一般社団法人 日本消化器内視鏡学会 Japan Gastroenterological Endoscopy Society

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寄稿:スウェーデンでの内視鏡指導の経験から 〜ESD指導と基礎教育の普及〜(宮本秀一先生)

Karlstad central hospital, Sweden

北海道大学 内科学講座消化器内科学教室

宮本秀一

 

 私はスウェーデンのカールスタード中央病院で2021年6月から2023年5月まで2年間、ESDの導入・指導を目的に、内視鏡専門医かつEducatorとして勤務しています。スウェーデンの内視鏡の現状と自身の取り組みについて報告します。

 

 スウェーデンは人口約1000万人、国土は日本の1.2倍です。カールスタードは人口約8万人の地方都市で、ストックホルムから300km西に位置するヴェルムランド県の県都です。カールスタード中央病院は周囲の県からも患者さんを受け入れる基幹病院の役割を担っています。4年ほど前に内視鏡室を改築し、内視鏡検査・治療に力をいれており、内視鏡室のボスのStefan先生とスウェーデン初の内視鏡看護師Lotta(スウェーデンでは内視鏡検査・治療を行う内視鏡看護師という資格があります)を中心に内視鏡業務を行っています。

 

(写真左:エンドスコピスト一同。前列左からJie、筆者、 Lotta。後列左からStefan、Dimitrios, Thomas, Henrik。写真右:内視鏡検査室)

 

 約10年前から日本人医師がストックホルムでESDを指導していたことから、スウェーデン全体にESDがある程度普及しているものだと思っていました。しかし、ESDを行える施設は約10施設と依然限られており、スウェーデン全体の内視鏡治療をカバーするには十分とは言えません。そのため、患者さんの検査・治療までの待機期間が数ヶ月となることもあります。指導面でも、日本と異なる点が多くありました。内視鏡の操作方法といった基本技術だけでなく、分割EMRが広く許容されているため一括切除の必要性についての認識の違いがあり、ESD導入にあたり何度も話し合いを重ねました。2021年以前は、大腸癌検診が行われておらず、大腸腫瘍が大きくなってから発見されることが多く(当院の2年間で行なった大腸ESDの平均腫瘍サイズは約5cm)、トレーニーに適切なサイズの症例が確保できないという問題もありました。また、こちらでは定時帰宅が基本でありトレーニングも労働として就業時間内に行わなければいけません。そのため、トレーニングの時間を確保することが難しい場合もあります。このような多くの課題に直面し、異文化圏でのESD指導の難しさを痛感しました。しかし、成功した時の喜びや上手くなりたいという熱意は世界共通であり、共に成長し、喜びあえた経験はかけがえのないものとなりました。

(写真左:内視鏡室でのレクチャー。写真右:Dimitrios医師の初ESD後。)

 

 ESD指導の中で、内視鏡技術を何故変更すべきかを明確に示すことが求められ、一つ一つの基本動作の意味を説明する必要がありました。その経験から内視鏡基本技術の重要性を再認識し、初期教育の普及を目的とする活動を行いました。小規模でのウェビナーを自身で企画することから始め、カロリンスカ大学やリンショーピン大学などのハンズオンや講演会で指導する機会を得ました。2022年から大腸癌検診が始まったこともあり、大腸内視鏡技術の底上げが求められており、スウェーデンでは初期教育の需要が高まっています。スウェーデン消化病学会と話し合い、スウェーデン語での基礎技術教本を発刊する経緯となり、現在執筆を行なっています(2023年4月完成予定)。レイアウト中のサンプルを示しますが、さすが北欧と思わせるお洒落な色使いの本となっています。

(写真:テキスト表紙サンプル)

 

 スウェーデンでの生活は海外生活が初めての自分にとっても非常に快適です。スウェーデン語が第一言語となりますが、英語普及率が非常に高く英語での生活が可能です。無料でスウェーデン語レッスンを受けることができるなど、移民に対するサポート制度が確立している点も大きいと考えます。医師の30%近くが移民ということもあり、スウェーデンにいながら様々な国の文化を触れることもできるのが一つの魅力です。また、ワークライフバランスも整っており、17時以降や週末のプライベートの時間が確保されています。ホームパーティーや旅行など、家族・友人と充実した時間を過ごすことができました。ESDトレーニーのギリシャ出身のDimitrios先生夫妻と一緒にギリシャを旅した思い出は一生の宝物です。素晴らしい仲間に支えられ、充実した日々を過ごすことができました。

(写真左:テラスで内視鏡室スタッフとランチ。写真右:自宅前から見えたオーロラ。)

 

 自身が学んできた日本の内視鏡技術・教育を用いて、他国の患者さん達を救えるという大きな喜びを感じることができた2年間でした。世界をリードし続けている日本の内視鏡技術ですが、内視鏡教育の面でも依然強く求められていることを強く感じました。今回の経験で学んだことを活かし、諸先輩が日本中そして世界中に普及してきた日本の内視鏡技術を、次の世代としてさらに広めることができるように邁進したいと思います。

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