開会の辞(13:10~13:15)
当番世話人:石川 剛(山口大学大学院医学系研究科 消化器内科学)
練馬光が丘病院消化器内科
吉野 かえで、高橋 昭裕、角谷 宏
基調講演
孤立性胃静脈瘤に対するヒストアクリルRを用いた内視鏡的塞栓療法
ー手技、合併症、長期予後ー
岩瀬 弘明(国立病院機構名古屋医療センター消化器科)
閉会の辞(15:55~16:00)
代表世話人:角谷 宏(練馬光が丘病院消化器内科)
福島県立医科大学医学部 消化器・リウマチ膠原病内科学講座1)、福島県立医科大学 消化器内視鏡先端医療支援講座2)、福島県立医科大学附属病院 内視鏡診療部3)
○浅間 宏之1)、小原 勝敏2)、渡辺 晃1)3)、引地 拓人3)、高木 忠之1)、鈴木 玲1)、
杉本 充1)、菊地 眸1)、藁谷 雄一1)3)、高住 美香1)、大平 弘正1)
【症例】60代、男性。【既往歴】特記事項なし【経過】肺高血圧症にて当院循環器科で入院した際の腹部CT検査で門脈径の拡張と側副血行路の発達、胃静脈瘤(GV)を認め、精査目的に当科へ紹介された。背景に肝硬変はなく、特発性門脈圧亢進症と診断した。上部消化管内視鏡検査でGVはLg-cf F3CwRC0で、超音波内視鏡検査ではGVの最大短径は15mmであった。ヒストアクリル(HA)による内視鏡的組織接着剤注入法(HA法)の適応と判断したが、静脈瘤径が大きくHAの大循環への逸脱のリスクが高く、B-RTO用カテーテルのバルーンで閉塞しながら内視鏡下にHAを注入する腎静脈系短絡路閉塞下HA法を考慮したが、造影CTで腎静脈系短絡路は非常に細く施行困難と思われた。そこでHAの逸脱防止のため、HA濃度を90%と高濃度にして、細心の注意を払いながらHA法を施行することとした。バリクサー20G針を用いて90%HAを透視下で確認しながらゆっくりGVへ2回注入し、HAのGV内への停滞を確認した。その後75%HAを4回注入した。治療後のCTでは、胃静脈瘤内にHAの貯留を認め、静脈瘤外への逸脱所見は認めなかった。治療後約8か月間、再発なく経過している。【考察】HAによる内視鏡的組織接着剤注入法は高濃度のHAを用いることで、巨大胃静脈瘤に対しても効果的かつ安全に治療可能であった。
奈良県立医科大学 内科学第三講座1)、奈良県立医科大学 中央内視鏡超音波部2)、天理市立メディカルセンター3)
○上嶋 昌和1)、梅本 典江1)、浪崎 正1)、瓦谷 英人1)、鍛治 孝祐1)、相原 洋祐1)、浅田 翔平1)、美登路 昭1)、吉治 仁志1)、山尾 純一2)、松村 雅彦3)
ヒストアクリル(HA)が薬事承認されたのを受け当院では2014年3月よりHAによる内視鏡的硬化療法(HA-EIS)を開始している。このうち胃静脈瘤以外では結腸・直腸静脈瘤破裂3症例に対して止血目的でHA-EISをのべ4回施行している。これらの治療経験につき報告する。
基礎疾患は3症例とも肝硬変症でChild分類はBないしCであった。内訳は上行結腸静脈瘤が1例、直腸静脈瘤が2例であった。HAはリピオドール混和75%として全例透視下にてEISを施行した。使用したビデオスコープは直腸静脈瘤では上部消化管用、上行結腸静脈瘤では1330mm長の下部消化管用である。穿刺針は最初20Gを使用していたが最近では23Gを使用している。穿刺針は1回ごとに使い捨てとした。
HA-EISにより3症例とも止血に成功した。上行結腸静脈瘤症例では腹部血管造影で静脈瘤の消失を確認できたため追加治療は行わなかった。現在まで静脈瘤は再発していない。直腸静脈瘤症例では2例とも再出血を来し1例はHA-EISと5%EOによるEISを追加し、もう1例はEVLで止血した。
胃静脈瘤だけではなく結腸や直腸といった異所性静脈瘤の止血に対してもHA-EIS は有効であった。直腸静脈瘤ではHA-EISのみでは2例とも再出血しており、可能であればEISやIVRなどの追加治療は考慮すべきと考える。
山口大学大学院医学系研究科消化器内科学
○佐々木 嶺、岩本 拓也、石川 剛、西村 達朗、相部 祐希、松永 一仁、白築 祥吾、松田 崇史、高見 太郎、坂井田 功
【症例】80代男性【現病歴】近医にてC型肝硬変の定期的なフォローアップが行われていた。元々胃静脈瘤(GV)を指摘されていたが、20XX年8月に上部内視鏡検査(EGD)を施行したところGVの増大傾向を認めたため、同年10月にB-RTOでの治療目的に当科紹介となった。【術前検査】EGD:胃噴門部後壁側にF3、Cw、 RC0のGVが認められた。CT:GVは左胃静脈(LGV)と後胃静脈(PGV)が供血血管であり、左腎静脈へ排血していた。【入院後経過】<1日目>左腎静脈より胃腎シャント内へバルーンカテーテルを挿入しバルーン閉塞下に造影を行ったが、GVの本体およびLGV、PGVは描出されなかった。子バルーンカテ―テルをよりシャント深部へ挿入し、再度バルーン閉塞下に造影を行ったところLGVの描出を認めた。GV本体およびPGVの描出はなかったが、LGVの血栓化によりBRTO2日目でGV本体およびPGVが描出されることを期待し、そのまま経カテーテル的に5%EOIでの硬化療法を行った。<2日目>5%EOIを追加注入するもGV本体およびPGVの描出が得られなかったため、シャント排血路をバルーンで閉塞したまま内視鏡的硬化療法を行うこととした。GVを穿刺後5%EOIを注入するとGVおよびPGVへの貯留が得られたため、続いてヒストアクリルを注入し治療終了とした。術後のCTおよびEGDではGVの血栓化は良好であり、術後出血や門脈血栓症などの合併症もなく経過した。【結語】B-RTO困難例に対しての胃腎シャントバルーン閉塞下内視鏡的静脈瘤硬化療法は有効である。
東京医科大学 消化器内科
○笠井 美孝、古市 好宏、小川 紗織、竹内 啓人、吉益 悠、杉本 勝俊、小林 功幸、中村 郁夫、森安 史典
【目的】孤立性胃静脈瘤患者(GV)の肝・脾硬度の変化をヒストアクリル注入法(HA-EIS)とBRTOによる前後で前向きに比較検討する。
【対象と方法】BRTO3例、HA-EIS2例を対象とした。治療前、翌日、7日後、1か月後、3か月後、6か月後にelastographyを5回施行し、肝・脾硬度の平均値を算出した。
【結果】BRTO群の肝硬度(前、1d、7d、1M、3M、6M)は(18.3±8.7、26.4±12.3、20.1±9.8、23.9±12.0、20.5±11.0、13.9±7.4)で翌日から上昇し6か月後には低下した。脾硬度は(35.5±7.3、37.3±17.3、36.5±18.0、34.9±18.0、36.9±18.9、48.8±32.3、32.0±11.3)で翌日から上昇し3か月後にピークとなった。HA群の肝硬度は(46.4±11.9、57.0±13.8、51.8±10.7、53.1±14.7、20.0±8.4、19.0±3.9)で翌日より上昇し3か月後に低下した。脾硬度は(82.3±9.6、83.7±10.0、62.1±10.0、50.1±12.6、44.3±9.1、41.2±3.8)で7日後より低下し続けた。両群全例で術後肝静脈圧較差と門脈血流量は上昇しICG15分値は改善した。
【考察】BRTO群では、側副血行路完全閉塞に伴い、肝うっ血性変化が起こり、脾静脈血流鬱滞まで生じたのではないかと考えられた。HA群では主排血路が温存されるため脾硬度は低下傾向を示した可能性がある。
久留米大学内科学講座消化器内科部門1)、久留米大学病院 消化器病センター内視鏡部門2)、財団法人 医療・介護・教育研究財団 柳川病院3)
○久永 宏1)、國武 泰史1)、江森 啓悟1)、春田 剛1)、井上 博人1)、
桑原 礼一郎1)、於保 和彦3)、鶴田 修2)、鳥村 拓司1)
症例は72歳女性。2008年にC型肝硬変に対して九州大学病院にて生体肝移植術を施行。2015年11月、12月に黒色便、吐血を認めたため近医を受診。上部消化管内視鏡検査(EGD)では、胃内に凝血塊を認めるものの明らかな出血源を指摘できず保存的に加療された。2016年1月6日にも黒色便、吐血を認め近医に入院されたが、やはり出血源は指摘できず保存的加療にて1月17日に退院された。その後、1月19日に再度吐血を認めたため当院を受診。緊急EGDにて胃穹窿部静脈瘤(Lg-cf、F2、RC0)を認め、観察中に静脈瘤上の小びらんより湧出性出血を認めたため、緊急EISを行い止血した。その後再出血は認めなかったが、免疫調節薬による腎機能障害が存在したため、追加治療として1月25日に硬化剤を併用せずヒストアクリル単独局注法(CA法)を施行した。今回、生体肝移植術7年後に胃静脈瘤が破裂し、CA法が追加治療に有効であった1例を経験した。興味深い臨床経過を辿った症例と考え、若干の文献的考察を加え報告する。
練馬光が丘病院消化器内科
○吉野 かえで、高橋 昭裕、角谷 宏
孤立性胃静脈瘤に対する塞栓法としてヒストアクリル(HA)+リピオドール(Lp)によるEISあるいはBRTOが広く行われている。緊急時の止血としてはまずHAによる止血を行った後、それぞれの治療法を選択する。今回我々はHA+Lpによる緊急EISにより止血された後EISを繰り返し行い、2か月後に胃静脈瘤からの出血を認めた症例を経験したので報告する。
症例)49歳男性、NASHによる肝硬変。2015年9月に吐血し、緊急EISを他院で行った。HA+Lpによる止血後同様の手技により数回EISが追加された。11月には発熱により入院治療を行っていたところ、下血を認め内視鏡検査を施行。食道に静脈瘤は認めなかったが、胃にはHAが露出した静脈瘤を認めた。胃静脈瘤からの出血と考え血行動態の評価を行ったところ胃腎シャントを認め、BRTOを行った。
考察)胃静脈瘤出血に対する止血は現在CAが第一選択になっている。中でも保険収載されたHAが第一選択である。Lpとの濃度は施設によって様々である。今回はEIS後に出血した胃静脈瘤を経験した。胃静脈瘤からはHAが露出していたがはっきりした出血点は不明であった。EUSでは胃静脈瘤の再発は認めなかった。本症例では胃腎シャントを認めたためBRTOが可能であったが、この症例で胃腎シャントがなければどの様に対処するのが正しい対処法なのか。非常に悩ましい症例であり検討をお願いしたい。
小倉記念病院 消化器内科
○白井 保之、野口 達矢、喜多 真也、中村 綾子、谷本 治子、石垣 賀子、青山 浩司、吉田 智治
当院において胃静脈瘤に対して当科の方針では緊急例に対してはヒストアクリルによるEISを第一選択としている。待機予防例については門脈血行動態や静脈瘤の太さ・部位によりヒストアクリル、BRTO、EISLを選択している。
2010年3月~2016年2月に、26症例28回に(緊急:待機:予防=19:7:2)ヒストアクリルによる治療を行っている。全例止血可能であり、早期の出血合併症はなかったが1例肺塞栓を経験した。後出血を2例(10ヶ月後、1年11か月後)に認め、ヒストアクリル投与による再治療を行っている。
手技については、局注針はリボルバー23Gを用い、50%ブドウ糖を用いて前後のフラッシュと後押しを行っている。ヒストアクリルは濃度66.6%-75%
1回1.3-1.5mlとし、止血が得られなければ2回目以降の投与を追加している。平均2.36回の穿刺・投与を行った。
ヒストアクリルによるEISは致死率の高い緊急の状態においても安全に施行できていた。ヒストアクリルによるEISは難易度が高い手技ではないが、スピーディで確実な手技が要求されることが多い。症例数が多くないため系統的なトレーニングを摘むのが困難である。術者だけでなく介助者が、出血という緊迫した場面でも一つ一つの手技を落ち着いて行うことが必要である。
九州大学大学院先端医療医学1)、九州大学大学院消化器総合外科2)
○赤星 朋比古1)、長尾 吉泰2)、吉田 佳弘2)、吉住 朋晴2)、前原 喜彦2)、橋爪 誠1)
背景
胃静脈瘤においてはB-RTOが本邦においては予防、待機的治療法として広く普及しているが、出血性胃静脈瘤に対してはヒストアクリルによる内視鏡的治療が必要である。目的当科における胃静脈瘤出血例に対するヒストアクリルを用いた治療戦略について報告する。
対象と方法:検討1:1994年から2012年までの110例の胃静脈瘤出血例に対して、1999年までは主にシアノアクリレートとエタノラミンオレート(EO)を中心とした内視鏡治療を施行(n=52:A群)。2000年から2010年まではヒストアクリルによる胃静脈瘤の一時止血をした後に、根治的なB-RTO治療を施行した(n=48:B群)。治療回数、入院期間、合併症、累積非出血率、累積生存率について比較検討した。検討2:1998年から2015年までにB-RTO不能であったmajor
shuntのない胃静脈瘤16例に対してヒストアクリルとエタノラミンオレート(EO)による塞栓術を施行した。胃静脈瘤治療成功率、消失率について検討した。
結果:検討1:A群およびB群において治療回数および入院期間は有意に少なく、両群において重篤な合併症は認めなかった。5年累積再出血率はA群68.2、B群で9.1% (p<0.01).
5年累積生存率はA群66.8%、B群81.7(p<0.01)であった。検討2:シャント径が細い症例においては、EOだけでも胃静脈瘤内への硬化剤の貯留は比較的良好であり、貯留が困難な症例、穿刺部からのoozingのあるものにヒストアクリルを用いて止血している。結語:胃静脈瘤においてヒストアクリルによる内視鏡治療はB-RTOとともに中心となる治療法である。当科におけるヒストアクリルの使用法とともに報告する。
(株)麻生飯塚病院・消化器内科
○佐藤 孝生、久保川 賢、赤星 和也、長田 繁樹、徳丸 佳世、細川 泰三
GVに対するHAまたはHA/EO併用法によるEISの臨床的有用性を治療時期別に比較検討した。対象は2014年1月~2016年1月まで当院でHA、HA/EO併用法によるEISを行ったGV症例28例。男/女20/8例、平均年齢61歳。原疾患は肝硬変25例、左側門脈圧亢進症3例。Child分類はA/B/C 7/13/5例。治療時期は緊急/待期/予防14/5/9例で、各群間で患者背景・治療成績・再発率・予後を比較検討した。待期・予防例では原則として治療前に3D-CTでの血行動態評価を行った。緊急止血を含む平均治療回数は緊急/待期/予防2.1/2.3/2.0回。HA単独7/3/2例、HA/EO併用7/2/7例。平均HA使用量9.6/6.4/8.6ml、5%EO使用量8.7/14.3/9.2ml。抜針後出血は2/0/1例で、偶発症に重篤なものはなかった。平均観察期間285日中、出血再発を緊急例で2例認め、死亡例は4/1/2例で静脈瘤出血死はなかった。GVでは可及的に治療前に3D-CTでの血行動態評価を行い、緊急止血ではHA単独での治療を、待期・予防治療では供血路までの閉塞を目指しHA/EO併用での治療を行う。
山口大学大学院 消化器病態内科
○岩本 拓也、石川 剛、坂井田 功
[目的]当院では2009年から胃静脈瘤に対する治療としてバルーン閉塞下逆行性経静脈的塞栓術(B-RTO)を第一選択としているが、アプローチ可能なシャント血管がない場合にはヒストアクリルを併用した5%EOIによるEIS(HA-EIS)などを施行している。今回胃静脈瘤に対する当院の治療成の有無などに関して比較検討を行うこととした。
[方法]2000年1月から2014年12月までの10年間で胃静脈瘤に対する治療を受けた患者88名を対象とした。治療法の内訳はB-RTO53例、内視鏡治療37例であった。
[結果]B-RTO群と内視鏡治療群の平均年齢は67.6±9.0歳vs.64.4±10.9歳(p=0.13)、男女比は27:26vs.18:19 (p=0.96)、Child-Pugh score平均点では6.4±1.2 vs.
7.5±2.0点であった(p<0.01)。B-RTO群では経過観察期間内に静脈瘤再発を認めなかったが、内視鏡治療群では11/37例(29.7%)に再発を認め、うち約半数の症例では2回以上の再発を繰り返していた。
[考察]B-RTOによる胃静脈瘤制御は良好であり、内視鏡治療群では約30%で頻回な再発を認め、1例は静脈瘤破裂による肝不全死に至っていることからも静脈瘤制御能に関してはB-RTOが優れていた。
[結語]B-RTOは内視鏡治療と比較して胃静脈瘤を完全に制御可能であった。当院における胃静脈瘤に対する内視鏡治療法はEVLsからHA-EISへと移行しており、内視鏡治療群間での成績や各種治療ごとの予後などに関しても検討し報告する。
札幌厚生病院 第3消化器内科
○木村 睦海、佐藤 隆啓、山口 将功、荒川 智宏、中島 知明、桑田 靖昭、小関 至、大村 卓味、髭 修平、狩野 吉康、豊田 成司
当院では32年間で胃静脈瘤210例に対してヒストアクリル(HA)による内視鏡的塞栓術を行った。実際の手技と成功例・失敗例の静止画・動画を提示すると共に、方法論について考案する。穿刺針はトップ社製23Gの4mm針を1回の穿刺で1本使用。硬化剤はHA0.5ccとリピオドール0.2ccを混合し、約70%のHA混合液0.7ccを準備。更に50%糖液にて針先までを満たす(液量で約1.1ccにて満たされる)。フラッシュ用としても50%糖液を準備。術者が瘤を穿刺し、助手が50%糖液のシリンジで陰圧をかけ逆血とその再現性を確認。50%糖液で陽圧を十分にかけ穿刺針内の血液をフラッシュした上で、透視で厳重に確認しながらHA混合液を注入(実測では0.7ccを5~6秒)。更に50%糖液にて追加フラッシュを行う(約1.5ccを15~20秒)。注入後は速やかに瘤から抜針。抜針後出血が高度な場合は混合液の注入量が不十分と考える。新しい針にて手順を繰り返す。止血を確認し終了。方法における問題点の代表としては、HA混合液の濃度が挙げられるが添付文書上でも推奨濃度に幅がある。他の問題点と共に考案する。
練馬光が丘病院消化器内科
○吉野 かえで、高橋 昭裕、角谷 宏
現在、孤立性胃静脈瘤に対する治療法は大きくヒストアクリルを用いたEISと経カテーテル治療のBRTOである。治療時期別の治療法選択に欠かせないのは各治療法の治療成績である。今回は両治療法に比較的習熟した術者によるBRTOとEISの治療成績の比較を報告し、治療法の選択について考察する。方法)BRTOは当初より報告している通りカテーテル留置法(TOPS)である。右内頸静脈からカテーテルを挿入、一日EO使用量は最大20mlとし24時間毎に完全塞栓されるまで繰り返して行う方法である。CAによるEISでは濃度100%のCAを用いた。その後静脈瘤の荒廃を目指してEO、ASによるEISを繰り返し行った。
結果)胃静脈瘤の再発はEISでのみ見られ3年で約40%と高率であった。再出血率にも大きな差が認められ、EISで高率であった。食道静脈瘤の再発と生存率には差がなかった。
考察)今回の結果からは静脈瘤を荒廃する目的としてのEISは治療法の選択としては不適切である。従って、出血時には一時止血目的にCAによる止血を行い、血行動態検索をした後可能ならBRTOを選択すべきである。
しかし、今回検討したEISは出血点の止血とそれに続く従来の硬化剤による塞栓術である。どんなに根気よくEISを繰り返しても高率に再発再出血を認めたため、ある一定の範囲を塞栓可能なリピオドールとの併用による治療成績の比較が必要である。
―手技、合併症、長期予後―
国立病院機構名古屋医療センター 消化器科
○岩瀬 弘明
胃静脈瘤は出血すると重篤になることがあり、安全、確実かつ侵襲の少ない止血法が要求される。孤立性胃静脈瘤の多くは供血路から俳出路まで分枝することなく1本の血管で構成されているため、内視鏡下にヒストアクリルRを局注することにより完全閉塞が容易であり、出血に対しては完全止血が得られ、また予防的治療により静脈瘤の完全消失も可能である。高度肝障害例、超高齢者においても適応はあり、胃静脈瘤に対するヒストアクリルRを用いた内視鏡的塞栓療法は世界的に普及している。しかし不十分な治療では再出血をきたし、稀ではあるがヒストアクリルR重合体の流出による異所性塞栓、また膿瘍、大出血などの重篤な合併症の報告もある。私共は1992年から孤立性胃静脈瘤出血に対してヒストアクリルRを用いた内視鏡的塞栓療法を行い多くの患者を救命してきた。薬事承認された平成25年からは予防的治療も施行している.
現在までに施行した出血治療は86例、予防的治療は11例、計97例である。治療初期から透視化でヒストアクリルRとリピオドールR混合液(1対1)を局注し静脈瘤全体を塞栓する治療法に変わりないが、長年の実績から穿刺針、穿刺回数、混合液の注入量、注入速度などの手技に変更があり、この10年間はほぼ1回の治療で終了し、また問題となる合併症、再出血はみられていない。今回、ビデオを使用し長年の経験から得られた安全で効果的なヒストアクリルRを用いた内視鏡的塞栓療法の手技を解説する。合わせて難治例の対策、治療の限界、長期予後について報告する。ヒストアクリルRを用いた内視鏡的塞栓療法は薬剤の効果と孤立性胃静脈瘤の血管構築を理解し、基本的な手技を習得した内視鏡医が一人いれば、いずれの病院、どの地域においても治療可能であり、この治療法の普及により胃静脈瘤出血死の根絶も夢ではない。