化型/未分化型:7/2であった。病理組織型別の内訳は、胃底腺領域に局在するラズベリー様腺窩上皮型胃癌が3例、胃底腺型胃癌が1例、胃底腺幽門腺境界領域の印環細胞癌が2例、幽門腺領域の分化型腺癌が3例であり、深達度はすべてT1a(M)であった。
【考察】当院におけるHP未感染胃癌では未分化型よりも分化型癌が多かった。病理組織型別にみると、それぞれの発生部位には一定の傾向がみられた。HP未感染胃癌を効率的かつ効果的に発見するためには、その特徴的な内視鏡像と発生部位を把握したうえで観察を行う必要がある。
2.H.pylori未感染胃の幽門腺領域における未分化型浸潤癌
演者:◯佐々木亜希子, 市田親正, 隅田ちひろ, 伊藤絢子
所属機関:湘南鎌倉総合病院 消化器病センター
当施設で診断したH.pylori未感染胃腫瘍のうち、幽門腺領域の未分化型浸潤癌の症例を提示する。
症例は39歳男性。黒色便を主訴に近医を受診した。2年前に胆嚢ポリープの腹腔鏡下胆嚢摘出術の既往があり、20本/日の喫煙歴がある。胃癌を含めた癌の家族歴はない。上部消化管内視鏡検査で、胃前庭部後壁に、径15mm大の粘膜下腫瘍様の立ち上がりで潰瘍を伴う腫瘍性病変を認めた。背景粘膜はRACが保たれ内視鏡的に萎縮は認めず、穹窿部まで及ぶ胆汁逆流を認めた。病変頂部の潰瘍周囲は強発赤調の再生上皮で覆われ、病変の隆起の立ち上がりに太く拡張した血管が見られた。NBI拡大観察では潰瘍辺縁に蛇行したcorkscrew patternの血管がみられ、血管密度は低下しwhite zoneは不鮮明化していた。EUSでは第2層を主座とする低エコー領域を認め、第3層は菲薄化するも保たれており、粘膜下層浸潤が疑われた。生検にて低分化腺癌が検出された。除菌歴はなく、H.pylori IgG抗体陰性(EIA法3.0U/ml未満)、尿素呼気試験陰性であり、H.pylori未感染胃とした。幽門側胃切除術を施行し、病理組織学的には poorly differentiated adenocarcinoma, L, 0-Ⅱc, 20×15mm, por2>sig, pT1b(SM), INFc, Ly0, V0, pPM0, pDM0, pN0, pT1bN0M0, StageⅠAの診断となった。癌細胞は粘膜にわずかに見られ、粘膜下層でびまん性に浸潤し、固有筋層には近接するも浸潤はなく、間質には繊維組織を伴っていた。
当施設では幽門腺領域の未分化型浸潤癌を2例経験し(1例は第1回研究会で報告)、いずれもL領域後壁の粘膜下腫瘍様の立ち上がりを有する低分化腺癌であった。両病変の相異についても比較し、報告する。
3.Helicobacter pylori未感染胃にみられるRaspberry様外観腫瘍の治療に関する考察
吉村大輔1)2),吉村理江3),落合利彰2),原田直彦1)
1) 国立病院機構九州医療センター 消化器内科、2) 済生会福岡総合病院 消化器内科、3) 人間ドックセンターウェルネス
【背景】Helicobacter pylori(以下Hp)未感染胃の胃底腺領域,特に大彎側に小型で表面発赤乳頭状の山田Ⅱ〜Ⅳ型ポリープ,いわゆるRaspberry様外観腫瘍が見られることがShibagakiらにより報告されて以来,急速にその認知が進んでいる.その大半がスクリーニング内視鏡で無症状の比較的若年者に診断され,病理組織学的には表層の腺窩上皮に異形成ないし高分化型腺癌を認めることがあり,Hp未感染胃腫瘍の一つとして注目される.低異型度腫瘍であることから内視鏡診断では過形成,腺腫,腺癌(異形成)の鑑別が困難であり,診断には病変の一括切除が望ましい.一方で自施設では,(1)生検後の再検時にしばしば腫瘍が消失している,(2)若年のためEMR/ESDのための入院が困難,という2つの問題点が認められていた.
【方法】2014年4月から2020年1月の期間に経験したHp未感染胃に認めるRaspberry様外観腫瘍について治療方法の変遷を検証した.Hp未感染の定義は,内視鏡的および組織学的な粘膜萎縮がなく,血清Hp IgG抗体(EIA法),尿素呼気試験,便中抗原,培養,検鏡のいずれか二つ以上の感染検査が総て陰性,とした.
【結果】期間中に経験した症例は11例,男女比7:4,平均年齢49.5歳で,全例が腺窩上皮のみに腫瘍を認めた.うち4例は初回検査生検後の精査治療時に病変が消失していた.2例は日帰りでcold forceps polypectomyを施行したが,切除検体の病理所見では粘膜全層の切除が確認できなかった.以上より2016年以降は日帰りでのcold snare polypectomy(CSP)を施行している.粘膜全層の切除が可能かつアーチファクトが少ない検体が得られ,これまで出血の偶発症を認めていない.
【結語】Hp未感染胃のRaspberry様外観腫瘍の簡便かつ安全な治療法としてCSPは有用と思われた.
4.当院におけるラズベリー様腺窩上皮型胃癌の臨床病理学的・内視鏡的特徴
池田厚1,上山浩也1,内田涼太1,宇都宮尚典1,阿部大樹1,沖翔太朗1,鈴木信之1,池田厚1,谷田貝昴1,
赤澤陽一1小森寛之1,竹田努1,松本紘平1,上田久美子1,松本健史1,浅岡大介1,北條麻理子1,
八尾隆史2,永原章仁1
1順天堂大学医学部 消化器内科、2順天堂大学大学院医学研究科 人体病理病態学
TEL:03-3813-3111,FAX:03-3813-8862
E-mail:psyro@juntendo.ac.jp
【目的】近年,Hp未感染胃癌としてラズベリー様腺窩上皮型胃癌(以下,ラズベリー型胃癌)に関する報告が散見されるが,ラズベリー型胃癌の臨床病理学的・内視鏡的特徴に関して十分な検討はなされていない.本研究では,当院におけるラズベリー型胃癌の臨床病理学的・内視鏡的特徴を明らかにすることを目的とした.
【方法】2009年~2020年に当院で内視鏡的切除もしくは生検が施行されたラズベリー型胃癌を集積し,臨床病理学的・内視鏡的解析を行った.
【結果】ラズベリー型胃癌は30病変(28症例),平均年齢は55.7歳,男性(78.6%),喫煙者(78.6%)であった.平均腫瘍径3.3mm(2-6mm),病変部位はU20/M10/L0, GC29/LC0/Ant0/Post1であり,小型の病変でU領域大弯に多かった.全例がM癌であり,治癒切除であった(CFP10/EMR15/生検後消失3).免疫染色では全例がMUC5AC陽性,Ki-67は平均51%と高値,p53の過剰発現は認めなかった.白色光観察では,均一な強発赤(93%),結節状・顆粒状構造(100%),腫瘍辺縁に白色調粘膜(63%)を認め, 背景粘膜にFGPの併存(70%)を認めた.NBI併用拡大観察では全病変に明瞭なDLを認め,MCEは類円形~弧状の上皮内血管patternであり,MESDA-GではIMVPにより多くの病変が癌と診断可能であったが(78.2%),MVが視認困難な病変や微小病変では癌と診断することは困難であった.また,MCE内側の形状不整(66.6%)が癌の補助診断に有用でありIMVPと良く相関していた.
【結語】ラズベリー型胃癌は,既報通りの典型的な病変が多いが,非典型例も存在しており,NBI併用拡大観察を含む詳細な内視鏡診断が必要であり,生検後に消失する可能性もあるため内視鏡診断後には生検よりも完全切除が望まれる.
5.2年経過した胃底腺領域の胃型低異形度分化型胃癌の症例
植木信江¹、渡邊嘉行、小高康裕、三島圭介²、松谷毅、阿川周平¹、山脇博士、二神生爾
日本医科大学武蔵小杉病院消化器内科¹、日本医科大学武蔵小杉病院消化器外科²
H.p未感染胃癌は部位別に①噴門部・食道胃接合部腺癌、②胃底腺領域に発生する胃型形質、③胃底腺と幽門腺境界領域にみられる印環細胞癌、④幽門腺領域に好発する高分化型腺癌の4つのタイプがあると報告されている。今回、2年の経過を追えた胃型低異形度腺癌の症例を経験したので報告する。
症例は30代男性。2018年に健診の胃透視にて体部大弯から後壁に約5×3cm大の隆起性病変を指摘された。内視鏡検査では、体上中部大弯後壁よりに白色調の隆起性病変を認め、生検ではGroup1であったため、経過観察となっていた。2020年に内視鏡検査を施行し、前回より増大した約7×4㎝大の白色調の隆起性病変を同部位に認めた。生検でGroup3であったため、当院に紹介となった。当院での内視鏡検査では、胃全体はRAC陽性のH.p未感染と思われる胃粘膜を呈し(H.pIgG抗体<3)、病変は2年前と比較して、隆起の口側に脱落したようにくぼんでいる部分があり、発赤を伴っていた。発赤部分の生検にてtub1と診断され、腹腔鏡下幽門側胃切除、D2リンパ節郭清を施行した。病理結果はM, Post-Gre, type1+0-Ⅱa, 93×62mm (20×17mm), pT1b2(0.9mm), Ly0, V0, pPM0, pDM0, pN1(2/23)であった。白色隆起の部分はgastric type adenomaで、口側の0-Ⅱa部分はP53がびまん性に強陽性で、Ki-67もほぼ全層性に陽性であった。MUC-5ACが70%程度、MUC-6が30%程度の細胞に陽性、MUC-2は陰性であった。遺伝子検査の検討とともに報告する。
6.H.pylori未感染胃癌(分化型早期胃癌)の臨床病理学的・分子病理学的特徴
赤澤陽一1、上山浩也1、内田涼太1、宇都宮尚典1、阿部大樹1、沖翔太朗1、鈴木信之1、池田厚1、
谷田貝昴1、小森寛之1、竹田努1、松本紘平1、上田久美子1、松本健史1、浅岡大介1、
北條麻理子1、八尾隆史2、永原章仁1
1順天堂大学医学部 消化器内科、2順天堂大学大学院医学研究科 人体病理病態学
TEL:03-3813-3111、FAX:03-3813-8862
E-mail:yakazawa@juntendo.ac.jp
【目的】H.pylori未感染胃に発生する分化型胃癌については、その希少性から未だ不明な点が多く、臨床病理学的・分子病理学的特徴について十分に検討されていないのが現状である。本研究では、H.pylori未感染胃癌(分化型早期胃癌)における臨床的・分子病理学的特徴を明らかにすることを目的とした。
【方法】2009年~2019年に当院で内視鏡的切除された早期胃癌970病変よりH.pylori未感染分化型腺癌を抽出し、臨床病理学的解析と次世代シーケンサー(NGS)を用いた分子病理学的解析を行った。
【結果】H.pylori未感染分化型胃癌は56病変(5.8%)、病理組織学的に胃底腺型胃癌関連腫瘍(41病変)、低異型度分化型腺癌(16病変)の2群に分類された。胃底腺型胃癌関連腫瘍は、U領域(U/M/L=33/7/1)、白色調(W/R=29/12)、隆起型(隆起型/平坦型/陥凹型=28/9/4)、SM浸潤例(M/SM=13/28)が多く、胃底腺型腺癌と胃底腺粘膜型腺癌の2つに亜分類された。NGSの解析結果ではGNAS変異率が高率であった。低異型度分化型腺癌は発赤調(W/R=3/13)が多く、全例が粘膜内癌であり、APC変異率が高率であった。内視鏡所見と粘液形質別に①胃型形質の低異型度高分化腺癌(白色調扁平隆起型)、②胃型形質の低異型度高分化腺癌(raspberry様・発赤調隆起型)、③胃腸混合型形質の低異型度高分化腺癌の3つに亜分類された。
【結語】H.pylori未感染分化型胃癌は胃底腺型胃癌関連腫瘍、低異型度分化型腺癌の2つのタイプに分類され、各サブタイプにおける臨床病理学的・分子病理学的特徴が明らかとなった。
7.Hpylori未感染胃粘膜に生じた腸型分化型胃癌の質的診断にLBCとWOS陽性所見が有用であった1例
秋山 英俊1),上尾 哲也1),高橋 晴彦1), 綿田 雅秀2), 米増 博俊3), 村上 和成4)
大分赤十字病院 消化器内科1), 臼杵医師会立コスモス病院 消化器内科2), 大分赤十字病院 病理診断科3), 大分大学医学部付属病院消化器内科学講座4)
【はじめに】Helicobacter pylori(H. pylori)未感染胃粘膜に発生する胃癌の中には, 極めてまれに腸型分化型胃癌が存在する. しかし, その質的診断が可能であった報告はない. 今回, H. pylori未感染胃粘膜に生じた腸型分化型胃癌の質的診断にLBCとWOS陽性所見が有用であった1例を経験したので報告する。
【症例】34歳男性. 20XX年10月に検診の胃X線造影検査異常の精査目的で上部消化管内視鏡検査を施行され, 幽門前庭部の粘膜不整病変より生検でGroup 3と診断され当科へ紹介となる. 上部消化管内視鏡検査で背景粘膜は, 萎縮なくRAC陽性で,血清H. pylori抗体および便中H. pylori抗原が陰性, 除菌歴もなくH. pylori未感染と診断した.白色光通常観察にて前庭部後壁に発赤調の中心部にびらん様の陥凹伴う10mm程度の隆起性病変を認めるも, 癌か非癌の質的診断が困難であった. びらんの改善目的にPCAB投与し, 再評価を行ったところ, 病変は隆起がやや平坦化し、褪色調に変化していた. NBI拡大併用観察では irregular microvascular pattern plus irregular microsurface pattern with a DLと判定できた. 腫瘍の一部にLBCおよびWOSが出現しており, 小腸型の分化型胃癌を強く疑った. 診断的加療目的に内視鏡的胃粘膜下層切開剥離術にて一括切除した. 病理診断はL, Ant, Type 0-IIa+IIc, 9 x 9mm, tub1, pT1a (M), pUL (0), Ly (0), V(0), pHM0, pVM0であった。免疫組織学的染色にてMUC2, CD10陽性, MUC5AC, MUC6陰性であり, 完全腸型形質と診断された. LBC陽性を示唆するCD10の発現およびWOS陽性を示唆するadipophilinの発現は, 腫瘍部にのみみられ, NBI所見と矛盾しない結果であった。また背景の5点生検より, 組織学的にもH. pylori未感染粘膜に発生した癌と診断した。
【結語】非常に稀なH. pylori未感染粘膜からの完全腸型粘液形質を有する分化型胃癌の1例を経験した。本症例において、LBCおよびWOS陽性所見が腫瘍の粘液形質診断に極めて有用であったが, その内視鏡所見の変化には胃内の酸環境の変化が強く影響した可能性がある. 文献的考察を含め報告する.
8.幽門腺粘膜に発生したH.pylori未感染早期胃癌:拡大内視鏡所見・病理組織学的所見の解析
今村 健太郎1),八尾 建史1),宇野 駿太郎1),田邉 寛2),二村 聡2) ,金光 高雄1),小野 陽一郎1),宮岡 正喜1) ,植木 敏晴3),原岡 誠司2) ,岩下 明德2)4)
1)福岡大学筑紫病院 内視鏡部,2)同病理診断科,3)同消化器内科,4) AII病理画像研究所
背景: H. pylori未感染胃癌は,その局在と腺領域ごとに腫瘍の形態・組織型に特徴があることが報告されている.H. pylori未感染胃を背景に前庭部,幽門腺粘膜に発生した早期胃癌の報告が散見されるが,連続した症例を対象に用い内視鏡所見を系統的に検討した報告はない.
目的:幽門腺粘膜に発生したH.pylori未感染早期胃癌の内視鏡所見と臨床病理学的特徴を明らかにする.
方法: 2007年9月から2019年12月までの期間に福岡大学筑紫病院で内視鏡的切除および外科的切除を施行された胃癌全症例のうち,H. pylori未感染胃と診断され,前庭部に占居する病変を対象とした.H. pylori未感染胃の定義は,(1)内視鏡所見でH. pylori 未感染胃の特徴を認め4)5),(2)H. pylori除菌歴がなく,(3)H. pylori感染診断検査で2項目が陰性(H. pylori IgG抗体,尿素呼気試験,便中抗原検査,迅速ウレアーゼ試験,生検による培養法,検鏡法),のすべての条件を満たすものをH. pylori未感染胃と判定した.
結果:2007年9月から2020年5月までの期間に当院で内視鏡的切除または外科的切除を施行された胃癌全病変1891病変のうち,H. pylori未感染胃と診断され,前庭部に占居する病変は4病変であった (0.2%).平均年齢は62.2歳,全ての症例が男性であった.平均腫瘍径は5.3mm、肉眼型は隆起型が3病変,平坦・陥凹型が1病変であった.全病変に対してESDにより切除をされた.切除検体の病理組織学的診断は,全て低異型度分化型胃癌で,全て粘膜内癌であり,脈管侵襲は陰性であった.また,免疫組織化学的検索では,全て胃腸混合型であった.ESD切除検体の周囲粘膜を詳細に検索すると,3病変に腸上皮化生の所見を認めた(75%, 3/4).白色光通常観察では,全ての病変が淡発赤調を呈し,2病変では質的診断が困難であった (50%, 2/4).NBI併用拡大観察では,全ての病変でVS (vessel pulse surface) classification systemを用いた癌の診断基準を満たしていた (100%, 4/4).
結語: 幽門腺粘膜に発生したH.pylori未感染早期胃癌は,NBI併用拡大観察により癌と診断できる可能性が高いことが示唆された.
9.HP陰性の前庭部に発症する分化型癌について
○瀧田麻衣子1 大圃研1 松橋信行2 増田芳雄3 森川鉄平3
NTT東日本関東病院 消化管内科1 消化器内科2 病理診断科3
【背景】HP未感染胃癌として、未分化型として印環細胞癌、分化型としては胃底腺型胃癌、胃型の低異型度癌が報告されている。まれに前庭部に分化型癌の発生が報告されているが、その特徴についてはまだあきらかでない点が多い。
【目的】当院で経験したHP未感染の前庭部の分化型癌の特徴を述べる。
【方法】2012年1月から2020年12月までに当院で内視鏡治療を行った早期胃癌からHP未感染の前庭部の分化型癌を抽出し、その臨床病理学的特徴について後ろ向きに検討した。未感染の定義としては、内視鏡および病理検査で背景粘膜に萎縮性変化と活動性炎症を認めないこと、HP抗体および呼気検査陰性、および除菌歴のない症例とした。
【結果】対象となった12例は全例が幽門近傍に位置する高分化腺癌で、1例を除いて背景は幽門腺粘膜であった。肉眼型はたこいぼびらんに類似したⅡcあるいはⅡa病変で、平均腫瘍径は9.1mmであった。周囲との境界は不明瞭であることが多く、NBI拡大観察上も腫瘍としての所見に乏しいものがほとんどである。粘液形質は完全腸型あるいは胃腸混合型であった。また、1例を除いて、粘膜内癌であった。治療前の生検で癌の診断となっていたのは3例のみで、3例については診断がつかずに数年間経過観察されていた症例であった。
【考察】HP未感染ではHP陽性の場合と異なる特徴をもった癌ができることが知られているが、前庭部においてはHP陽性と類似した病変が発症しうる。これまでの診断学からの診断は困難で、疑った場合は積極的に生検を行うことがのぞましいが、その異型度の低さによるものか、生検からの確定診断も難しい。これまで注目されてこなかった病変であり、今後の症例蓄積がのぞまれる。
10.Helicobacter pylori未感染胃粘膜における腸型胃癌の臨床病理学的特徴
柴垣広太郎1、板脇綾子2、宮岡洋一3
1) 島根大学医学部附属病院 光学医療診療部、2) 同 消化器内科、3) 島根県立中央病院 内視鏡科
【目的】Helicobacter pylori (H. pylori)未感染胃粘膜における腸型粘液形質を有する胃癌(腸型胃癌)について、その臨床病理学的特徴を検討した。
【対象】2013年~2019年に島根大学医学部附属病院と島根県立中央病院を中心とした多施設で切除されたH. pylori未感染腸型胃癌11例16病変を対象とした。
【方法】患者背景/内視鏡像/病理組織像について検討した。
【結果】
【考察】H.pylori未感染腸型胃癌では、動脈硬化性疾患や飲酒・喫煙歴が多く認められた。同様の傾向はその他の未感染胃癌にも報告されており、未感染者における胃癌リスク因子について、今後の検討が必要と考えられた。また、本腫瘍はP53蛋白を極めて高率に過剰発現していた。一般的なH. pylori関連胃癌のP53蛋白発現率は43-54%と報告されており、H.pylori未感染胃癌ではp53はほぼwild typeであることを考えると、本腫瘍に極めて特徴的な所見であると考えられた。背景の幽門腺粘膜に萎縮はないものの、胆汁逆流などに伴う慢性炎症が本腫瘍の発生に関与している可能性が示唆された。
第ニ部
1.内視鏡所見上4年間進行を認めなかった遺伝性びまん性胃癌の1例
〇東江大樹1)、新里雅人1)、神田修平2)、岩泉守哉3)、山田英孝4)、椙村春彦4)、外間昭5)
沖縄県立宮古病院 消化器内科1)、外科2)浜松医科大学 臨床検査医学3)、腫瘍病理学4)
琉球大学病院 光学医療診療部5)
【症例】40代男性
【既往歴】Castleman病、H.pylori除菌後(尿素呼気試験陰性、血清H.pylori IgG抗体陰性確認済み)
【家族歴】兄:胃癌(30代)
【現病歴】Castleman病で当院呼吸器内科通院中。H.pylori除菌歴があり、定期的に上部消化管内視鏡検査を受けていた。X-4年の内視鏡検査で胃前庭部に多発するφ5-10mm大の小褪色斑を認めていたが精査されず、以後年1回内視鏡フォローをされていたが同病変に形態変化がないことから1度も生検検査はされていなかった。X年のフォローでも内視鏡像に変化を認めなかったが、所見から早期胃癌を疑い病変5か所を生検したところ、全てGroup5;signet ring cell carcinomaと判定された。
【経過】患者・外科医師と協議し、若年であり、病変が前庭部に限局し、4年間病変が進行しなかった点から、術後定期的な内視鏡フォローを行うことを前提とし幽門側胃切除を行った。切除標本では前庭部に30か所以上の微小病変(sig)を認めたが、全て粘膜内癌であった。遺伝性びまん性胃癌を疑い県外の遺伝疾患外来受診を勧めたが、渡航費やCOVID-19流行などの問題で受診が困難だった。そのため浜松医科大学病院に協力を仰ぎ、インターネットビデオ通話を用いた遠隔診療で遺伝カウンセリングと検査説明を行った。遺伝子検査に必要な血液検体は当院で採取し空路で輸送した。検査の結果CDH1遺伝子に病的バリアントを認め、遺伝性びまん性胃癌の診断に至った。
【考察】遺伝性びまん性胃癌は国内の報告数が少なく、4年間無治療で経過観察しえた症例は調べた限りでは確認できなかった。稀な症例であり、若干の文献的考察を加えて報告する。
2.H.pylori除菌後の長期的な血清学的、組織学的変化の検討
○福田健介、松成修、岡本和久、小川竜、水上一弘、沖本忠義、兒玉雅明、村上和成
大分大学医学部消化器内学講座
【目的】H. pylori(HP)除菌により胃粘膜萎縮の改善がすることが明らかになり除菌後におけるペプシノーゲン(PG)値とH. pylori抗体価(血清抗体価)の経時的変化についての報告もされている。今回HP除菌前後の血清抗体価とPGの値の経時的変化および内視鏡的、組織学的変化について検討した。また、除菌後も血清抗体価が持続的に高値を維持する群の、除菌前の特徴についても検討した。
【方法】 1987年10月12日から2017年12月27日の間に当院にて上部消化管内視鏡検査を施行され、HP除菌が成功していた5268症例を対象とし,血清抗体価・PGI・PGII値を測定した。また、組織学的評価はUp-dated Sydney System を用い、内視鏡的萎縮は木村・竹本分類に基づき評価した。このうち除菌前、除菌5年後とで内視鏡検査、血清、組織が揃っている109症例を対象として、5年後の血清抗体価が3以上の群(85例)と3未満の群(24例)の2群間の比較を行った。
【結果】未感染群では血清抗体価は2.0U/ml、PGIは67.2ng/ml、PGIIは11.6 ng/mlであった。除菌群では、血清抗体価は除菌前が 43.7U/mlであったが、除菌後1年で28.3U/mlと有意に低下した。PGIは、除菌前が78.8ng/mlであったが、除菌後1年で55.8ng/mlまで有意に低下し、以後は漸増する傾向にあった。PGIIは、除菌前が22.3ng/mlであったが、除菌後1年で9.1ng/mlまで有意に低下した。除菌後は内視鏡的萎縮の改善はほとんど認められなかったが、組織学的には改善していた。除菌後5年の血清抗体価3以上群と3未満群の比較では、3以上の群で除菌前の血清抗体価が有意に高かった。
【考察】今回の検討により、HP除菌後は血清学的、組織学的に徐々に未感染群に近づくことが判明し、そのためこれらで未感染と既感染の判別をすることは困難と考える。しかし、除菌後も内視鏡的萎縮は残存するため、感染状態の判断には内視鏡検査は必須と考える。
3.除菌後進行胃癌の臨床病理学的特徴の検討
田中 匡実、菊池 大輔、布袋屋 修
虎の門病院 消化器内科
【背景・目的】近年除菌後胃癌の報告が増加しており、除菌後早期胃癌に関しての特徴は明らかになりつつある。しかしながら、除菌後進行胃癌に関しては報告も少なくその詳細に関してはいまだ不明なことも多い。そこで、本研究は除菌後進行胃癌の臨床学的特徴に関して明らかにすることを目的とした。
【対象】当院で2011年6月から2019年12月までに進行胃癌と診断された症例の中で除菌後胃癌の18症例を対象とした。除菌後胃癌の定義としては除菌時期が明確なものとした。
【結果】(1)症例に関しての特徴は、性別は男性/女性=14/4、平均年齢は68.6±12.0歳、背景粘膜の萎縮は軽度(C-1、C-2)/中等度(C-3、O-1)/高度(O-2、O-3)=1(5.6%)/12(66.7%)/5(27.7%)、除菌後期間の中央値は48ヶ月(24-96ヶ月)であった。また、最終内視鏡時期が判明したのは14症例(77.8%)で進行癌が判明する前の検査までの期間の中央値は36ヶ月(12-96ヶ月)であり、1年前に内視鏡検査を行っている症例は4症例(22.2%)であった。さらに、外科手術が行えたのは13症例(68.4%)であった。(2)病変に関しての特徴は、肉眼系1型/2型/3型/4型/5型(粘膜下が膨隆したSMT様)=1/3/4/4/5、部位はU/M/L=7/7/4、前壁/小弯/後壁/大彎=2/8/4/4、病理組織所見は高分化型優位癌/低分化型優位癌=5/13であった。また、3症例は2年以内の内視鏡検査で病変を指摘できなかった。
【結語】除菌後進行胃癌は男性で萎縮が中等度症例の小弯側に発見されることが多かった。さらに、肉眼型で粘膜下の膨隆を伴うSMT様の形態が最も多かった。
4.過去画像の検討が可能であった除菌後浸潤癌
小林正明1)、丹羽佑輔1)、高橋祥史1)、今井径卓1)、塩路和彦1)、曾澤雅樹2)、松木淳2)、薮崎 裕2)、中川悟2)
1)新潟県立がんセンター新潟病院内科、2)同 消化器外科
【背景】除菌後に浸潤癌で発見された場合、定期検査の不備を認めることが多いが、経年的に内視鏡検査を行っていた症例も経験する。除菌後浸潤癌の発育進展様式の解明を期待して、過去画像の解析を試みた。
【方法】2015年~2020年に、手術またはESD後の病理診断がeCura A/Bに該当しなかった130症例132病変中、診断確定より1年以上前の内視鏡画像(紹介元の画像も含めて)を検討できた30症例30病変(未分化型: 11, 未分化混在型: 8, 分化型: 11, M: 2, SM1: 5, SM2: 14, MP: 4, SS: 5)を対象とした。診断時の画像と対比して過去画像を見直し、発見や診断が遅れた原因を、組織型や深達度を踏まえ検討した。
【結果】6病変は過去画像を見直しても同定不可で、未分化型/混在型(SM1: 1, SM2: 3,SS: 1)と分化型(MP: 1)であった。同定可能であった24病変中、6病変は見逃し例で、発赤や自然出血などの所見を認め、未分化型/混在型(M: 1, SM1: 2, SM2: 1)、多発胃癌ESD後の分化型(SM2: 2)であった。18病変は診断困難あるいは誤認例で、びらん7病変(未分化/混在型: 2, 分化型: 5)、潰瘍6病変(未分化型/混在型: 5, 分化型: 1)、SMT様3病変(未分化型/混在型: 2, 分化型: 1)などを認識されていたが、10病変は生検も陰性で、経過観察となっていた。
【結論】除菌後未分化型や未分化混在型癌の発見や診断は困難であるが、除菌後浸潤癌の多くは、診断の1~3年前には既に所見があり、除菌後に認められたびらん、潰瘍の対応には注意が必要である。
5.Helicobacter pylori除菌後スキルス胃癌の長期予後に関する検討
背景・目的:我々は以前H. pylori(HP)除菌後スキルス胃癌と現感染スキルス胃癌を比較し, その臨床病理学的特徴について報告した. 今回その長期予後を明らかにするべく検討を行った.
方法:2015年2月から2019年7月までに当院で内視鏡検査を施行し, 抗HP血清IgG抗体価が測定されていたスキルス胃癌96例の内, 除菌後16症例とHP現感染34症例を抽出し対象とした. 除菌群の定義は, 除菌療法を施行後1年以上経過しての発見且つ, 抗HP血清IgG抗体価≦9.9 U/mlとした. 除菌後群と現感染群の治療成績を遡及的に比較検討した.
結果:除菌後と現感染では腫瘍径中央値, 周在性, 原発部位, 検出された組織型に差は認めなかった. 除菌後群と現感染群でそれぞれ, 発見時StageⅣ症例は68.8%(11/16), 82.4%(28/34)で差が無かった(P=0.279), 初回治療で手術が選択されたのは31.3%(5/16)、20.6%(7/34), Conversion手術が施行されたのは12.5%(2/16), 2.9%(1/34)であった. R0切除が得られたのは, 症例全体では37.5%(6/16)と20.6%(7/34)と差を認めなかった(p=0.203)が, Staging Laparotomy施行例では26.9%(7/26)と66.7%(6/9)と有意に除菌後で多かった(p=0.033). 生存期間中央値は1023日, 541日(P=0.0625), 1年生存率は92.9%, 66.7%, 2年生存率は75.7%, 33.6%であった.
結語:除菌後スキルス胃癌は現感染スキルス胃癌に対し予後が良好である可能性が示唆された.
6.網羅的遺伝子発現解析による除菌後胃癌における胃癌発症メカニズムの解明
小畑 美穂1)、坂口 賀基1)、高橋 悠1)、辻 陽介1)、山道 信毅1)、小池 和彦1)
東京大学医学部附属病院 消化器内科1)
【目的】臨床現場で除菌後胃癌に遭遇する機会が増えているが、除菌後胃癌の発癌メカニズムについて未だ明らかになっていないところが多い。除菌後胃癌の分子生物学的特徴を解明すべく、網羅的遺伝子発現解析を行った。
【方法】当院倫理委員会の承認を得て、臨床試験登録後(UMIN000026572)、早期胃癌と診断された症例を前向きに登録した。胃癌の腫瘍・背景胃粘膜から組織を採取し、採取組織の全RNAを抽出し、58201プローブを含むマイクロアレイ(Agilent SurePrint G3)による網羅的遺伝子発現解析を行った。除菌後胃癌は除菌後一年以上経過し発見されたものと定義した。除菌後胃癌および陽性未除菌胃癌の腫瘍・背景粘膜で階層的cluster解析、enrichment解析、pathway解析による比較を行った。
【結果】2017年6月~2018年8月までの間に登録した除菌後胃癌4例、陽性未除菌胃癌3例に対して網羅的遺伝子発現解析を施行した。全胃癌と正常粘膜の比較では、2倍以上の発現差を認めるprobeを844個認めた。pathway解析では、p53に関連するpathwayとの相関を認めた(ES=0.35, p=0.012)。除菌後胃癌および陽性未除菌癌の腫瘍・背景粘膜での比較において、Supervised cluster解析の結果、2倍以上発現差を有するprobeは腫瘍部で728個、背景粘膜で2293個であった。enrichment解析、pathway解析では陽性未除菌の腫瘍部および背景粘膜で炎症に関するpathwayが上位に挙がった。陽性未除菌癌と比較し、全ての除菌後胃癌で低発現のprobeを928個認め、うち571個は背景粘膜では同様の結果を示さなかった。
【考察】全ての除菌後胃癌で低発現であったprobeにおいて、除菌後胃癌の発癌機序に直接関係している遺伝子が含まれる可能性がある。
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