2018年5月12日(土)13:30~16:00
第8会場(グランドプリンスホテル新高輪 国際館パミール 1階『瑞光』)
小野 裕之(静岡がんセンター内視鏡科)
飯塚 敏郎(虎の門病院 消化器内科)
森 宏仁(香川大学医学部消化器神経内科学)
静岡がんセンター内視鏡科 小野 裕之
司会:独立行政法人国立病院機構京都医療センター消化器内科 滝本 見吾
香川大学医学部消化器神経内科学 森 宏仁
司会:神戸大学医学部附属病院消化器内科 森田 圭紀
大阪赤十字病院 消化器内科 鼻岡 昇
横浜市立大学附属市民総合医療センター 内視鏡部1)、 横浜市立大学 消化器内科2)
○澤田 敦史1)、小林 亮介1)、尾関雄一郎1)、池田 良輔1)、福地 剛英1)、
佐藤 知子1)、平澤 欣吾1)、前田 愼2)
福井県立病院 消化器内科
○青柳 裕之、宇都宮まなみ、有塚 敦史、竹田 康人、内藤 慶英、 田中 章浩、
藤永 晴夫、波佐谷兼慶、砂子阪 肇、辰巳 靖、伊部 直之
福井県立病院 消化器内科
○内藤 慶英、青柳 裕之、宇都宮まなみ、有塚 敦史、竹田 康人、田中 章浩、
藤永 晴夫、波佐谷兼慶、砂子阪 肇、辰巳 靖、伊部 直之
公立学校共済組合中国中央病院内科1)、同外科2)
○万波 智彦1)、池田 元洋1)、藤原 延清1)、大多和泰幸2)
虎の門病院 消化器内科
○菊池 大輔、布袋屋 修、飯塚 敏郎
司会:大阪国際がんセンター消化管内科 竹内 洋司
横浜市立大学附属市民総合医療センター内視鏡部 平澤 欣吾
一般財団法人 化学及血清療法研究所1) 神戸大学大学院医学研究科内科学講座消化器内科学分野2)
○竹川 佳孝1)、鷹尾 俊達2)、小原 佳子2)、阪口 博哉2)、森田 圭紀2)
岐阜県総合医療センター 消化器内科1) 岐阜県総合医療センター 外科2)
○山崎 健路1)、入谷 壮一1)、杉本 琢哉2)、長尾 成敏2)、杉原 潤一1)
国立病院機構四国がんセンター 内視鏡科1) 消化器内科2)
○堀 伸一郎1)2)、西出 憲史2)
長崎大学病院 消化器内科1)、光学医療診療部2)
○福田 浩子1)、山口 直之1)2)、荻原 久美1)、中鋪 卓1)、宿輪 三郎1)、
中尾 一彦1)
大阪市立大学大学院 医学研究科 消化器内科学
○永見 康明、大南 雅揮、坂井 大志、福永 周生、大谷 恒史、細見 周平、田中 史生、平良 高一、鎌田 紀子、山上 博一、谷川 徹也、斯波 将次、渡辺 俊雄、
藤原 靖弘
神戸大学大学院医学研究科内科学講座消化器内科学分野1) 一般財団法人 化学及血清療法研究所2)
○鷹尾 俊達1)、竹川 佳孝2)、小原 佳子1)、阪口博哉1)、森田 圭紀1)
大阪国際がんセンター 消化管内科1)、消化器外科2)
○松浦 倫子1)、竹内 洋司1)、七條 智聖1)、前川 聡1)、金坂 卓1)、東野 晃治1)、上堂 文也1)、石原 立1)、松永 知之2)、杉村啓二郎2)、宮田 博志2)、
矢野 雅彦2)
司会:静岡がんセンター内視鏡科 滝沢 耕平
東京大学医学部附属病院消化器内科
○辻 陽介
虎の門病院消化器内科 飯塚 敏郎
1.出血を繰り返す難治性十二指腸潰瘍に対してポリグリコール酸(PGA)シートが有用だった2例
横浜市立大学附属市民総合医療センター 内視鏡部1)、横浜市立大学 消化器内科2)
澤田 敦史1)、小林 亮介1)、尾関 雄一郎1)、池田 良輔1)、福地 剛英1)、
佐藤 知子1)、平澤 欣吾1)、前田 愼2)
【はじめに】慢性疾患や抗血栓薬内服中の患者は、ときに消化性潰瘍からの出血を繰り返し、止血処置に難渋する場合が多い。また、そのような症例は耐術困難であることも多く、可能な限り非侵襲的な止血処置が望まれる。今回我々は難治性の出血性十二指腸潰瘍に対してPGAシートが有効だった2例を経験したので報告する。
【症例1】59歳男性。劇症型抗リン脂質抗体症候群に対して血液透析、ステロイド投与、抗凝固療法中であった。貧血および黒色便を主訴にEGDを施行したところ、十二指腸球部から下行脚に多発出血性潰瘍を認め高周波凝固で止血した。その後も黒色便を繰り返し内視鏡的止血術を計6回(day1,4,5,8,18,25)施行したが、改善を得られないためday29に潰瘍面に対してPGAシートを被覆しフィブリン糊を散布し同部位に固定した。その後、再出血は見られなかった。PGAシート被覆後14日目(day43)のEGDで、PGAシートは確認されなかったが、潰瘍底は治癒傾向であった。
【症例2】76歳男性。慢性腎不全に対して血液透析、脳梗塞・狭心症に対して抗血栓薬3剤併用中であった。腹痛精査でEGDを施行したところ、十二指腸球部から水平脚に多発潰瘍を認めた。Day4,9に出血症状あり、緊急内視鏡で潰瘍底の出血部に対して高周波凝固で止血処置を行ったが、その後も再度出血が見られたため、PGAシートによる被覆を行った。以後、再出血は見られなかった。
【結論】出血を繰り返す難治性の十二指腸潰瘍に対して、PGAシートの出血予防の可能性が示唆された。併存疾患が多いため手術が難しく、出血に対して漫然と焼灼止血を繰り返すような十二指腸潰瘍に対して、PGAシートは治療の一つの選択肢として考えられる。2ポリグリコール酸シートとフィブリン糊を併用した被覆法が有効であった難治性出血性胃潰瘍穿孔の1例
2.ポリグリコール酸シートとフィブリン糊を併用した被覆法が有効であった難治性出血性胃潰瘍穿孔の1例
福井県立病院 消化器内科
青柳 裕之、宇都宮 まなみ、有塚 敦史、竹田 康人、内藤 慶英、田中 章浩、
藤永 晴夫、波佐谷 兼慶、砂子阪 肇、辰巳 靖、伊部 直之
【背景と目的】内視鏡治療後の遅発穿孔予防、狭窄予防に対する有効な方法としてポリグリコール酸シート(PGAシート)とフィブリン接着剤を併用する治療法が報告され注目を集めている。今回我々はPGAシートとフィブリン接着剤を使用し、難治性出血性潰瘍穿孔症例に有効であった経験をした。同治療が難治性胃潰瘍の有効な治療法となり得ると報告することを発表の目的とした。
【対象と方法】症例は80歳代の男性。既往歴に気管支拡張症、高血圧症、腹部動脈瘤ステントグラフト挿入術があった。
201X年6月に心窩部痛を認め、当院救急部に搬送された。腹部CT検査にて胃穿孔と診断され同日に腹腔鏡下洗浄とドレーン留置術が施行された。術後、胃管に血液の混入を認めかつ採血上、Hb6.9g/dlの貧血が認められたことから、輸血後にEGDが施行された。同検査にて体上部後壁に20mmのA1潰瘍病変が認められた。活動性出血を伴う露出血管は認められなかったためトロンビン散布され終了となったが、術後、病状改善がなかったため当科転科となった。PGAシート使用に関して「消化管治療後の出血、穿孔そして狭窄予防としてPGA使用に関する有効性の検討」として院内倫理委員会で2014年3月に承認を受けていた。
【結果と考察】転科日にPGAシート、フィブリン糊を併用した内視鏡的消化管止血術が施行された。潰瘍底に17×7mmに細断したPGAシートを敷き詰め、その上からフィブリン糊を、さらにその後トロンビンを塗布して終了とした。術後2日後、6日後、9日後にEGDが施行されたがPGAシートは強固に付着し再出血は認められなかった。
【結語】PGAシートとフィブリン糊を併用した被覆法が難治性出血性胃潰瘍穿孔に対して有効であった症例を経験した。
3.胆嚢管癌術後に合併した十二指腸潰瘍からの出血に対しポリグルコール酸(PGA)シート充填およびフィブリン糊散布にて止血し得た一例
福井県立病院 消化器内科
○内藤 慶英、青柳 裕之、宇都宮 まなみ、有塚 敦史、竹田 康人、田中 章浩、
藤永 晴夫、波佐谷 兼慶、砂子、阪 肇、辰巳 靖、伊部 直之
【目的】PGAシートは近年、内視鏡的粘膜下層剥離術後の後出血、狭窄や遅発性穿孔予防として使用され、その有効性が報告されている。今回我々は、胆嚢管癌術後に合併した十二指腸潰瘍からの繰り返す出血に対しPGAシート充填およびフィブリン糊散布にて止血し得た一例を経験したので報告する。
【方法】症例は82歳男性、胸部不快感を主訴に来院され、急性胆嚢炎の診断で入院となった。抗生剤投与と胆嚢ドレナージにて胆嚢炎は軽快したが、胆嚢管の肥厚の所見より胆嚢管癌が疑われ、ERCP、IDUS、胆管鏡にて精査施行され、胆管ブラシ細胞診にてclassⅤを認め、肝外胆管切除が施行された。
【成績】術後第5日より発熱を認めた。胆嚢切除部位に液体貯留を認め、感染を考え抗生剤投与が開始されたが、術後第8日に暗赤色の下血あり上部消化管内視鏡検査施行にて十二指腸潰瘍からの出血を認めた。クリップ止血処置にて一旦止血したが、感染も改善に乏しく膿瘍ドレナージを施行。しかし再出血あり内視鏡にてクリップ止血をしたが、再出血リスク高いと判断され動脈塞栓術施行。その後も出血持続し術後第16日に吐血あり、PGAシート充填、フィブリン糊散布にて止血処置が施行された。以後再出血なく十二指腸潰瘍は治癒傾向となった。
【結論】肝外胆管切除術後に十二指腸潰瘍からの出血を繰り返した症例に対しPGAシートお充填よびフィブリン糊散布にて止血し得た一例を経験した。内視鏡やカテーテル治療にても止血し得ない症例に対しPGAシート充填およびフィブリン糊散布は止血処置としての一方法であることが考えられた。
4.肝細胞癌の直接浸潤に伴う胃出血に対し、ポリグリコール酸シートによる被覆を行った1例
公立学校共済組合中国中央病院内科1)同外科2)
万波 智彦1)、池田 元洋2)、藤原 延清2)、大多和 泰幸2)
症例は83歳男性。3年前に肝細胞癌を指摘され、本人の希望で保存的加療のみを受けていたが、3日間続く黒色便を主訴に当科を受診となった。血液検査ではHb4.9g/dlと貧血が高度で、緊急内視鏡検査では胃角部小彎に不整な潰瘍性病変を認めた。CT検査では、肝左葉から足側方向へ突出した長径96mmの肝細胞癌が、胃角部小彎に浸潤していた。以上から、肝細胞癌の胃壁浸潤・穿通による出血と診断した。
第2病日に、出血予防として肝動脈塞栓療法(TAE)を施行した。TAEによる、穿通部の血流障害に伴う穿孔性腹膜炎が危惧されたため、同日、内視鏡的に潰瘍面をポリグリコール酸(PGA)シートにより被覆した。方法としては、滝本らの報告に準じ、あらかじめ17×6mmに切っておいた小さなシート片を潰瘍面に敷き詰め、フィブリン糊(ボルヒール®)を浸透させ接着させた。第5病日に内視鏡検査を行ったところ、PGAシートは全て脱落していた。そのため、同日、再度、被覆を行った。今回は、陥凹が強い箇所には複数のPGAシートを積み重ねて、潰瘍面の凹凸を平坦化するような格好とした上で潰瘍面を被覆し、更にクリッピングによりPGAシートと潰瘍辺縁を固定した。第8病日の内視鏡検査ではPGAシートの脱落は見られなかった。入院第10病日に退院して訪問診療による在宅介護に移行することができたが、退院の13日後に肝不全で死亡するまで黒色便は認めなかった。
PGAシートとフィブリン糊を用いた被覆法は、内視鏡的粘膜下層剥離術後の穿孔や狭窄予防、更には消化管穿孔の瘻孔の修復など、その適用範囲は広がりつつある。今回、肝細胞癌の直接浸潤に伴う消化管出血という極めて稀な病態に対し、本法を応用した症例を経験したので供覧する。
5.PGAシートと自己フィブリン糊による被覆法後に出血を来たした胃ESDの2例
虎の門病院消化器内科
菊池 大輔、飯塚 敏郎、布袋 屋修
PGAシートとフィブリン糊による被覆法が胃ESDの後出血予防に有用であると報告されている。我々は術前に自己血を採取し、その際に自己フィブリン糊を作成し被覆法に用いている。自己血由来であるため感染やアレルギーのリスクが少ないことや、出血時に自己血輸血で対応するため同種血輸血を避けられる可能性があることが大きなメリットと考えている。我々は2014年12月より抗血栓療法中の胃ESDに対し自己フィブリン糊による被覆法を44例に行った。
全44例のうち2例(4.5%)に後出血が認められた。症例1は脳血管疾患に対しクロピドグレルを内服しており、症例2は心房細動に対しアピキサバンを内服していた。2症例はいずれも体下部の病変であり、偶発症なくESDで病変を一括切除した。クリップを併用しPGAシート1枚でESD潰瘍を被覆し、自己フィブリン糊にて固着させた。術後経過順調であり、7PODに2ndlook内視鏡を施行し、出血がないこととPGAシートの残存を確認した。症例1は9PODに、症例2は8PODに吐血を呈し緊急内視鏡を施行した。緊急内視鏡時にはPGAシートは潰瘍底から脱落しており、活動性出血を来たしている露出血管に対し止血鉗子にて焼灼止血を行った。症例2に対しては自己血輸血を行ったが、いずれの症例に対しても同種血輸血は行わなかった。
今回我々は被覆法後のESD後出血を2例経験した。いずれも7PODの2ndlookの内視鏡では出血なくPGAシートも残存していた。その後吐血を呈した際に行った緊急内視鏡ではPGAシートは脱落していた。潰瘍底に凝血塊の付着は認められず露出血管の発見は比較的容易であった。被覆法を行った症例の後出血は出血部位がPGAシートの下に存在する可能性があり、止血困難になる可能性が懸念されていた。今回我々が経験した2例においては出血時にはPGAシートは脱落しており、凝結塊も潰瘍底に少量であったため止血操作には影響は認められなかった。実際の症例を提示し、自己フィブリン糊とPGAシートによる被覆法の実際と課題について検討する。
6.フィブリン糊とポリグリコール酸シートを用いた被覆法における反重力面へのシート貼付に関する基礎的検討
一般財団法人 化学及血清療法研究所1)神戸大学大学院医学研究科 内科学講座消化器内科学分野2)
竹川 佳孝1)、鷹尾 俊達2)、小原 佳子2)、阪口 博哉2)、森田 圭紀2)
【目的】ESD後潰瘍をフィブリン糊とポリグリコール酸シート(PGAシート)で被覆する処置が、ESD後の偶発症予防に期待されている。しかし、本法にはいくつかの課題があり、そのひとつとして、反重力面へのPGAシート貼付の際のシート落下が挙げられる。この解決には、フィブリン糊で固定されるまでの間、PGAシートを落下させない工夫が必要となる。本研究では、PGAシートが反重力面に安定して保持される条件を検討した。
【方法】ブタ摘出胃の粘膜上皮を剥がして冶具に固定し、試験系の反重力面(天井面)に設置した。PGAシートを把持した生検鉗子が、天井面に90度の角度で向かうよう射出角を固定した。PGAシートのサイズは、1、2、3、4cm角の4種類準備し、それぞれのサイズでDryとWe(t生食で浸漬)で分けて群を設定し、生検鉗子を用いて胃壁に貼付した(N=10)。また、輸送時にシートが癖付けされてしまうことがあるが、その際の影響を検討するため、別途2cm角と3cm角のシートを用い、生検鉗子でシートを把持したまま金属筒を通した群も加えた(N=5)。シートを各条件下で反重力面に貼付した際、落下することなく30秒間保持可能か評価した。
【結果】Dry群における1、2、3、4cm角の30秒間保持の成功率は、すべて100%であり、Wet群では100%、100%、60%、0%であった。また、金属筒を通した場合、Dry群では2cm角、3cm角とも100%であり、Wet群では20%と0%であった。
【考察】Dry群とWet群では、Dry群の方が反重力面から落下しにくいことが明らかとなった。その要因として、Wet群では、液体の浸漬によってシートの重量が増すことが大きな要因だと考えられた。また、金属筒を通して輸送した場合、wet群ではPGAシートが筒の中で癖付けされシートが丸まってしまうため、潰瘍との接着面積を確保できなかったことが落下の原因となったと思われる。反重力面へアプローチする際は、シートをDryな状態で運ぶことが重要であると考える。
7.胃癌術後食道空腸縫合不全に対して内視鏡下ポリグリコール酸シートによる被覆法が有用であった1例
岐阜県総合医療センター 消化器内科1)岐阜県総合医療センター 外科2)
山崎 健路1)、入谷 壮一1)、杉本 琢哉2)、長尾 成敏2)、杉原 潤一1)
症例は70代女性。2017年X月血便の精査のため近医より当科紹介となった。上部消化管内視鏡検査にて噴門部から前庭部に広がる4型胃癌の診断。また肛門管にも進行癌(扁平上皮癌)を認めた。2017年X+1月、胃全摘術、Roux-Y再建を施行。Type4,por2>sig,pT4b(SI),sci,INFc,ly1,v1,pPM1,pDM1,pN3b,M0,stageIIIcの診断。術後2日目に心窩部痛、呼吸困難が出現。縦隔膿瘍の診断。術後3日目に緊急手術となった。食道空腸吻合部は胸腔内にあり食道空腸吻合部縫合不全による縦隔膿瘍と診断。吻合部が縦隔内となり緊張が加わったこと、口側・肛門側切除断端が陽性であったことが縫合不全の誘因と考えられた。縦隔内、胸腔内にドレーンを留置。抗生剤投与、ICU管理となった。2017年X+2月、ガストログラフィンによる透視にて食道空腸吻合部に瘻孔を確認。上部消化管内視鏡検査(EGD)を施行。吻合部の左壁側に微小な瘻孔の存在を疑い、20x10mmのポリグリコール酸シート(ネオベール®)を詰めるように貼付後、フィブリン糊(ベリプラスト®)を注入した。内視鏡処置施行の翌日から解熱傾向、血液検査上の炎症所見も改善。内視鏡検査翌日に施行したガストログラフィンによる透視では瘻孔は描出されず。以後縦隔膿瘍は改善・消失。縫合不全の再燃なく2017年X+3月に自宅への退院が可能であった。2017年X+4月からは肛門管癌に対する放射線治療を開始するも2017年X+6月、多発肝転移、多発肺転移が出現。全身状態悪化し永眠された。
8.食道ESD時穿孔に対し、ポリグリコール酸シートとフィブリン糊の併用で治療が完遂できた1例
国立病院機構四国がんセンター 内視鏡科1)消化器内科2)
○堀 伸一郎1)2)、西出 憲史2)
食道ESD時の穿孔は、皮下気腫、縦隔気腫、気胸等により全身状態が悪化し、治療中止を余儀なくされる症例が存在する。我々は、食道ESD時穿孔に対し、ポリグリコール酸(PGA)シートとフィブリン糊を併用し、治療が完遂できた1例を経験したので報告する。
症例は70歳台女性。胸部中部食道後壁に食道表在癌を指摘され当院に紹介となった。0-ⅡcT1a-LPM 長径4cm 周在性3/5周のESD適応病変と診断し、ESDを施行した。
粘膜下層剥離中に、皮下気腫が出現し、呼吸状態の悪化も認めたため、食道穿孔と判断した。穿孔部のクリップ縫縮を試みたが、呼吸状態が悪化したため治療をいったん中断した。胸腹部CTで皮下気腫、縦隔気腫を認めたが、気胸は認めなかった。治療中断後、呼吸状態は改善し、約4時間後にESDを再開した。穿孔部の再縫縮を試みたが困難であったため、穿孔部に10mm角のPGAシートを数枚充填し、フィブリン糊で固定した。その後、病変を一括摘除した。治療再開後の手技を通じて、皮下気腫の増悪はなく、呼吸状態は保たれていた。
摘除後潰瘍底の穿孔部にPGAシートが観察されたため、穿孔部閉鎖効果を期待し治療を終了した。保存的に経過観察を行い、ESD第7病日に撮影したCTで皮下気腫、縦隔気腫はほぼ消失した。第17病日の食道透視で、食道壁外への造影剤の漏出が消失した。その後、経口摂取を開始し、第33病日に退院となった。同日で2期的に治療が完遂できた要因の一つにPGAシートとフィブリン糊の併用が考えられるが、第10病日の食道透視では食道壁外への造影剤の流出を認めており、完全な被覆はできていなかった状態と思われる。本症例の様な場合の対処方法について、他施設からのご意見も拝聴したい。
9.ESD術中穿孔に対しPGAフェルト+フィブリン糊被覆法により保存的に軽快し得た3例
長崎大学病院消化器内科1)長崎大学病院光学医療診療部2)
福田 浩子1)、山口 直之1)2)、荻原 久美1)、中鋪 卓1)、宿輪 三郎1)、
中尾 一彦1)
【はじめに】消化管癌に対するESDは手技も標準化されたが、それでも偶発症を完全には防げず、その対策が問題となる。特に穿孔は緊張性気胸や縦隔炎、腹膜炎などを併発し重篤化することもあり注意を要する。今回我々はESD術中穿孔に対しPGAフェルト+フィブリン糊被覆法を施行し、保存的に軽快し得た3例を経験したため報告する。
【症例1】78歳・女性、胸部中部食道の12mm大、Ⅱa型食道表在癌に対しESDを施行した。血管のsoft凝固時に穿孔を来し、同部は筋層が確認されず筋層欠損症例と考えられた。高度の皮下気腫を認めたが、可及的速やかに病変完全切除し、3×3cmのPGAフェルトで穿孔部を覆い、クリップにて縫着後フィブリン糊を散布し終了した。皮下気腫は速やかに軽減し、4日後にはCTでも皮下気腫・縦隔気腫消失、7日後に食道造影にてleakがないことを確認し、飲水食事を開始したが経過良好で、軽快退院となった。
【症例2】79歳・男性、胃穹窿部の50mm大、Ⅱa型早期胃癌に対しESDを施行した。しかし高度線維化を認め筋層損傷し、穿孔を来した。可能な限り剥離後スネアリングし、多分割切除となった。3×3cmのPGAフェルトで穿孔部を覆いクリップにて縫着後、隙間に2×1.5cmのPGAフェルトを充填し、フィブリン糊を散布し終了した。直後のCTでは腹腔内に広範な遊離ガスを認めたが翌日には消失し、術後4日目より飲水を開始し経過良好で退院となった。
【症例3】64歳・男性、胃体上部後壁の10mm大、Ⅱc型早期胃癌に対しESDを施行した。病変は生検後出血にて焼灼止血施行されており、高度線維化を認めたため剥離に難渋し、数カ所に微小穿孔を生じた。5×5cmのPGAフェルトで潰瘍全体を覆いクリップにて縫着後、フィブリン糊を散布した。7日後に内視鏡検査にてフェルトが残存し、leakのないことを確認、その後の経過も良好で軽快退院となった。
【結語】ESD術中穿孔に対しPGAフェルト+フィブリン糊被覆法を施行した3例を経験した。多量の皮下気腫・縦隔気腫や腹腔内遊離ガスを生じた場合でも、確実に被覆法を行うことで侵襲的処置を要さずに治療完遂できる可能性があると思われた。
10.ポリグルコール酸シートとフィブリン糊を用いた食道癌術後瘻孔の閉鎖
大阪市立大学大学院 医学研究科 消化器内科学
永見 康明、大南 雅揮、坂井 大志、福永 周生、大谷 恒史、細見 周平、田中 史生、平良 高一、鎌田 紀子、山上 博一、谷川 徹也、斯波 将次、渡辺 俊雄、
藤原 靖弘
【目的】
食道癌に対する外科手術後の縫合不全などから食道瘻孔を形成することが経験される。瘻孔は絶食やドレナージなどの各種の保存的加療に対して難治性であり、再手術による死亡率は7%と非常に侵襲的であるが、有効な治療法が確立されていない。近年、ポリグルコール酸(PGA)シートを用いた瘻孔閉鎖の報告が散見される。食道癌術後の瘻孔を有する症例に対して消化管内視鏡下にPGAシートとフィブリノゲン糊を使用して瘻孔を閉鎖することの安全性と有効性について明らかにすることを目的とする。
【方法】
単施設前向き単群探索的研究。適格基準は、食道癌に対する外科手術後に瘻孔を上部消化管内視鏡、消化管造影により確認された20歳以上の患者。除外基準は、重篤な合併症、感染症を有する、妊娠中、アレルギーの既往のある患者。目標症例数を5例とし、偶発症発生率を主要評価項目とした。副次評価項目として瘻孔閉鎖率、閉鎖までに要した治療回数、閉鎖までに要した日数とした。瘻孔閉鎖は内視鏡的に組織によってふさがっている、もしくは消化管造影によって瘻孔への漏出が見られない状態と定義した。瘻孔の周囲粘膜をアルゴンプラズマ凝固で焼灼し、適切な大きさに形成したPGAシートを貼付し、フィブリン糊で固着した。クリップの併用も可とした。1週間ごとに内視鏡観察を行い、PGAシートが脱落していた場合には4回まで同様に処置した。
【結果】
2016年10月~2017年12月にかけて5例を登録した。年齢71.4±2.1歳、全例男性。開胸:胸腔鏡 3:2例、胃管再建:空腸再建 4:1例、全例後縦隔経路。CRT後遺残再発に対する サルベージ手術2例、手術後リンパ節転移に対するCRTを行った1例、ESD後の追加手術1例を含む。手術後のStageはI:II:III1:2:2例。外科手術からPGA貼付までの日数は中央値696(122-1634)日。瘻孔部位は右壁:左壁:後壁 3:1:1、サイズは中央値2(1-12)mm、気管支瘻:肺瘻:縦隔瘻 2:2:1。治療に伴う偶発症を認めなかったが、瘻孔が拡大した症例を2例で経験した。瘻孔閉鎖率は40%(2/5)で、4回のPGA貼付を行い、閉鎖した症例での閉鎖までの期間は57-71日だった。
【結語】
食道癌術後瘻孔に対するPGAシート貼付による閉鎖は安全に行えたが、閉鎖率は40%で瘻孔が拡大した症例も経験された。効果不良の患者因子(手術からの期間、CRT後、再建臓器)、周囲の血流状況、貼付前のAPC凝固、PGAシート貼付の回数など、症例を蓄積し明らかにする必要があると考えられる。
11.ポリグリコール酸シート運搬・貼付時のエンベロープ型デリバリーシステムの有用性に関する検討
神戸大学大学院医学研究科 内科学講座消化器内科学分野1)
一般財団法人 化学及血清療法研究所2)
鷹尾 俊達1)、竹川 佳孝2)、小原 佳子1)、阪口 博哉1)、森田 圭紀1)
【背景・目的】われわれはPGAシートを効率的かつ確実に潰瘍底に運搬・貼付するためのエンベロープ型デリバリーシステムを開発しその有用性を報告した(Endoscopy.2017Apr;49(4):359-364)。しかし、この研究は摘出豚を用いて重力方向の潰瘍にシートを貼付した研究であり、生体環境の反映や反重力方向での再現性が確認されていなかった。今回われわれは、生き豚を用いてこれらの課題に対し追加検証を行った。
【方法】2頭の食用ブタ胃内で、重力方向および反重力方向に、30mm大の切除切片径を想定したESD後潰瘍をそれぞれ1個ずつ作成した。エンベロープ法群では、メジャー鉗子で測定した潰瘍径に合わせて切ったPGAシート1枚と、15×10mmの短冊形に切った複数枚のPGAシートをエンベロープに搭載した。エンベロープを内視鏡先端から突出させた鉗子で把持 し、内視鏡ごと胃内に挿入した。ESD後潰瘍近傍にエンベロープを留置し、鉗子を用いてエンベロープ内からPGAシートを1枚ずつ取り出して潰瘍底に貼付した。従来法群では、潰瘍近傍に内視鏡で近づき、15×10mmの短冊形シートを鉗子口を介して1枚ずつ潰瘍底に貼付した。2通りのPGAシート貼付法(エンベロープ法、従来法)でそれぞれ6度ずつ重力方向のESD後潰瘍にシートを貼付した。次に、反重力方向の潰瘍でも同様に、2通りの貼付法で6度ずつシートを貼付した。潰瘍底をシートで被うのに要した潰瘍単位面積あたりの時間(潰瘍被覆時間)を貼付法間で比較検討した。潰瘍被覆時間の評価後、それぞれの貼付法でPGAシートをフィブリン糊を用いて潰瘍底に固定し、被覆後の潰瘍を内視鏡的および病理学的に評価した。
【結論】研究会ではエンベロープ型デリバリーシステムを用いたshieldingmethodを実験データだけでなく動画とともに提示したい。
12.当院におけるPGAフェルトの使用状況と治療成績
大阪国際がんセンター 消化管内科1)消化器外科2)
松浦 倫子1)、竹内 洋司1)、七條 智聖1)、前川 聡1)、金坂 卓1)、東野 晃治1)、上堂 文也1)、石原 立1)、松永 知之2)、杉村 啓二郎2)、宮田 博志2)、
矢野 雅彦2)
<背景>
ポリグリコール酸(PGA)フェルトは、内視鏡治療後の穿孔予防や後出血予防に有用と報告されている。穿孔、瘻孔閉鎖の症例報告もあるが、まとまった成績は報告されていない。
<目的と方法>
当院でのPGAフェルトの使用状況とその有用性を明らかにするために、2013年4月から2017年11月に内視鏡を用いてPGAシートを使用した31症例について、その適応、治療成績、有害事象を遡及的に検討した。
<結果>
①内視鏡治療後の穿孔予防として21症例[食道:胃:十二指腸 1:1:19]に対し、PGAシートで治療後の粘膜欠損を被覆した。全例、治療経過は良好であった。
②内視鏡治療中穿孔閉鎖術として3症例[胃:十二指腸:大腸1:1:1]に使用されていた。2症例は複数ケ所の穿孔のためクリップで縫縮後、PGAシートで粘膜欠損全体を被覆した。1症例はクリップで縫縮不能であり、PGAシートを充填した。中央値(範囲)1(1-2)回使用し、中央値(範囲)4(4-12)日の絶食を要したが、いずれも保存的に加療可能であった。
③遅発穿孔の3症例[食道:胃2:1]に対し、穿孔確認直後よりPGAシートを2(1-2)回被覆した。6(5-36)日の絶食を要したが、全例で保存的加療が可能であった。
④外科手術後の局所のドレナージによる保存的加療で改善しなかった難治性瘻孔4症例[食道:食道胃接合部3:1]に対して、1~4週間おきにPGAシートを4(3-4)回使用し、PGA充填後49(35-70)日に瘻孔閉鎖を確認した。経口摂取再開後、瘻孔は再燃せず、有害事象はなかった。
<結語>
PGAシートは内視鏡治療後の穿孔予防のみならず、術中および遅発性穿孔、外科手術後の難治性瘻孔の閉鎖に有害事象なく使用可能であり、治療成績は良好で有用と考えられた。
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※終了予定:12/2(月) 正午