鎌田 智有 (川崎医科大学 健康管理学)
寺尾秀一 (加古川中央市民病院 消化器内科)
丸山保彦 (藤枝市立総合病院 消化器内科)
2019年6月2日(第97回日本消化器内視鏡学会総会) 13:30~16:00
第6会場(グランドプリンスホテル新高輪 国際館パミール 2階 『青葉』)
寺尾秀一 (加古川中央市民病院 消化器内科)
丸山保彦 (藤枝市立総合病院 消化器内科)
「国内外におけるA型胃炎の診断の動向」
演者 川崎医科大学 健康管理学 鎌田智有
「A型胃炎の組織診断基準:これで、どこまで診断可能か」
演者 PCLジャパン病理・細胞診センター、新潟大学名誉教授 渡辺英伸
「A型胃炎の診断基準作成のための現状と問題点」
寺尾秀一 (加古川中央市民病院 消化器内科)
丸山保彦 (藤枝市立総合病院 消化器内科)
各演題発表6分 追加発言4分 質疑応答1分 総合討論35分
1.A型胃炎9例の検討
湘南鎌倉総合病院消化器病センター
〇佐々木 亜希子、江頭 秀人、市田 親正、田澤 智彦、西野 敬祥、 木村 かれん、田崎 潤一
2.A型胃炎診断の現状と問題点
宇治徳洲会病院 健診センター 1)、消化器内科2)
〇小寺 徹1)、安田 光徳2)
3.健診受診者における自己免疫性胃炎の頻度に関する検討
島根県環境保健公社総合健診センター
〇足立 経一、野津 巧、三代 知子
4.追加発言それぞれ異なる内視鏡所見,血液検査所見を示したA型胃炎の3症例
星ヶ丘医療センター 消化器内科
〇新宅 雅子
5.自己免疫性胃炎の臨床的特徴と組織学的特徴 北海道大学病院
光学医療診療部1)、同 消化器内科2)
〇石川 麻倫1)、小野 尚子2)
6.当施設で診断したA型胃炎の臨床的所見の検討
川崎医科大学総合医療センター 健康管理学1)、同 総合内科学2 2)、同 検査診断学(内視鏡・超音波)3)、淳風会 健康管理センター 4)、 同 ロングライフホスピタル5)、川崎医科大学 消化管内科学6)
〇角 直樹1)、鎌田 智有1)、末廣 満彦2)、眞部 紀明3)、井上 和彦4)、久本 信實5)、塩谷 昭子6)、河本 博文2)、春間 賢2)
7.当科における自己免疫性胃炎(AIG)の診断と問題点について
春藤内科胃腸科1)、とくしま未来健康づくり機構2)、 徳島大学消化器内科3)
〇春藤 譲治1)、青木 利佳2)、岡久 稔也3)
8.自己免疫性胃炎の診断に関する検討
東京女子医科大学 消化器内視鏡科1)、消化器内科2)
〇岸野 真衣子1)、中村 真一1)、徳重 克年2)
9.自己免疫性胃炎の診断
浜松医科大学臨床研究管理センター 1)、同 第一内科2)、同 学光学医療診療部3)
〇古田 隆久1)、山出 美穂子2)、魚谷 貴洋2)、鏡 卓馬2)、鈴木 崇弘2)、樋口 友洋2)、濱屋 寧2)、杉本 健2)、谷 伸也3)、大澤 恵3)
10.A型胃炎(AIG)の診断基準-PCA陰性・低値例について
藤枝市立総合病院 消化器内科
〇寺井 智宏、丸山 保彦
11.病理学所見を必須した基準からみた場合の主要検査項目陽性割合の検討
加古川中央市民病院 消化器内科
〇鈴木 志保、寺尾 秀一
指定演題. 国内外における A 型胃炎の診断の動向
A 型胃炎は本邦では欧米に比較してその頻度は少ないと考えられてきたが、内視鏡検診や胃がんリスク層別化検診における D 群などを契機にその報告例は近年増加している。しかしながら、その診断基準は未だ確定したものはなく、各施設のそれぞれの基準で診断が行われているのが現状である。
海外における A 型胃炎の診断は、その特徴的な病理組織学的所見および抗胃壁細胞抗体や抗内因子抗体検査を中心に行われている。内視鏡検査では胃粘膜組織を採取することを主目的とし、内視鏡所見は感度・特異度が低い、観察者間の一致率が低いことから、病理学的および血清学的所見が主に診断 に取り入れられている。A 型胃炎の病理組織像は初期相から 終末相にかけて異なるが、その典型的な特徴として、胃体部粘膜は壁細胞の消失、粘膜固有層のリンパ球・形質細胞浸潤、腸上皮化生および偽幽門化生、ECL 細胞過形成(線状・結節状)などを認めると報告されている。
本邦における A 型胃炎の診断については、まず内視鏡検査にて胃体部優勢の萎縮、すなわち逆萎縮の所見からその拾い上げはある程度可能である。このような内視鏡所見から A 型胃炎を疑った際には、前庭部と胃体部粘膜からの胃生検を行い、典型的な病理学的所見を確認することや ECM の有無(HE染 色およびクロモグラニン染色)が診断の重要なカギとなる。さらに、血液検査にて空腹時ガストリンおよび抗胃壁細胞抗体 や抗内因子抗体の測定、さらには血清ペプシノゲン測定が必要と考えられるが、保険適用で測定が可能なのはガストリンのみであり、臨床診断の課題も残されている。
本指定演題では、海外における A 型胃炎の診断について主な文献をレビューし、本邦での診断基準作成にどこまで沿えるかなどについて発表する。
特別講演. A 型胃炎の組織診断基準 : これで、どこまで診断可能か
A 型胃炎の診断は、臨床所見(貧血、抗壁細胞抗体ないし抗内因子抗体の異常、内視鏡上での胃底腺粘膜萎縮)と病理組織所見(胃底腺粘膜萎縮と ECL 細胞過形成)の組み合わせで行われています。胃炎の国際分類 The Sydney System 普及で、A 型胃炎の組織診断に必須の胃体部大弯粘膜が常時観察できるようになってきました。これによって、2006 年から 2017 年までに鉗子生検で確認された A 型胃炎 94 例中、64 例の 68%が組織像で A 型胃炎と診断されました(後に、胃底腺粘膜萎縮確認。未発表資料)。
以下に、演者の A 型胃炎組織診断基準の試案を挙げました。
#1:胃底腺粘膜の萎縮が高度
・粘膜高の低下(腺管の短縮)と胃小窩の延長。胃小窩長:腺管 長= 1:1
・壁細胞の消失・著減(遺残する壁細胞は変性・萎縮性)
・主細胞の消失・頸粘液細胞化生(頸粘液細胞が少数散在)
・化生幽門腺の増加(この部に ECL 細胞過形成を伴う) → 減少 (腸上皮化生の増加で)
#2:Enterochromaffin-like(ECL)cells 細胞過形成:あり (軽 度~高度)
・腺管内(intraglandular ECL cell hyperplasia):あり
・腺管外(extraglandular ECL cell hyperplasia):あり~なし
#3:慢性炎症細胞浸潤: ・萎縮性腺部の周囲に CD3 陽性 T リンパ球が増加。腺管の破 壊や好中球浸潤(+)/(-)
#4:ガストリン細胞の過形成:あり>なし。
1. A 型胃炎 9 例の検討
【背景】当院で経験した A 型胃炎の診断と臨床病理学的特徴について検討した。
【方法】2016 年 10 月から 2018 年 12 月の間に当院の上部消化管内視鏡検査で高度萎縮性胃炎(木村竹本分類 O-3、O-p)を認めた 864 例のうち、A型胃炎と診断した 9 例を対象とした。A 型胃炎の診断は内視鏡検査で胃体部優位の萎縮があり(逆萎縮)血液検査で高ガストリン血症と抗胃壁細胞抗体が陽性であることを原則とし、それらを満たさない症例については抗内因子抗体、悪性貧血や多発神経内分泌腫瘍(neuroendocrine tumor:NET)、病理組織学的な内分泌細胞微小胞巣(endocrine cell micronest:ECM)の存在を参考に A 型胃炎と診断した。
【結果】診断時の平均年齢は 63.3 歳(41-82 歳)、男女比 6:3 で、平均経過観察期間は 5 年(0.5-21 年)、初診時の主訴は貧血が 6例(66.7%)で最多であった。平均ガストリン値は 3214pg/ml(727-7306pg/ml)、抗胃壁抗体陽性 6 例(66.7%)、抗内因子抗体陽性 4 例(44.4%)、悪性貧血を 7 例(77.8%)に認めた。逆萎縮、高ガストリン血症、抗胃壁細胞抗体陽性を全て満たすものは 3例(33.3%)であった。H.pylori 陽性は 4 例(44.4%)認め全例で内視鏡的な逆萎縮は診断可能であった。併存疾患として多発 NET2 例、胃癌、多発NET と胃癌の併存、胃腺腫、サルコイドーシスを各々 1 例ずつ認めた。多発 NET とサルコイドーシ スの 4 例で病理組織学的に ECM が証明された。
【結語】A 型胃炎の診断は逆萎縮、高ガストリン血症、抗胃壁細胞抗体陽性のみならず、その他の所見を含めた総合的な診断が必要と考えられた。
2. A 型胃炎診断の現状と問題点 宇治徳洲会病院
【当院での A 型胃炎診断基準】
以下の項目のうち、(I)を必須とし、(II)または(III)を満たす場合に A 型胃炎(自己免疫性胃炎 AIG)と臨床的に診断する。
(I)胃体部優位の内視鏡的高度萎縮
(II)抗壁細胞抗体(PCA)または抗内因子抗体(IFA)陽性(III)VB12 欠乏性貧血(PA)
【自験例の臨床的所見】
1)2015 年から 2018 年に診断された症例は 24 例(男 12 女 12)、年齢は中央値 70.5 歳(44~88)で、60 歳未満は 3/24 であった。
2) 発見契機は貧血 12 例(VB12 欠乏 11 例、鉄欠乏 1 例)、内視鏡所見(胃体部優位萎縮、固着粘液、多発 pseudopolyp)10 例、除菌抵抗 2 例、PG 法強陽性 2 例であった(重複あり)。3) PCA、IFA 陽性率は 20/23、7/15 であった。PCA 陰性 3 例(IFA陽性 1 例)のうち IFA 陰性の 2 例は高度 PA を呈していた。PA 合併 11 例の PCA 抗体価(倍)は平均 33.6 中央値 20(≦ 10が 5/11)で、それ以外の 12 例(平均 155 中央値 160)に比べ低値であった。
4)Gastrin 高値(≧ 700pg/mL)は 16/20 で認めた。
5)H.pylori(Hp)感染合併と考えられる症例は 11 例で、血清Hp 抗体陽性(≧ 3.0)5 例、黄色腫 3 例、除菌成功 2 例、除菌抵 抗 2 例であった(重複あり)。前庭部萎縮を 6/11 に認めた。6) 早期胃癌(分化型)2 例、胃 MALT リンパ腫 1 例の合併を認めた(いずれも Hp 感染合併例)。
【診断における問題点】
1)萎縮が軽度の早期 AIG を通常内視鏡で拾い上げることは困難である。
2)PA 合併例のような高度萎縮例では PCA は低下や陰性化を示す可能性がある。
3)Hp 感染合併例では逆萎縮の視認が困難となることがある。
3 . 健診受診者における自己免疫性胃炎の頻度に関する検討
【背景・目的】自己免疫性胃炎(AIG)では、胃底腺領域に萎縮を来たし、前庭部に比して体部の萎縮が高度となる逆萎縮パターンを呈する。今回、我々は健診受診例における AIG の頻度を検討したので報告する。
【対象と方法】対象は、2016 年 5月から 2018 年 10 月の 2.5 年間で、上部消化管内視鏡検査を行った症例のうち、胃全摘例を除外した重複のない 7425 例(男性4684 例、女性 2741 例、平均年齢 51.8 歳)である。内視鏡検査で逆萎縮を疑った 62 例に対して、冷凍保存血清を用いて抗壁細胞抗体および抗内因子抗体を測定し、どちらかでも陽性の症例を AIG と診断した。
【結果】62 例中 36 例(58.1%)が AIGと診断され、全体における頻度は 0.48%であった。男性 18 例、女性 28 例、平均年齢 59.3 歳で、男性での頻度は 0.38%で、女性では 0.66%であった。抗壁細胞抗体陽性が 35 例で、抗内因子抗体陽性が 6 例であり、共に陽性が 5 例であった。H.pylori感染は陰性 18 例、陽性 1 例、除菌後 17 例であった。また、7例において甲状腺機能異常を有していた。ペプシノーゲン(PG)Ⅰ / Ⅱ比は平均 2.0(0.1-6.7)であり、1.0 以下が 15 例、1.0~3.0が 8 例、3.0 以上が 10 例であった。血清ガストリン値は平均1324(10-4700)pg/ml で、200 以 下 が 8 例、201~999 が 14 例、1000 以上が 11 例であった。
【結語】一般住民に近い健診受診例において 0.48%が AIG と診断され、自覚症状の乏しい健診受診例において高頻度に AIG が存在することが明らかになった。
4 . それぞれ異なる内視鏡所見 , 血液検査所見を示し た A 型胃炎の 3 症例
A 型胃炎診断基準を , ①内視鏡観察で体部粘膜高度萎縮と前庭部粘膜正常所見 , ②病理組織で胃底腺消失像 ,ECL 細胞増加 ,幽門腺非萎縮像 , ガストリン細胞過形成 , ③血液検査で抗壁細胞抗体(PCA)陽性,高ガストリン血症,ペプシノーゲン(PG)I,I/II 比の著明な低下 , と仮定した . 上記基準を満たす 3 症例を提示する.症例1は41歳女性.高度貧血Hb5.5g/dl,鉄1μg/dl,フェリチン 4ng/ml,X 線検査で多発胃ポリープを指摘され受診した .
体部小弯 , 前後壁に多数の扁平隆起(胃底腺残存粘膜)を認め , 体部大弯萎縮部に WGA 様所見も散見された .PCA80 倍,ガストリン 5130pg/ml,PGI4.7ng/ml,I/II 比 0.5. 症例 2 は 60 歳女性 . 子宮筋腫があり鉄剤服用していた .Hb12.8g/dl. 穹隆部, 体部全体に小隆起が散在し , 粘膜表層に血管が目立つ部位ではECM が増生していた .
PCA160 倍以上 , ガストリン 3000pg/ml以上 ,PGI24.8ng/ml,I/II 比 1.1. 症例 3 は 40 歳男性 . 近位前庭部に萎縮像が見られ ,H.P. 既感染が疑われたが , 体部大弯から前壁に多数の扁平隆起(胃底腺残存粘膜)を認め , 抗内因子抗体陽性であった .PCA160 倍以上 , ガストリン値は他の 2 例より少なく 1200pg/ml,PGI2.4ng/ml,I/II 比 0.4. 貧血なく Hb14.3g/dl,H.P.IgG 抗体は 5.8U/ml であった.
3症例は内視鏡所見 , 血液検査所見に相違があるが , 生検ではいずれも多数のリンパ球浸潤や胃底腺をリンパ球が破壊する像を認め ,A 型胃炎の比較的初期段階と推定された . 今後の慎重な経過観察が A 型胃炎病態解明に役立つと考える .
5. 自己免疫性胃炎の臨床的特徴と組織学的特徴
自己免疫性胃炎は胃腫瘍の精査や高ガストリン血症を契機に、いわゆる逆萎縮パターンで発見されることが多いが、その診断基準は明確ではない。当院では、①内視鏡的および組織学的に体部優位な萎縮を呈していること、②高ガストリン血症 伴うこと、③抗壁細胞抗体または抗内因子抗体が陽性であることを診断基準としている。自己免疫性胃炎と診断した 15例について、臨床病理学的な検討を行った。
年齢中央値は 70 歳[24-83 歳]で、男女比は 14:1 と女性が圧倒的に多かった。抗胃壁細胞抗体は 13 例で陽性で、抗内因子抗体は 6 例で陽性であった。ガストリン値の中央値は1155pg/mL[765-7255pg/ml]で、H.pylori は 9 例で未感染であった。8 例に腫瘍の発生を認め、6 例が胃癌、2 例が神経内分泌腫瘍であった。
前庭部大弯、胃体部大弯、前庭部小弯、胃角部小弯、胃体部小弯における updated Sydney system による胃炎評価およびchromograninA、synaptophysin、CD56 の発現と内分泌細胞微小胞巣数を計測した。また、切除した腫瘍および隣接非腫瘍 粘 膜 における chromograninA、synaptophysin、CD56、p53、Ki67、CD10、MUC2、MUC5AC、MUC6 の発現評価を行ったため、併せて報告する。
6. 当施設で診断した A 型胃炎の臨床的所見の検討
【背景】A 型胃炎は Strickland らが提唱した特殊な胃炎で、本邦では比較的まれな疾患とされてきたが、近年報告例が増加している。
【対象と方法】A 型胃炎の定義は 1)胃体部優位の内視鏡的逆萎縮、2)抗胃壁細胞抗体あるいは抗内因子抗体陽性、3)endocrine cell micronest(ECM)陽性とし、1)に加え、2)か 3)のいずれかが陽性とした。診断基準を満たした 40 症例を対象とし、血清ガストリン値、ペプシノゲン(PG)値、抗胃壁細胞抗体陽性率、抗内因子抗体陽性率、H.pylori 感染率、上部消化管内視鏡検査所見などについて検討した。H.pylori の診断については、血清抗 H.pylori 抗体陽性か迅速ウレアーゼ試験陽性とした。
【成績】男性 18 例、女性 22 例、平均年齢 69.3 歳(41-89 歳)、血清ガストリンは平均値 2911.7pg/ml(440-7800)、PG 平均値は PG Ⅰ 8.5ng/ml(1.6-58.3)、PG Ⅱ 10.5ng/ml(4-43.6)、PG Ⅰ / Ⅱ比 0.8(0.2-3.6)、H.pylori 感染率は 10.5%(現感染 4 例、未感染 27 例、除菌後 7 例、検査未 2 例)であった。また、抗胃壁細胞抗体陽性率は 83.8%(31/37)、抗内因子抗体陽性率は44.8%(13/29)、ECM 陽性率は 68.8%(22/32)であった。内視鏡的胃粘膜萎縮(木村・竹本分類):O- Ⅲ 60.0%(24/40)、O- Ⅱ37.5%(15/40)、O- Ⅰ 2.5%(1/40)、胃体部:血管透見像の明瞭67.5 %(27/40)、 固 着 粘 液 30.0 %(12/40)、 過 形 成 ポリープ22.5%(9/40)、偽ポリープ 7.5%(3/40)、前庭部:稜線状発赤 7.5% (3/40)、輪状模様 2.5%(1/40)を認めた。
【結語】本診断基準にて診断された A 型胃炎は、女性にやや多く、高ガストリン血症および低ペプシノゲン血症を呈し、特徴的な内視鏡所見を有していた。診断基準の作成においては、組織学的な逆萎縮および抗胃壁細胞抗体を必須とするかなどが今後の課題である。
7. 当科における自己免疫性胃炎(AIG)の診断と問 題点について
【目的】AIG は Hp 感染胃炎と同様に、胃癌発症の母地となる慢性萎縮性胃炎を来す疾患であるが、いまだ診断基準が明確に確定されていない。今回当科にて診断した AIG48 例の臨床病理学的特徴を検討し、AIG 診断における問題点について考察する。
【方法】対象は、2013 年 10 月 1 日~2018 年 12 月 31 日までの期間に 1 人の内視鏡医が連続して行った上部消化管検査 5,607例(重複例を除く)の中で、次の診断基準を満たした 48 例であ る。診断基準は①内視鏡的および病理組織学的に胃体部優位の逆萎縮性胃炎を認める。②抗胃壁細胞抗体または抗内因子抗体が陽性。③ EC-like cell hyperplasia or ECM 陽性。①を必須とし、②または③のいずれかを満たすものと定義した。
【成績】AIG は内視鏡検査 5,607 例中 48 例であり、頻度は 0.86%であった。平均年齢は 70 歳±、男女比は 1 対 2.4 であり女性に多かった。60 歳以上の女性における頻度は 2.04%と高率であった。PG 平均値は(PG Ⅰ 7.4,PG Ⅱ 8.1, Ⅰ / Ⅱ比 0.9)であり、血清ガストリン値平均値は 2,689pg/ml であった。随伴病変としては NET4 例(8.3%)、胃癌 3 例(6.3%)、腺腫 2 例(4.2%)、過形成性ポリープ 15 例(31.3%)を認めた。抗壁細胞抗体陽性率 91.7%(44/48)、抗内因子抗体陽性率 47.6%(20/42)、EC-like cell hyperplasia or ECM 陽性率 86.5%(32/37)であった。抗壁細胞抗体が陰性から陽性に変化した症例を 1 例認めた。また、抗壁細胞抗体陰性例 4 例中、2 例は抗内因子抗体陽性であり残りの 2 例は ECM 陽性であった。Hp 感染診断では現感染 2 例、既感染 6 例、判定不能 40 例であった。
【結論】今回の検討では、AIG の頻度は 0.86%であり過去の本邦の報告より多い結果であった。抗壁細胞抗体は陰性から陽性に変化する例もあり経過観察する事が重要である。AIG の診断基準には自己胃抗体陰性の場合における、病理学的診断基準の確立も必要と考えられた。
8 . 自己免疫性胃炎の診断に関する検討
<目的>自己免疫性胃炎(AIG)診断基準確立への寄与を目的とし症例を検証した。当科は①~④全てを満たす例を AIG 確定としている。
①逆萎縮②自己抗体(PCA and/or IFA)陽性③血清ガストリン(Ga)値≧ 200pg/ml ④ペプシノーゲンⅠ(PG1)値< 30ng/ml
<対象・方法> PCA、IFA、Ga 値、PG1 値を測定した胃炎症 例 115 例中、①~④を 1 項目以上満たす 68 例を対象とし AIG確診 30 例を確診群、同群以外の 38 例を疑診群とした。疑診群の抗体価や内視鏡所見を中心に AIG 診断との関連を検証した。
<結果>確診群 / 疑診群の PCA 抗体価は、10 倍 2 例 /10 例、20 倍 6 例 /0 例、40 倍 8 例 /1 例、80 倍 9 例 /0 例、160 倍2 例 /0 例、320 倍 1 例 /1 例と、疑診群の低抗体価割合が多かった。
疑診群の抗体価 10 倍例中 3 例は AIG を否定、残りの 7 例中 5例は Hp 陰性且つ除菌歴のない高度萎縮例であった。Hp 自然除菌との鑑別が困難と考えたが、うち 4 例は甲状腺疾患があり多腺性自己免疫症候群と考え確診群と同等にフォローしている。
疑診群のうち逆萎縮を認めた 7 例中 4 例が自己抗体陰性であった。うち 3 例は Hp 陰性且つ除菌歴がなく低 PG1 値を示した。うち 2 例は Ga 値> 900pg/ml であった。Hp 陽性の 1 例は悪性貧血と胃粘膜に ECM を認めた。以上からこの 4 例を抗体陰性 AIG 症例と考えている。
<まとめ> AIG 診断は「自己免疫」の関与を示す抗体検査と「胃炎」の内視鏡診断が基本と考える。本検討で確診群では抗体低力価は少ないこと、低力価の中に診断困難例があること、抗体陰性でも確診である可能性を示した。診断基準確立に関しては関連疾患の有無など副次的因子を取り入れることも有用と考える。
9. 自己免疫性胃炎の診断
自己免疫性胃炎(AIG)の病態は、抗壁細胞抗体(APCA)、もしくは抗内因子抗体(AIFA)により壁細胞が自己免疫的機序により傷害され、関連する主細胞も喪失すると考えられている。主細胞の喪失は胃体部の萎縮となり、これは、内視鏡的な逆萎縮、組織学的には体部線領域の萎縮、そして、血清ペプシノゲン I の低下として表現される。壁細胞の喪失は、VitB12の吸収不良に加えて、無酸症を来たし、血清ガストリンの上昇として表現され、それは ECL 細胞の過形成や小胞巣へつながる。従って、AIG の検査所見として、
I:自己抗体陽性
1. 抗壁細胞抗体 and/or 抗内因子抗体陽性
II: 体部有意の萎縮性変化
1. 著しい体部萎縮と内視鏡的逆萎縮
2. 組織学的な体部有意の高度萎縮
3. 血清ペプシノゲン I 低値
III: 壁細胞の喪失:酸分泌低下
1. 高ガストリン血症
2.ECL 過形成 /ECM 出現
と分類可能である。診断には、AIG の病態を考えれば、I-1 とI-2 のいずれかと II-1 と II-2 の要素をすべて満たす場合は自己免疫性胃炎と確診例と考えられる。内視鏡検査にて体部上部 大彎の血管透見が確認できる場合では、I+II-1 でも自己免疫性胃炎と診断可能である。
一方で、II-3 や III の各要素は関連所見と考えられる。当院でAIG と診断し得た症例を non-AIG と比較すると、特に血清ガストリンと PGI、PGI/II は、AIG と non-AIG の判別に有用であり、PGI/gastrin 比を計算すると高い精度で AIG と non-AIGの判別が可能である。
AIG の診断は、基本的には、自己抗体の存在と萎縮の評価を基本とすべきであるが、血清学的にも高い精度での診断が可能である。
10. A 型胃炎(AIG)の診断基準- PCA 陰性・低値 例について
内視鏡的逆萎縮かつ[PCA(抗胃壁細胞抗体)もしくは IFA(抗内因子抗体)陽性]を AIG とした.PCA は AIG の診断において重要であるが低値,陰性例での判断は議論の余地がある.
【対象と方法】AIG 77 例(A 群)と open 萎縮で PCA・IFA 陰性 8 例(B 群)から以下の症例を抽出し血清ガストリン(G),PG,IFA,ECM を検討した.(1)A 群での検討:PCA 低値(10)10 例,高値(≧ 20)65 例.(2)A 群 PCA 低値での検討:IFA(+)6 例,IFA(-)4 例.G ≧ 700 の高 G 7 例,G < 700 の低 G 3 例.(3)AB 群 PCA 陰性例での検討:IFA(+)2 例,IFA(-)
8 例.高 G 6 例と低 G 4 例.
【結果】(1)PCA 低値では IFAが 60%に認められ高値の 23% と比較し有意に IFA(+)率が高かった.(2)PCA 低値において IFA(+)は G が高く PG1/2 比が低く貧血が高度である傾向を認めた.高 G 例では有意にIFA(+)率が高かった.IFA(-)かつ低 G かつ ECM なしの症例は病理所見と併せて PCA 偽陽性例と考えられた.(3)PCA(-)のうち IFA(+)例では ECM が高頻度で指摘され,IFA(-)例に比べて有意に G が高かった. また低 G 例に IFA(+)例はなかった.
【考察】PCA10 倍の低値では IFA(+)となりやすく診断に迷ったときには有用である.PCA 低値で IFA 陰性の場合には非 AIG 例が含まれていており G や病理所見を加味した判断が必要と思われる.PCA・IFA 両抗体陰性例では「自己免疫性」という根拠に弱く,G,PG や通常の病理所見が合致しても高度萎縮の結果だけを見ている可能性もあり,AIG の診断基準としては少なくとも確診例からは外した方がよいと考える.
11. 病理学所見を必須した基準からみた場合の主要検査項目陽性割合の検討
1)当院で定めた AIG 診断基準を満たした例のうち対象研究の同意を得た 84 例について主要検査項目の陽性状況を検討した。
2)AIG 診断基準:1)内視鏡的に体部優位萎縮(+)かつ組織学的萎縮が体中位大弯>前庭部 2)EC-like cell hyperplasia or ECM(+)3)APCAb or AIFAb(+),
この 3 つのうち 1)+2)or1)+3)を満たすもの
3)結果
男 : 女 26:58, 平均年齢 69.0 才 ,
主要検査項目の結果(Gastrin、PG 値は以前当研究会でアンケート調査時に提案された値を用いた)
APCAb(+):65/78(83.3%)
AIFAb(+)30/60(50.0%)
Gastrin(mean ± SE)1974.4 ± 1435.9,
700 以上 :75/85(88.2%)350 以上総数 :81/85(95.3%)
PG Ⅰ 10 以下 :34/4(72.3%)PG Ⅰ 20 以下総数 42/47(89.3%)
PG Ⅰ 25 以上 :6/47(12.6%)PG Ⅰ / Ⅱ 1.0 以下 :28/47(59.6%)
PG Ⅰ / Ⅱ 1.5 以下総数 :38/47(80.1%)PG Ⅰ / Ⅱ 2.0 以下
総数 :42/47(89.4%)PG Ⅰ / Ⅱ 6.0 以下総数 :47/47(100.0%)
EC like cell hyperplasia:71/82(86.6%)
ECM:46/81(56.8%)
VB12(233 未満 :39/65(60.0%)
4)考察:病理学的基準を基本にしつつ、各種臨床指標の基準 をさらに検討する必要がある。
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