一般社団法人 日本消化器内視鏡学会 Japan Gastroenterological Endoscopy Society

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第1回  Helicobacter pylori 未感染と除菌後時代の胃癌発見に役立つ内視鏡診断の構築研究会 ※紙上開催

2020年5月24日 1:30 PM - 4:00 PM

代表世話人

藤崎順子(がん研有明病院)

当番世話人

伊藤公訓(広島大学)

布袋屋修(虎の門病院)

藤崎順子(がん研有明)

会期

2020年5月24日(第99回日本消化器内視鏡学会総会会期中)

→新型コロナウイルスの蔓延に伴い、抄録の紙上掲載を以て発表と替えさせていただきます。

会場

国立京都国際会館

プログラム

開会の辞(1分)

藤崎 順子(がん研究会有明病院 上部消化管内科)

基調講演(15分)

水野 元夫 (倉敷中央病院 消化器内科)

附置研究会アンケート報告(3分)

並河 健 (がん研究会有明病院 上部消化管内科)

Helicobacter pylori未感染胃癌・除菌後胃癌に対する診断及び経験症例に関するアンケート集計結果 

加藤 元嗣 1)、伊藤 公訓2)、布袋屋 修3)、藤崎 順子4)、小田 一郎5)、村上 和成6)、八尾 建史7)、上山 浩也8)、磯本 一9)、小林 正明10)、吉村 大輔11)、八木一芳12)、河合 隆13)、松橋 信行14)

1)国立病院機構函館病院、2) 広島大学 総合内科・総合診療科、3) 虎の門病院 消化器内科、

4) がん研有明病院 消化器内科、5) 国立がん研究センター中央病院 内視鏡科、

6) 大分大学医学部消化器内科学講座 、7) 福岡大学筑紫病院 内視鏡部、8) 順天堂大学医学部 消化器内科、

9) 鳥取大学医学部 機能病態内科学・第二内科、10) 新潟県立がんセンター新潟病院内科、

11) 済生会福岡総合病院 消化器内科、12) 新潟大学地域医療教育センター・魚沼基幹病院 消化器内科、

13) 東京医科大学 消化器内視鏡学、 14) NTT東日本関東病院 消化器内科

第1部未感染早期胃癌(M癌、SM癌)の臨床病理学的特徴

司会:加藤 元嗣(国立病院機構函館病院)、村上 和成(大分大学医学部消化器内科学講座)

  1. HP陰性の前庭部に発生した分化型癌(発表 3分、質疑 2分)

  瀧田 麻衣子1) 大圃 研1) 松橋 信行2)

  NTT東日本関東病院 消化管内科1) 消化器内科2)

  1. プロトンポンプ関連胃病変を疑うfundic gland type adenomaをESDで切除した一例(発表 3分、質疑 2分)

  落合 頼業1)、菊池 大輔1)、髙澤 豊2)、布袋屋 修1)

  虎の門病院 消化器内科1)、病理部2)

  1. 背景粘膜に萎縮のないHelicobactor pylori未感染の早期胃癌の特徴(発表 6分、質疑 2分)

  関西医科大学 消化器肝臓内科 

  中村 尚広、高橋 悠、徳原 満雄、田中 敏宏、鈴木 亮、岡崎 敬、岡崎 和一

  1. 当院におけるHelicobacter pylori未感染胃癌の臨床病理学的所見の特徴(発表 6分、質疑 2分)

  今村 健太郎1),八尾 建史1),田邉 寛2),原岡 誠司2) ,岩下 明徳2)

  福岡大学筑紫病院 内視鏡部1),病理部2)

  1. 胃底腺型胃癌関連病変の臨床病理学的特徴(発表 6分、質疑 2分)

  赤澤陽一1)、上山浩也1)、八尾隆史2)、阿部大樹1)、沖翔太朗1)、鈴木信之1)、池田厚1)、谷田貝昴1)

  小森寛之1)、竹田努1)、松本紘平1)、上田久美子1)、松本健史1)、浅岡大介1)、北條麻理子1)、永原章仁1)

  1)順天堂大学医学部 消化器内科、2)順天堂大学大学院医学研究科 人体病理病態学

第2部未感染進行胃癌(MP以深癌)における臨床病理学的特徴と問題点

司会:松橋 信行(NTT東日本関東病院 消化器内科)、河合 隆(東京医科大学 消化器内視鏡学)

  1. 急激発症したHelicobacter pylori未感染スキルス胃がんの1例(発表 3分、質疑 2分)

  兒玉 康秀1)、柴垣 広太郎1)、三代 剛1)、藤井 雄介2)、平原 典幸2)、足立 経一3)、石原 俊治1)

  1) 島根大学医学部附属病院 消化器内科、2) 島根大学医学部附属病院 消化器外科、

  3) 島根県環境保健公社 総合健診センター

  1. 当院における内視鏡切除したpylori未感染胃癌の臨床病理学的特徴および内視鏡所見(発表 6分、質疑 2分)

  吉田 詠里加、山本 頼正、花村 祥太郎、五味 邦代、長濱 正亞

  昭和大学藤が丘病院 消化器内科

  1. 当施設のpylori未感染胃癌における浸潤癌の経験(発表 6分、質疑 2分)

  佐々木 亜希子, 市田 親正

  湘南鎌倉総合病院

  1. pylori未感染胃癌手術例の臨床病理学的特徴(発表 6分、質疑 2分)

  尾関 雄一郎1)、平澤 欣吾1)、前田 愼2)

  1)横浜市立大学附属市民総合医療センター 内視鏡部、2)横浜市立大学附属病院 消化器内科

  1. HP未感染の進行胃癌の臨床学病理学的特徴(発表 6分、質疑 2分)

  田中 匡実、菊池 大輔、布袋屋 修

  虎の門病院 消化器内科

  1. Helicobacter pylori未感染胃癌における浸潤癌の検討(発表 6分、質疑 2分)

  吉村 大輔1)、落合 利彰1)、北川 祐介1)、加藤 誠也2)、吉村 理江3)

  1)済生会福岡総合病院 消化器内科、2)済生会福岡総合病院 病理診断科、

  3)人間ドックセンターウェルネス

第3部除菌後浸潤胃癌(SM癌、MP以深癌)における臨床病理学的特徴と問題点

司会:布袋屋 修 (虎の門病院 消化器内科)、上山浩也(順天堂大学医学部 消化器内科)

  1. 除菌後の胃癌及び胃腺腫に対するLCIを用いた内視鏡スクリーニングの有用性(発表 6分、質疑 2分)

  八木 信明1)、林 完成1)、中畑 由紀1)、向井 理英子1)、尾松 達司1)、坂元 直行1)、大洞 昭博1)

  小島 孝雄1)、加藤 元嗣2)、川田 研郎3)、小野 尚子4)、土肥 統5)、石川 秀樹5) 

  1)朝日大学病院消化器内科、2)国立病院機構函館病院、3)東京医科歯科大学、4)北海道大学、

  5)京都府立医科大学

  1. 定期的な内視鏡フォローで見逃され、HP除菌18年後に肝転移を伴う進行胃癌として発見された除菌後胃癌の1例(発表 3分、質疑 2分)

  東納重隆、正木宏明

  セコメディック病院 消化器内科 

  1. 除菌後、内視鏡的経過観察していたが、SM massive癌で発見された1例 (発表 3分、質疑 2分)

  八木 一芳1)、中村 厚夫2)、星 隆洋1)、阿部 聡司1)、森田 慎一1)、須田 剛士1)、寺井 崇二3)

  1) 新潟大学地域医療教育センター・魚沼基幹病院 消化器内科、2) 新潟県立吉田病院 内科、

  3) 新潟大学大学院医歯学総合研究科消化器内科分野

  1. 胃ESD後・Helicobacter pylori除菌後異時性SM以深胃癌の特徴(発表 6分、質疑 2分)

  鈴木晴久1)、阿部清一郎1)、小田一郎1)、関口正宇1)、高丸博之1)、野中哲1)、吉永繁高1)、斎藤豊1)、吉川貴己2)、片井均2)

  1) 国立がん研究センター中央病院 内視鏡科、2) 同 胃外科

  1. 除菌後浸潤胃癌の臨床病理学的特徴(発表 6分、質疑 2分)

  小林 正明1)、盛田 景介1)、青栁 智也1)、栗田 聡1)、塩路 和彦1)、薮崎 裕2)、中川 悟2)

  1)新潟県立がんセンター新潟病院内科、2)同 消化器外科 

 6. pylori除菌後胃癌の臨床病理学的検討~未分化癌・進行癌を中心に~(発表 6分、質疑 2分)

  兒玉雅明1,2)、沖本忠義1)、水上一弘1)、小川 竜1)、岡本和久1)、福田健介1)、川原義成1)、平下有香1)

  福田昌英1)、松成 修1)、阿部寿徳3)、安部高志4)、永井敬之4)、村上和成1)

  1)大分大学医学部消化器内科学講座、2)大分大学福祉健康科学部、3)あべ胃腸病内視鏡クリニック、

  4)大分県厚生連鶴見病院

 7. Helicobacter pylori除菌後スキルス胃癌の臨床病理学的特徴(発表 6分、質疑 2分)

  並河 健、藤崎 順子

  がん研究会有明病院 上部消化管内科

閉会の辞(総括発言)(1分)

上村 直美(国立国際医療研究センター 国府台病院)

 

抄録

第1部

1. HP陰性の前庭部に発生した分化型癌

○瀧田麻衣子1 大圃研1 松橋信行2

NTT東日本関東病院 消化管内科1 消化器内科2

【背景】胃癌の最たるリスク因子はH.pylori菌(以下HP)感染による慢性胃炎であるが、ときおりピロリ未感染者の胃粘膜にも胃癌の発生が経験される。HP未感染胃癌として、未分化型として印環細胞癌、分化型としては胃底腺型胃癌、胃型の低異形度癌が報告されている。まれに前庭部にも分化型癌の発生が報告されているが、その臨床病理学的特徴についてはまだあきらかでない点が多い。

【目的】当院で経験したHP未感染の前庭部の分化型癌の特徴を述べる。

【症例】いずれも除菌歴なく、HP抗体および呼気検査陰性、内視鏡および病理検査で背景粘膜に萎縮性変化と活動性炎症のない症例である。症例1は60代男性、前庭部のⅡa病変。大きさは5mmほどで、周囲との境界は認識できるが、NBI拡大観察ではDLなく、IMVP/IMSPとも認めなかった。病理組織では幽門腺を背景とした、高分化腺癌で、深達度は粘膜内、脈管侵襲陰性、断端陰性であった。免疫組織化学染色ではMUC5AC、MUC6とも陽性、MUC2陰性だがCDX2弱陽性の、胃型優位の混合型であった。症例2は50代女性、前庭部大湾のⅡc病変、大きさは10mm弱であった。周囲との境界は認識でき、NBI拡大観察でもDLは認識できるが、IMVP/IMSPとも認めなかった。病理組織は幽門腺を背景とした高分化腺癌で、深達度は粘膜内、脈管侵襲陰性、断端陰性であった。免疫染色ではMUC5AC陰性、MUC6陽性、MUC2、CDX2とも陽性の、腸型優位の混合型であった。

【考察】当院では同様の病変を他に数例経験しているが、いずれも幽門近傍に位置する低異型度腫瘍で、周囲との境界は明瞭ではなく、また拡大観察上も腫瘍としての所見に乏しいものが多い。背景粘膜は胃底腺の症例もあり、粘液形質においては完全胃型は認められないものの、完全腸型あるいは混合型である。既報でも同様の特徴が示されており、症例の集積がのぞまれる。

 

2. プロトンポンプ関連胃病変を疑うfundic gland type adenomaをESDで切除した一例

○落合 頼業1)、菊池 大輔1)、髙澤 豊2)、布袋屋 修1)

虎の門病院 消化器内科1)、病理部2)

【背景】プロトンポンプ阻害薬 (PPI)は比較的安全な薬剤と考えられ、広く普及している。しかし長期的な投与により、PPIによる胃粘膜変化として水腫様の胃底腺ポリープ、多発性白色扁平隆起、敷石状粘膜などが挙げられている。長期のPPIの投与により胃癌の発生頻度が増加するという報告が少数あるが、長期のPPI投与と腫瘍発生の関連性についてはまだ明らかではない。今回PPI長期内服歴があり、多発ポリープが認められた症例において22mm大のPPI関連胃病変を疑うfundic gland type adenomaをESDにて切除した症例を経験したため、症例報告する。

【症例】症例は57歳男性。スクリーニング目的の上部消化管内視鏡にて、萎縮のない背景粘膜の中に水腫様の胃底腺ポリープが多発しており、その中で体中部大彎後壁寄りに表面に凹凸のある白色調、25mm大のⅠsp型ポリープが認められた。NBI拡大では表面の凹凸の隆起部に一致して、比較的不規則な縞状の表面微細構造を呈し、微小血管像は拡張蛇行する異形血管が認められた。内視鏡的に胃型腺腫と診断し、生検を施行したところGroup2, Atypical glandsであった。ESDを施行し、病理結果は22×22mm, fundic gland type adenomaであった。組織学的には拡張傾向を示す胃底腺の過形成とParietal cell protrusionが認められ、PPI長期内服によって発生したfundic gland type adenomaと考えられた。

【結語】今後増加し得るPPI関連胃病変に対してESDを施行した一例を経験した。

 

3. 背景粘膜に萎縮のないHelicobactor pylori未感染の早期胃癌の特徴

○中村 尚広、高橋 悠、徳原 満雄、田中 敏宏、鈴木 亮、岡崎 敬、岡崎 和一

関西医科大学 消化器肝臓内科 

【背景】今後Helicobactor pylori(HP)陰性時代を迎えるとHP未感染胃癌が相対的に増加することが予測される。従来稀とされているHP未感染胃における胃癌の報告が増加している。今後症例を集積し、その特徴を見いだすことが重要と考える。

【対象と方法】2013年1月1日から2019年12月31日までに当院で早期胃癌に対して内視鏡治療施行した916例のうち以下を検討した。全例でHP検査を施行していなかったために、まずHP除菌歴がある症例を除き、その後背景粘膜に萎縮のない(胃角部小弯でのRAC陽性を判定)症例をHP未感染とした。HP未感染で背景粘膜に萎縮のない胃癌と考えられたのは13例(1.4%)あり、発生部位、肉眼型、深達度などについて検討を行った。

【結果】平均年齢60.9歳、男性7例、平均腫瘍径10.3mm。治療後病理結果からの集積では (1)胃底腺型胃癌、(2)低異型度腺窩上皮型胃癌、(3)未分化型胃癌のいずれかの病理組織症例であった。各種の特徴であるが、(1)胃底腺型胃癌はU領域・0-Ⅱb、(2)低異型度腺窩上皮型胃癌はUまたはL領域・0-Ⅱc、(3)未分化型胃癌は M領域・0-Ⅱbといった傾向が見られた。SM浸潤癌は3例で、いずれも上皮表在の変化は乏しく、平坦もしくは、なだらか隆起形態を示していた。【結語】HP未感染で背景粘膜に萎縮のない胃癌の特徴を示した。当院の代表的な症例を供覧しながら、若干の考察を加え報告する。

 

4. 当院におけるHelicobacter pylori未感染胃癌の臨床病理学的所見の特徴

今村健太郎1),八尾建史1),田邉寛2),原岡誠司2) ,岩下明徳2)

福岡大学筑紫病院 内視鏡部1),病理部2)

目的:当院におけるHelicobacter pylori(H. pylori)未感染胃癌の臨床病理学的特徴について明らかにする.

方法:2013年1月から2019年10月の期間に福岡大学筑紫病院で内視鏡的切除および外科的切除をされた連続した胃癌症例を対象とし,H. pylori未感染胃癌の頻度,臨床病理学的所見を遡及的に検討した.H. pylori未感染胃癌の定義は,(1)内視鏡所見でH. pylori未感染胃の特徴を認め,(2)H. pylori除菌歴がなく,(3)H. pylori感染診断検査で2項目が陰性(H. pylori IgG抗体,尿素呼気試験,便中抗原検査,迅速ウレアーゼ試験,生検による培養法,検鏡法),のすべての条件を満たすものをH. pylori陰性胃癌と判定した.また,残胃癌と食道胃接合部癌は除外した.

結果:内視鏡的切除774病変と外科的切除307病変の合計1081病変を解析対象に組み入れた.[I] H. pylori未感染胃癌の頻度は,3% (36病変/1081病変) であった.[II] 病理組織型別内訳については, (1)胃型分化型癌・低異型度分化型胃癌(超高分化型腺癌)は,合計24病変であり,具体的には,胃腺窩上皮型癌3病変,胃底腺型癌8病変,胃底腺粘膜型癌8病変,胃底腺・幽門腺粘膜混合型癌2病変,Peutz-Jeghers syndrom合併胃癌2病変,FAP合併胃癌1病変であった.(2)胃腸混合型分化型癌は6病変(胃腺窩上皮型癌5病変,A型胃炎を背景とした胃癌1病変),(3)未分化型癌(印環細胞癌)が6病変であった.[III]粘膜下層浸潤胃癌は10病変で,胃底腺型癌が5病変,胃底腺粘膜型癌が5病変であった.[IV] 好発部位については,胃型分化型癌は胃底腺領域,胃腸混合型分化型癌は幽門腺領域,印環細胞癌は胃角部大彎の腺境界領域にそれぞれ占居していた.[V]また,肉眼型については,隆起型(0-IIa/Ia)を呈していた組織型は胃型分化型癌と胃腸混合型癌,平坦陥凹型(0-IIb/IIc)の形態を呈していた組織型は印環細胞癌であった.

結語:H. pylori未感染胃癌では,病理組織型により,深達度・病変部位・肉眼型に特徴があることが判明した.

 

5. 胃底腺型胃癌関連病変の臨床病理学的特徴

赤澤陽一1、上山浩也1、八尾隆史2、阿部大樹1、沖翔太朗1、鈴木信之1、池田厚1、谷田貝昴1、小森寛之1、竹田努1、松本紘平1、上田久美子1、松本健史1、浅岡大介1、北條麻理子1、永原章仁1

1順天堂大学医学部 消化器内科、2順天堂大学大学院医学研究科 人体病理病態学

【背景】H.pylori(Hp)未感染胃癌の一つである胃底腺型胃癌は、組織学的に胃底腺型腺癌(GAFG)と胃底腺粘膜型腺癌(GAFGM:胃底腺に加え腺窩上皮や粘液腺への分化を伴うGAFGの一組織亜型)の2つに分類される。しかし、GAFGMの臨床病理学的特徴やHp感染との関係性については十分に検討されていない。

【目的】胃底腺型胃癌の組織型およびHp感染状況での臨床病理学的特徴を解析する事を目的とした。

【方法】当施設で胃底腺型胃癌と診断された67病変を対象に、MUC5AC・MUC6・pepsinogen-Iの免疫染色所見により、GAFG群 (n=56、MUC5AC(-);全体の10%未満、MUC6(+)、pepsinogen-I(+))とGAFGM群 (n=11、MUC5AC(+);全体の10%以上、MUC6(+)、pepsinogen-I(+))の2群に分類した。また、Hp未評価例を除いた58病変を未感染群(n=41)と現感染+除菌後群(n=17)の2群に分類した。各々の2群間で臨床病理学的に比較検討を行った。

【結果】Hp感染状況(未感染/除菌後/現感染)は、GAFG(36/12/2)、GAFGM(5/3/0)であり有意差は認めなかった。GAFGMはGAFGに比較して、平均腫瘍径が大きく、発赤病変、0-IIc病変が多く、リンパ管侵襲率、水平断端陽性率が有意に高かった。Hp感染状況別での検討では、未感染群(n=41)が現感染+除菌後群(n=17)に比較して、若年例が多く、背景粘膜の萎縮が少なかったが、その他の項目では有意差は認めなかった。

【結論】GAFGMはGAFGに比較して高悪性度と考えられ、細胞分化や組織構築により悪性度に違いがある可能性が示唆された。また、Hp感染状況別での検討結果からは、Hp感染は胃底腺型胃癌の組織型、発育進展や悪性度とは関連性が乏しい可能性が示唆された。

 

第2部

1. 急激発症したHelicobacter pylori未感染スキルス胃がんの1例

 兒玉康秀1、柴垣広太郎1、三代剛1、藤井雄介2、平原典幸2、足立経一3、石原俊治1

 1.島根大学医学部附属病院 消化器内科、2.島根大学医学部附属病院 消化器外科、

 3.島根県環境保健公社 総合健診センター

症例は50歳代女性、毎年内視鏡胃がん検診を受けていたが、X年の上部消化管内視鏡(EGD)で異常を認め、当科紹介となる。嗜好歴は機会飲酒、喫煙なし、家族歴は特記事項なし。身体所見・血液検査は特記事項なし。Helicobacter pylori (HP)除菌歴なし、血清抗HP抗体<3U/mL、尿素呼気試験<2.5‰、便中HP抗原陰性。

X-1年のEGDは萎縮のない胃粘膜で、前庭部にタコいぼ胃炎、胃体部にRACと胃底腺ポリープ(FGP)を認めた。X年のEGDでは胃体部~穹窿部に粘膜肥厚と皺壁腫大が出現し、伸展性は低下し、FGPも表面粗造であった。NBI拡大では、粘膜不整部分に腺構造の不明瞭化とnetworkの消失した異常血管を認めた。前庭部と噴門部は粘膜異常を認めなかった。病変部の生検では粘膜下浸潤する印環細胞癌(sig)を認め、一部で低分化型癌(por)の併存を認めた。また、健常部に萎縮/炎症/腸上皮化生/HP感染を認めず、HP未感染と診断した。がん細胞はMUC5AC陽性、MUC6/MUC2/CD10陰性、Ki-67過剰発現やp53過剰染色を認めなかった。CTで腫瘍は肝左葉と膵体部に接しており、T4のスキルス胃がんが疑われ、術前化学療法後に胃全摘を施行した(抄録作成時、病理結果未)。

HP未感染の未分化型進行胃がんの報告はPubMedで2例のみで、いずれもType4、sig/porの混在癌であり、本例も同様であった。HP未感染者の未分化型進行胃がんは極めて稀であり、本例はスキルス胃がんとして急激に発症していた。

 

2. 当院における内視鏡切除したH.pylori未感染胃癌の臨床病理学的特徴および内視鏡所見

  ◯吉田 詠里加、山本 頼正、花村 祥太郎、五味 邦代、長濱 正亞

  昭和大学藤が丘病院 消化器内科

【目的】H.pylori未感染胃は胃癌発生リスクが低いとされるが、近年H. pylori感染率が低下しており、今後H.pylori未感染胃癌の頻度が高くなると予測される。H.pylori未感染胃癌の早期発見に役立てるため当院で診断したH.pylori未感染胃癌の臨床病理学的特徴および内視鏡所見について検討した。

【方法】2016年1月から2020年1月までに当院で診断したH.pylori未感染胃癌8例を対象とし後ろ向きに検討した。H.pylori未感染の定義として①除菌歴なし②H.pylori血清抗体陰性かつUBT陰性③内視鏡所見で萎縮所見なし④組織所見でH.pylori感染に伴う胃炎を認めないの4項目を満たした症例とした。

【成績】8例の平均年齢は56歳、性別は男性7例女性1例であった。病変部位はU領域3例L領域5例、平均病変径は14mm、肉眼型は0-I 1例、0-Ⅱb 2例、0-Ⅱc 2例、0-Ⅱa+Ⅱc 2例、0-Ⅱc+Ⅱa 1例、最終病理所見は未分化型4例分化型3例、深達度はT1a 6例T1b1 1例T2 1例であった。

未分化型の4例は、病理所見はsigで、L領域に褪色調として認めるⅡb(2例)、Ⅱc(1例)とU領域の30mm大の0-Ⅱc+Ⅱa病変であった。

分化型4例うち1例は病理所見で胃底腺型胃癌、他1例はU領域の通常視でラズベリー様を呈する0-I病変、他の1例は病理所見はtub1でL領域の発赤調、20mm大のⅡa+Ⅱcで、腸型粘液形質をもつ高分化型腺癌であった。また8例中2例でSM以深の浸潤癌を認め、1例はL領域の幽門部が主座の発赤調の30mmのⅡa+Ⅱcで切除後の深達度はT1b(SM1)であり、他の1例はU領域の30mm大の0-Ⅱc+Ⅱa病変で、術前の深達度はMPで外科切除が施行された症例であった。

【結語】単施設における少数例の検討ではあるが、H.pylori未感染胃癌においてM癌だけではなくSM1胃癌やMP癌についても臨床病理学的特徴および内視鏡所見について報告する。

 

3. 当施設のH.pylori未感染胃癌における浸潤癌の経験

◯佐々木亜希子, 市田親正

湘南鎌倉総合病院

当施設で経験したH.pylori未感染胃腫瘍のうち、幽門腺領域の浸潤癌の1例について臨床病理学的特徴を検討した。H.pylori未感染の基準は、①除菌歴がないこと、②上部消化管内視鏡検査で萎縮がなく胃角部小彎のRACの存在、③感染診断として血清H.pylori IgG抗体陰性(EIA法3.0U/ml以下)、尿素呼気試験、便中抗原検査、迅速ウレアーゼ試験、組織培養法、鏡検法のうち1つ以上が陰性、④組織学的萎縮が乏しいこと、の4つを満たすものとした。また、食道胃接合部癌についてはバレット腺癌を除外した。

2016年1月から2019年12月に経験したH.pylori未感染胃腫瘍は12症例14病変で、胃癌11例、腺腫2例であった。部位別には噴門部が3例4病変、胃底腺領域が3例4病変、幽門腺領域が6例6病変であった。深達度はm癌が8例9病変に対し浸潤癌は3例で、噴門部に2例、幽門腺領域に1例認めた。

幽門腺領域の症例は51歳男性。健診の上部消化管内視鏡検査で、胃前庭部後壁に径25mmの粘膜下腫瘍様の立ち上がりを呈しひだ集中をともなう陥凹性病変を認めた。陥凹肛門側の上皮には不整形のびらんが散在していた。陥凹面は発赤調の再生上皮で覆われ明らかな表面構造や血管構造の不整は見られなかった。生検にて印環細胞癌が検出された。除菌歴や周囲粘膜の萎縮はなく、H.pylori  IgG抗体陰性(EIA法3.0U/ml未満)、鏡検法陰性であり、H.pylori未感染胃とした。幽門側胃切除術を施行し、病理組織学的には粘膜層では充実性に増生するpor1の像で一部に印環細胞癌が見られた。粘膜下層より深部では広範囲に浸潤する非充実性のpor2が主体で一部に印環細胞癌を認めた。深達度SEの進行胃癌であり静脈、リンパ管侵襲を認めたが、リンパ節転移は認めなかった。免疫組織学的所見についても追加し、報告する。

 

4. H.pylori未感染胃癌手術例の臨床病理学的特徴

  尾関 雄一郎1)、平澤 欣吾1)、前田 愼2)

  1)横浜市立大学附属市民総合医療センター 内視鏡部、2)横浜市立大学附属病院 消化器内科

【背景】H.pylori(HP)未感染の浸潤癌の特徴についてはまだ不明な点が多い。

【目的】HP未感染胃癌手術例の臨床病理学的特徴を調べる。

【対象と方法】2012年6月~2016年11月に当院で経験したHP未感染胃癌手術例18例を対象とし、後方視的に臨床病理学的特徴を調査した。HP未感染の定義は、(1)除菌歴なし、(2)内視鏡的萎縮なし(木村・竹本分類のC-0、体下部から胃角小弯にRACあり)の2つに加え、以下2項目のいずれかを満たすものとした:(3)血清抗HP抗体、尿素呼気試験、迅速ウレアーゼ試験、鏡検法の2つ以上で陰性が確認されたもの、もしくは(4)手術検体で背景粘膜の鏡検法でHP陰性と萎縮がないことが確認されたもの。

【結果】男性/女性13/5例、平均年齢60.8(42~79)歳であった。肉眼型と局在からA群:食道胃接合部癌12例、B群:4型胃癌3例、C群:前二者に該当しない2型・3型の癌3例、の3群に分けられた。 A群は平均年齢62歳、腫瘍径中央値54mm、組織型muc/未分化型優位/分化型優位2/2/8例、深達度SM/MP/SS以深1/4/7例であった。B群は平均年齢54歳、腫瘍径中央値165mm、組織型はすべて未分化型優位、深達度はすべてSS以深であった。 C群は平均年齢62歳、腫瘍径中央値67mm、組織型は未分化型優位/分化型優位2/1例、深達度はすべてSS以深 で、肉眼型はいずれもSMT様の立ち上がりを呈していた。

【考察】HP未感染胃癌には発生の異なるいくつかの群が存在すると考えられる。症例の集積により、それぞれの性質を明らかにしていくことが望まれる。

 

5. HP未感染の進行胃癌の臨床学病理学的的特徴

  田中 匡実、菊池大輔、布袋屋修

  虎の門病院 消化器内科

【背景・目的】近年Helicobacter pylori(HP)未感染胃癌の症例報告が増加している。HPの除菌が普及するにつれてHP未感染胃癌の症例は相対的に増加することが予想される。しかしながらHP未感染の症例は早期癌の報告が多数を占め、進行癌に関する報告は少ない。今回はHP未感染の進行胃癌の特徴を明らかにすることを目的とした。

【対象】2011年6月から2019年12月まで進行胃癌で治療前に当院で上部消化管内視鏡検査が施行された639症例を対象とした。ただし、病理がSCCのみであるものは除外した。なお、HP未感染の定義として今回の検討では内視鏡所見のみで診断(臨床での診断)し、京都分類に従い背景粘膜に萎縮がなく、体下部小弯にRACを認め、HP感染を疑う粘液の貯留や鳥肌胃炎などのHP感染の所見を認めないものとした。

【結果】HP未感染の進行胃癌は34症例(進行胃癌全体の5.3%)であった。性別は男/女=29(85.3%)/5(14.7%)、平均年齢は58.6±15.1歳(29-88)であった。部位は全症例U領域であり、接合部癌が33症例(97.1%)(EG:GE=6症例:27症例)であった。組織系は分化型優位が14症例、未分化型優位が16症例、内分泌細胞癌が3症例、腺扁平上皮癌が1症例であった。発見の契機としては通過障害などの症状が出現して内視鏡を行った症例が23症例(67.6%)、健診のバリウムで指摘された症例が10症例(29.4%)、その他、癌性リンパ管症の精査目的が1例(3.0%)であった。

【結論】HP未感染の進行胃癌は全症例でU領域に発生し、若年の男性に多かった。また、食物の通過障害や嚥下障害などの症状で発見される症例の割合が多かった。

 

6. Helicobacter pylori未感染胃癌における浸潤癌の検討

  吉村大輔1),落合利彰1),北川祐介1)、加藤誠也2)、吉村理江3)

  1)済生会福岡総合病院 消化器内科、2)済生会福岡総合病院 病理診断科、

  3)人間ドックセンターウェルネス

【背景と目的】Helicobacter pylori(以下Hp)感染率の低下を反映して,近年Hp未感染胃癌の報告が増えているが,その自然史と生物学的悪性度は未解明である.

【方法】2005年4月から2020年1月までに経験したHp未感染胃癌について,臨床病理学的特徴と粘膜下層(SM)以深へ浸潤を認めた病変の頻度を検討した.Hp未感染の定義は,内視鏡診断,感染診断,組織学的診断のすべてが未感染と診断しうるものとした.

【成績】対象症例は68例,平均年齢55.4歳,男女比49:19であった.内訳は噴門部癌および食道胃接合部腺癌16例,U領域を中心に胃底腺領域に局在する胃型形質の低異型度腺癌23例,胃底腺と幽門腺の境界領域に局在する褪色平坦型の印環細胞癌27例,体部4型1例,幽門前庭部3型1例で,拙既報の通り組織型と肉眼型は周囲粘膜,発生部位と密に関連していた.SM以深浸潤を認めた病変は27例(40%),進行癌は14例(21%)であった.

 噴門部癌・食道胃接合部腺癌は大部分が壮年男性で,14例が浸潤癌,11例が進行癌であった.胃型低異型度腺癌は腺窩上皮ないし胃底腺,偽幽門腺に類似した低異型度腫瘍が単一ないし種々の割合で混在した構築を成し,腺窩上皮型癌成分を有する病変では10例中1例で,純粋な胃底腺型胃癌では13例中8例でSM浅層浸潤を認めた.胃底腺幽門腺境界領域の印環細胞癌は2例で低分化型腺癌が混在しSM以深浸潤を認めた.ほか体部の広範な4型(por/sig)病変と,異所性膵から発生したと思われる幽門前部大彎の3型病変(tub2+muc)を認めた.

【結論】Hp未感染胃癌における浸潤癌は大多数が噴門部癌であり,最も留意すべき領域と考える.他の領域にも少数ながら進行癌も存在し,その自然史の検討には多数の症例蓄積と集約化が必要と考える.

 

第3部

1. 除菌後の胃癌及び胃腺腫に対するLCIを用いた内視鏡スクリーニングの有用性 

  八木信明、林 完成、中畑由紀、向井理英子、尾松達司、坂元直行、大洞昭博、小島孝雄1)、加藤元嗣2)

  川田研郎3)、小野尚子4)、土肥 統、石川秀樹5) 

  1)朝日大学病院消化器内科 2)国立病院機構函館病院 3)東京医科歯科大学 4)北海道大学 5)京都府立医科大学

【目的】H. pylori除菌胃に限定したLCIの内視鏡スクリーニングの有用性を多施設前向き研究であるLCI-FINDのサブ解析と朝日大学病院の単施設後ろ向き研究から明らかにする。

【方法】①LCI-FINDのサブ解析は2016年から2018年に消化管がんの既往または担癌の患者を対象に、WLI先行群とLCI先行群に分け、拾い上げた腫瘍性病変を検討したLCI-FINDのデータから除菌成功症例について解析した。②朝日大学病院で2014年から2018年に除菌成功後に発見され、WLIとLCIの比較ができたESD症例45例49病変を後ろ向きに解析した。

【結果】①全国19施設で1504名がランダム化され、WLI先行群752名,LCI先行群750名が最終解析対象となった。全体ではLCIはWLIに比して有意に腫瘍の拾い上げが高く(p=0.011、リスク比1.67)、見落とし率はWLI群で有意に高かった(p<0.001)。除菌成功症例は566名(WLI:277名、LCI:289名)であり、腫瘍性病変の発見率(WLI:2.5%、LCI:4.5%)、胃癌発見率(WLI:1.8%、LCI:3.5%)はLCIで高率であり、見落とし率(WLI:63.2%、LCI:0%)はLCIで低率であった。②主観的評価では、LCIの視認性はWLIよりも有意に高く(WLI: 1.74、LCI: 2.48)。客観的評価でも、LCIの色差はWLIよりも有意に高値であった(WLI: 14.7、LCI: 25.5)。

【結語】LCIはWLIに比べて腫瘍性病変の拾い上げに有用であり、除菌後胃癌のスクリーニングに活用できる。

 

2. 定期的な内視鏡フォローで見逃され、HP除菌18年後に肝転移を伴う進行胃癌として発見された除菌後胃癌の1例

  東納重隆、正木宏明

  セコメディック病院 消化器内科 

症例は70代男性。

主訴:なし。

既往歴:胃潰瘍にて18年前に他院でHP除菌治療を実施し、成功している。6年前より毎年当院で人間ドックを受検し、上部消化管内視鏡検査を受けていた。

現病歴:201X年当院で人間ドックを受検。上部消化管内視鏡検査にて胃角小弯にtype2 病変を認めた。

経過:生検病理で低分化腺癌と診断。造影CTにて多発肝転移およびリンパ節転移を認め、腹膜転移の可能性も示唆された。ご本人、ご家族に上記所見を説明し化学療法をお勧めしたが積極的治療は希望されず緩和治療を希望。その後永眠された。

考察:HP除菌後に発生する胃癌と除菌前から存在する微小胃癌の増大との鑑別は困難であり、除菌後10年以上を経過して発見された胃癌は除菌後新規に発生したものと推測されている。今回の症例は除菌治療終了後10年以上を経過して発見されているため除菌後に新規発生した胃癌と思われる。HP除菌後に発生する胃癌では表面が非癌上皮に被覆されることもあり、早期発見が困難な場合があることが報告されている。今回の症例の内視鏡所見を見直すと、1年前の内視鏡所見では胃癌の発生した部位に粘膜下腫瘍様のわずかな隆起とびらんを認めるが癌を強く示唆する粘膜不整所見はなく、通常内視鏡検査では胃癌と診断することは困難であった。しかしながら臨床経過からは1年前に既に胃癌組織が存在していたと思われ、拡大内視鏡観察の追加や粘膜下層を採取するような深めの生検、慎重なフォローアップなどが望まれる所見であったと反省される。今後、HP除菌後の患者が増加するため本症例のような早期発見が困難な胃癌症例も増加すると思われ、注意深い観察が必要である。

 

3. 除菌後、内視鏡的経過観察していたが、SM massive癌で発見された1例

  八木一芳1)、中村厚夫2)、星 隆洋1)、阿部聡司、1)、森田慎一1)、須田剛士1)、寺井崇二3)

  1)新潟大学地域医療教育センター・魚沼基幹病院 消化器内科、2)新潟県立吉田病院 内科、3)新潟大学大学院医歯学総合研究科消化器内科分野

除菌後発見胃癌が近年増加している。胃炎様で診断が困難な胃癌が従来の胃癌に比し多いことが指摘されている。胃潰瘍で除菌され13年後にSM癌で発見された胃癌を経験したので報告する。

症例:6X歳 男性 200X年に胃潰瘍で近医で除菌し成功する。9年後の201Y年に前庭部のⅡa+Ⅱcを指摘され、新潟県立吉田病院に紹介され、ESDが行われた。Tub1 M 20mmで治癒切除であった。その後、年一回の内視鏡検査が201Y+1、201Y+2、201Y+3と施行されたが新病変は指摘されなかった。201Y+4年の内視鏡検査で体下部大弯後壁側にⅡcが発見され、生検でtub2であった。SM massive 癌の診断で外科切除の前にマーキングが1か月後に施行されたが、その時は潰瘍形成し0-Ⅲになっていた。幽門側切除D2、B-Ⅰ法、pT1b(SM 2300μm) N0 M0 stageⅠAであった。問題点は1年前に内視鏡を施行しているにもかかわらず病変を指摘できなかったことである。施行医は拡大内視鏡を含めて胃に関しては十分な経験を有する内視鏡学会専門医であった。写真の見直しからも明らかな病変を指摘することは不可能であった。胃内視鏡像は除菌により胃底腺粘膜を含め胃型粘膜は白色調で腸上皮化生は発赤調で色調逆転が著明であった。癌病変は腺境界のやや萎縮側で癌の周囲には胃底腺などの胃型粘膜を示す白色調粘膜が腸上皮化生を示す発赤調粘膜の中に隆起状に散在性に存在した。すなわち癌は内視鏡的にはいわゆる中間帯に存在した。組織検討でも萎縮を伴った胃底腺と腸上皮化生が混在した中間帯の中に癌は存在した。我々の検討では除菌後発見胃癌の半数以上は中間帯より発見されており、凹凸が目立つことより背景に目を奪われ、発見が難しいと思われる症例も存在している。除菌後症例では中間帯の注意深い観察が必要と考えている。

 

4. 胃ESD後・Helicobacter pylori除菌後異時性SM以深胃癌の特徴

  鈴木晴久1、阿部清一郎1、小田一郎1、関口正宇1、高丸博之1、野中哲1、吉永繁高1、斎藤豊1、吉川貴己2、

  片井均2

  1) 国立がん研究センター中央病院 内視鏡科、2) 同 胃外科

目的:胃ESD後・Helicobacter pylori(HP)除菌後異時性SM以深胃癌の特徴を検討する。方法:当院で1999年から2017年までに通常胃の早期癌にESDを施行した5003例5778病変のうち、ESD後1年以上経過し診断された異時性胃癌を931病変認め、更にHP除菌後異時性癌は385病変であった。このうちSM以深癌17例18病変の特徴(①臨床病理学的特徴、②病変発見期間や前回検査時の状況など)を検討する。

結果:①男/女=15/2、異時性癌発見時平均年齢:70±7歳、部位:U/M/L=9/5/4、後壁/前壁/小弯/大弯=10/1/4/3、腫瘍径中央値=15.5(4-32)mm、深達度:SM1/SM2=9/9、主組織型:分化型/未分化型/混在=13/1/4、UL:有=4、脈管侵襲:有=9、根治度(全例ESDを施行):eCuraB/eCuraC-2=3/15(ESD後に手術12(遺残・リンパ節転移0)、経過観察3)、地図状発赤:有=11、②初回ESD/ HP除菌確認/前回検査(*)からの平均発見期間=83.0±46.4/52.6±46.3/10.7±2.0カ月(*詳細不明な1例を除外)、癌発見時f/u施設=当院/他院=16/2、全例1年毎に内視鏡を施行、前回検査時(*)の状況:観察しているが指摘不能/指摘可能/病変部の画像なく評価不能=8/4/5で、後2者9病変の主な部位は噴門/体部後壁=3/3であった。

考察:HP除菌後も長期にわたり異時性胃癌に注意すべきである。特にU領域、後壁は見落としに注意が必要である。

 

5. 除菌後浸潤胃癌の臨床病理学的特徴

  小林正明1)、盛田景介1)、青栁智也1)、栗田聡1)、塩路和彦1)薮崎裕2)、中川悟2)

  1)新潟県立がんセンター新潟病院内科、2)同 消化器外科 

【背景】除菌介入後は、内視鏡治療ができる段階で発見することが、担当医ならびに内視鏡医の責務である。粘膜下層以深浸潤癌で発見された胃癌の特徴を明らかにするため、手術例も含めて検討した。

【方法】2015年~2019年の5年間に当院で診療した除菌後胃癌307症例354病変を対象とした。初回治療として217症例はESD、90症例は手術を行った。切除後の病理結果で胃癌治療ガイドライン内視鏡的根治度AまたはBに該当した257病変をESD根治群、それ以外であった97病変を浸潤群に分けて、病変単位で比較した。

【結果】患者背景は、浸潤群69歳でやや若年であったが、性差はなく、除菌後期間はESD根治群43か月、浸潤群45か月で差はなかった。除菌後長期経過(>10年)例も、ESD根治群14%、浸潤群19%で有意差はなかった。除菌対象疾患は、ESD根治群でESD/EMR後(21%)が多いのに対し、浸潤群ではH. pylori感染胃炎(59%)が多かった。発見時の内視鏡検査は、ESD根治群でESD/EMR後や消化性潰瘍に対する医療機関での経過観察目的(55%)が多いのに対して、浸潤群は検診ドック(57%)が多かった。病変発見前2年以内の定期検査有りは、ESD根治群69%、浸潤群59%で差はなかった。大きさは、ESD根治群13mm、浸潤群29mmで有意差があった。局在は、ESD根治群でL領域66%、浸潤がん群はMU領域71%を占め特徴的であった。病変発見時の背景粘膜は、高度萎縮がESD根治群59%、浸潤群36%と対照的であった。病理所見は、浸潤がん群には進行癌29病変が含まれ、組織型は、ESD根治群は分化型単独(90%)、浸潤群は分化型優位組織混在型(36%)や未分化型(24%)が多かった。

【結論】除菌後浸潤癌の多くは、胃体部領域の未分化型や組織混在型であり、粘膜萎縮が比較的軽く、H. pylori感染胃炎や消化性潰瘍で除菌された症例に、検診やドックで発見されることが多い。

 

6. pylori除菌後胃癌の臨床病理学的検討~未分化癌・進行癌を中心に~

  兒玉雅明1,2、沖本忠義1、水上一弘1、小川 竜1、岡本和久1、福田健介1、川原義成1、平下有香1、福田昌英1

 松成 修1、阿部寿徳3、安部高志4、永井敬之4、村上和成1

 1.大分大学医学部消化器内科学講座、2.大分大学福祉健康科学部、3.あべ胃腸病内視鏡クリニック、4. 大分県厚生連鶴見病院

 【目的】近年H. pylori除菌後胃癌が新たな問題となっている。大部分は分化型だが未分化型胃癌は予後の点から注意が必要と考える。今回除菌後胃癌における未分化型胃癌の臨床病理学的特徴について検討を行った。

 【方法】当院および関連施設にて認めた除菌後胃癌115症例129病変にてtub1, tub2を分化型群、sig, porの成分を含むものを未分化型群として性、除菌時年齢、胃癌発見時年齢、除菌から胃癌発見までの期間、除菌後経過観察有無、肉眼的および病理組織学的特徴を比較した。両群比較の検定としてカイ二乗検定およびt検定を用いた。

 【結果】除菌後胃癌129病変 (男性113例、女性26例)において、分化型群および未分化型群の各因子の比較は、男女比 94/19 vs. 9/7, P=0.019、除菌時年齢65.5±8.24 vs. 61.6±9.34, P=0.045、発症年齢69.7±8.96 vs. 66.0±8.32, P=0.074、除菌後経過観察有/無86/27 vs. 8/8, P=0.0263、部位(U/M/L)19/50/44 vs. 2/7/7, P=0.886、腫瘍径13.2±10.2 vs. 25.9±7.3, P<0.001、隆起/陥凹38/68 vs. 1/13, P=0.024、深達度 (M/SM以深)99/14 vs. 7/9, P<0.001であり、男女比、除菌後経過観察の有無、腫瘍形態、腫瘍径、深達度に有意差を認めた。

 【結論】除菌後未分化型は分化型と比較し女性比率が高く、有意にSM以深が多い等の臨床病理学的差異が認められ、除菌後これらの所見への注意、除菌後follow upの必要性が示唆された。しかし除菌後未分化型胃癌については依然症例数が少なく更なる解析の必要性が考慮された。

 

7. Helicobacter pylori除菌後スキルス胃癌の臨床病理学的特徴

背景・目的:H. pyloriHP)除菌後胃癌スキルス胃癌の報告は稀である。未だ不明な部分が多いその臨床病理学的特徴を明らかにするべく検討を行った.

方法:2015年2月から2019年7月までに当院で内視鏡検査を施行し, 抗HP血清IgG抗体価が測定されていたスキルス胃癌96例の内, 除菌後16症例とHP現感染34症例を抽出し対象とした. 除菌成功の定義は, 除菌療法を施行後1年以上経過しての発見且つ, 抗HP血清IgG抗体価≦9.9 U/mlとした. 検討項目は, ①: 除菌後群と現感染群の臨床病理学的特徴を比較検討, ②:除菌後スキルス胃癌の詳細を検討, とした.

結果:①:除菌後と現感染ではそれぞれ年齢中央値は60歳 (42-78), 66歳 (29-84), 腫瘍径中央値120mm(50-150), 100mm (50-200), 原発部位 (U/M/L/不明)は6/5/4/1例, 11/11/11/1例, 背景粘膜の萎縮 (Closed/Open/不明)は4/3/9, 2/15/17であった. Stage (ⅡorⅢ/Ⅳ)は5/11例, 6/28例, 治療 (手術/化学療法)は7/9例, 8/26例, 癌遺残 (R0/R1/R2/切除不能)は6/1/0/9例と7/1/0/20例であった. ②除菌から病変指摘までの期間中央値は3年(1-24). 指摘前に内視鏡検査を受けていた群では37.5%(3/8), 内視鏡を受けていない又は不明の群では100%(8/8)がStageⅣでの発見であった.

結語:スキルス胃癌全体の内, 除菌後胃癌は16.7%に認めた. 除菌後に対する内視鏡サーベイランスはスキルス胃癌の予後を改善する可能性が示唆された.

詳細

日付:
2020年5月24日
時間:
1:30 PM - 4:00 PM
イベントカテゴリー:

会場

国立京都国際会館
京都府京都市 左京区宝ヶ池 〒606-0001 + Google マップ
Phone
075-705-1234
会場 のウェブサイトを表示する
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