堀内 朗(昭和伊南総合病院消化器病センター)
後藤田 卓志(日本大学医学部内科学系消化器肝臓内科学分野)
中山 佳子(信州大学小児科)
2019年6月2日(日)13:30~16:00
第12会場(グランドプリンスホテル新高輪 国際館パミール 1階『暁光』)
「第一回小児消化器内視鏡医育成のための研究会開催後の活動報告(駒ヶ根プログラムを含めて)」
昭和伊南総合病院消化器病センター
○堀内 朗
1.小児科医による消化器内視鏡研修-成人消化器内科での小児科業務並行型研修
富士市立中央病院小児科1),富士市立中央病院消化器内科2),東京慈恵会医科大学小児科学講座3) ,東京慈恵会医科大学消化器・肝臓内科4)
◯松岡諒1)3),伊藤公博4),金井友哉2)4),鳥巣勇一2)4),佐伯千里2)4)
2.小児科医の内視鏡研修の一例
国立病院機構大阪医療センター小児科1),大阪母子医療センター消化器内分泌科2)
昭和伊南総合病院消化器病センター3)
○五味久仁子1)、惠谷ゆり2)、堀内朗3)
3.当院での小児消化器内視鏡検査の現状と小児内視鏡医育成の課題
富山県立中央病院小児外科1),富山県立中央病院消化器内科2)
◯中島秀明1),松田耕一郎2),山崎徹1),松田充2),岡田安弘1),酒井明人2)
4.小児消化器内視鏡医育成に必要な施設要件とは
新潟市民病院消化器内科消化器内科1),新潟市民病院小児外科2),新潟市民病院小児科3) ,すぎむらクリニック4)
◯古川浩一1),弥久保俊太1),大崎暁彦1),佐藤宗広1),相場恒夫1),米山靖1),和栗暢生1),飯沼
泰史2),平山裕2),松井享3),杉村一仁4)
ディスカッサント:堀内先生、松岡先生、五味先生、中島先生、古川先生
国立成育医療研究センター 消化器科 新井勝大先生
基調講演. 第一回小児消化器内視鏡医育成のための研究会開催後の活動報告(駒ヶ根プログラムを含めて)
本附置研究会は、小児の消化器診療に携わっている小児科医・小児外科医が、日本消化器内視鏡学会に参加し、日本消化器内視鏡学会専門医を取得できる環境を学会とともに構築してくことを目的としている。小児科医・小児外科医が専門医を取得するための研修方法の一つとして当院で実施している駒ヶ根プログラムと第一回附置研究会開催後の活動ついて報告する。駒ヶ根プログラムの対象者は、消化管内視鏡検査の経験がまったくない小児科・小児外科の研修医、専門医。上部消化管内視鏡検査研修では、参加者 31 名が 2 週間で約 100例を経験し、指導医の下で単独で検査を完遂可能になった。下部消化管内視鏡検査研修では、参加者 12 名が研修 6 週間で盲腸到達率約 95%以上、3 ヶ月で内視鏡治療を実施できるレベルに到達した。駒ヶ根プログラムは、消化管内視鏡検査の研修に時間をあまり割けない小児科・小児外科の研修医、専門医が実施可能な研修法と思われた。第 45 回日本小児栄養消化器肝臓学会(2018 年 10 月 5 ~ 7 日、さいたま市)では、日本小児栄養消化器肝臓学会員に本附置研究会の趣旨、活動内容について報告し積極的な参加を求めた。2019 年 3 月 28 日は、小児科医・小児外科医を対象に大腸内視鏡検査法習得を目指して大腸セミナーを開催した。また、日本消化器内視鏡学会指導施設の指導責任者の先生に小児科医・小児外科医の内視鏡研修の可能性や条件等についてのアンケート調査を実施した。
1. 小児科医による消化器内視鏡研修
【緒言】小児消化器病診療では小児特有の疾患・鎮静法などから小児科医による消化器内視鏡検査(以下内視鏡)が望ましい.本邦では小児科医が内視鏡を学ぶ機会は限られ,内視鏡技術の向上・維持としての件数は小児症例のみでは十分ではない.小児科医のための消化器内視鏡研修のモデルケースの 1 つとして,当院で行っている研修プログラム,「小児科業務並行型研修」を報告する.
【研修概要】当院では小児科医が小児科業務と平行して消化器内科の協力の元,成人症例を対象とし,週 1 回の内視鏡研修を行なっている.研修以外は小児科医として業務を行っており,いわゆる「小児科業務並行型研修」と称す.午前中は上部,午後は大腸内視鏡を中心に 1 日で平均 5-8 件の内視鏡を行う.その他,逆行性胆管膵管造影(ERCP),超音波内視鏡(EUS),治療内視鏡,緊急内視鏡などの見学・補助を行う.
【研修結果】演者は 2017 年 4 月~ 2018 年 3 月の 1 年間で,上部内視鏡・大腸内視鏡を中心に筆頭術者として約 300 件の内視鏡を経験した.検査に伴う偶発症・合併症は認めなかった.
個人技術の習得度を,小児症例の大腸内視鏡で他人の補助なく盲腸まで到達できた割合(盲腸平均到達率)と検査開始からの盲腸までの到達時間(盲腸到達平均時間)を客観的に評価した.研修の結果,最終 6 か月では 100%の盲腸到達率を達成でき,盲腸到達時間からは安定した内視鏡挿入技術が得られた.
【結語】「小児科業務並行型研修」では目標の消化器内視鏡件数を達成でき,一定の成果が得られたと考えられる.本研修は,内視鏡技術の習得と並行しながら小児科医としての研修・仕事を継続できることが最大のメリットとしてあげられ,日本消化器内視鏡学会指導施設での研修であれば小児科医としてキャリアを積みつつ内視鏡専門医を目指すことができる.小児消化管内視鏡研修体制の確立のためには,成人消化器内科の協力が必要である.
2 . 小児科医の内視鏡研修の一例
【背景】サブスペシャリティとして消化器領域を目指す小児科医が消化管・肝胆膵の症例を経験するに従い、消化器内視鏡の必要性を認識するが、比較的症例数の多い小児病院や大学病院でも小児症例のみで内視鏡検査に手技・所見に精通するのは容易ではない。演者は昭和伊南総合病院消化器病センターで、消化器内視鏡研修の短期間集中プログラム(以下、駒ヶ根プログラム)で 1 週間研修後、月に 1,2 件の内視鏡検査を行っていたが、手技の維持のため、再度、駒ヶ根プログラムで 1週間研修後、月 1 回の 1 日研修を同センターで行い、症例を経験させて頂いている。自身のこれまでの内視鏡研修の経験を通じ、内視鏡専門医制度について考察する。
【内視鏡研修の経過】初回の駒ヶ根プログラムを経験するまで、上部消化管内視鏡は約 20 例、下部消化管内視鏡は未経験であった。初回の 1 週間で上部消化管内視鏡を約 50 例、下部消化管内視鏡を数例経験し、2 回目もほぼ同症例を経験した。月 1 回の 1 日研修では上部消化管内視鏡を約 10 例、下部消化管内視鏡を 1,2 例経験している。
【考察】新専門医制度は目安として 3 年以上の間に消化器内視鏡指導医が所属する施設ならびに専門研修連携施設で、上部消化管内視鏡検査・治療 1000 例、下部消化管内視鏡検査 300 例、治療内視鏡は最低症例数が決められ、原則 JED に症例登録をするカリキュラム制である。仮に演者が週1回の研修を行うと、上下部内視鏡件数のみで約 3 年を要し、更に治療内視鏡の経験が必要である。各施設・各科の協力を頂いても、小児科専門医が内視鏡専門医をサブスペシャリティとするのは閾値が 高い。日本内分泌学会では内科・小児科・産婦人科・泌尿器科・脳神経外科の各科でカリキュラムを採用している。小児で多い症例の治療内視鏡技術や成人領域の専門家と協力できる知識を獲得するカリキュラム等、小児科専門医の内視鏡研修がより活発となるような研修方法の検討が望まれる。
3 . 当院での小児消化器内視鏡検査の現状と小児内視鏡医育成の課題
【目的・方法】当院での 15 歳以下の小児患者における消化器内視鏡(以下,内視鏡)検査の現状を示し,消化器内視鏡学会(以下,学会)専門医の取得要件,ならびに小児内視鏡修練の課題を考察する.なお当院は内視鏡の年間件数が約 10,000 件,消化器内科後期研修医の年間経験件数が約 1,500 件の学会指導施設である.
【結果】2007 年から 2018 年の小児内視鏡件数は計 326 件であり,内訳は上部 183,下部 112,小腸内視鏡 6,内視鏡的逆行性膵胆管造影(ERCP)10,超音波内視鏡(EUS)3,カプセル内視鏡12 であった.上部での治療内視鏡は 79 件で,内容は拡張術52,異物摘出 14,止血術 4,チューブ留置または抜去 4,外科手術補助 4,ドレナージ 1 であった.下部での治療内視鏡は11 件で,内容はポリペクトミー 9,外科手術補助 1,マーキング法 1 であった.偶発症は鎮静中の呼吸停止,気腹症の 2 例であった.
【考察】当院の場合,常勤の消化器内科医であれば数年で,非常勤であっても学会入会後の 5 年間の研修で,学会専門医取得のための検査施行数が充足される可能性がある.小児内視鏡の件数は年間平均 30 例であり,ERCP,EUS,治療内視鏡など複雑な手技も含まれたが,偶発症の頻度は低かった.学会専門医の取得と内視鏡技術の維持には,一定数の検査施行 経験が必要であるが,そのためには消化器内科で常勤ないし非常勤として継続的に研修するのが重要である.小児内視鏡の安全な手技習得も可能と考えられる.一方で,小児内視鏡医として疾患の専門性や体格の未熟性に対応するには,より多くの小児例を経験する必要もあろう.小児消化器科が専門科として確立され,症例数が集約化された施設での研修が提供される必要がある.
4. 小児消化器内視鏡医育成に必要な施設要件とは
背景と目的:小児内視鏡を行う上では生育に応じた適切な前処置、術中術後の管理が必要であることから、小児消化器内視鏡医育成施設は当然のことながら内視鏡に加え小児の診療にも一定の水準が求められる。2016 年度の小児入院 1022 例、NICU 入院 249 例、小児手術数 371 件の市中医療機関である当院の小児内視鏡の現況をかえりみて小児内視鏡を安全に行うにあたり必要な医療資源について検討する。
方法:対象調査期間 2007 年 12 月~2017 年 11 月
対象 16 歳以下の内視鏡検査 341 件(上部消化管内視鏡検査 199 件、下部消化管内視鏡検査 140 件、胆膵内視鏡 2 件を対象とした。年齢構成、内視鏡実施時の鎮静や麻酔の状況を調査した 結果:年齢別では生育特性、就学状況から区分し A 群 0 歳から 2 歳 ;63 件 B 群 3 歳から 6 歳 ;43 件 C 群 7 歳から 10 歳 ;47件 D 群 11 歳から 12 歳 ;43 件 E 群 13 歳から 16 歳 ;144 件の構成 で あ っ た。A/B/C/D/E 各 群 の 全身麻酔率(%)は96.9/86.0/53.2/42.9/7.6、静脈麻酔率(%)3.1/14.0/46.8/58.4/61.1 であった。
考察:小児内科・外科医が内視鏡学会専門医を取得するにあたっては、小児内視鏡医は基盤が成人、小児の内科・外科医を問わず、既存の内視鏡学会専門医の研修に上乗せした内容で対応可能と考えられる。一方、小児内視鏡の実施に際しては生育状況や背景疾患を踏まえた配慮が必要と考えられる。当院の状況を鑑みた場合、修練施設は小児科、小児外科との連携がなされ、小児の全身麻酔も完備されていることが望ましいと考えられた。全身麻酔比率が高い新生児や未就学児は更なる施設規準をもうける制度設計が必要と考えられた。
結語:小児内視鏡医育成の制度設計においては適切な施設要件を定め、対応可能な指導医を確保していくことが重要である。
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※終了予定:12/2(月) 正午