令和2年10月7日
日本消化器内視鏡学会
医療安全委員会
2020年1月9日、世界保健機関(WHO)は中華人民共和国武漢市における肺炎の集団発生が新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)によるものであるとする声明を出しました。それ以来、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は短期間で世界中に広がり、2020年10月現在でも感染拡大は続いております。日本消化器内視鏡学会では、3月25日に「COVID-19への消化器内視鏡診療の対応について」という提言を発出いたしました。その後4月16日には「COVID-19に関する消化器内視鏡診療についてのQ&A」を公開し、政府からの緊急事態宣言発出、解除、第二波感染拡大など、状況に応じたアップデートをして参りました。このたび、日本消化器内視鏡学会としては、COVID-19がもたらした消化器内視鏡診療への影響の実態調査、ならびに本学会からの提言・Q&Aの消化器内視鏡診療への影響を検証することを目的に、7月14日付けで、指導施設、指導連携施設、ならびに指導施設・指導連携施設に所属されていない評議員の先生方を対象に、アンケート調査を実施致しました。このアンケートは、緊急事態宣言発出前、緊急事態宣言発出中、緊急事態宣言解除後の期間(2020年4月から7月頃)の実態を調査したものです。
以下に、今回の結果を抜粋し報告させて頂きます。今回の結果公表においては施設種類別にグラフ化しておりますので、今後の各御施設における内視鏡診療の参考にして頂ければ幸いです。なお、詳細な解析結果については、追って論文として投稿・報告させて頂く予定です。
なお、COVID-19対策でお忙しい中にも関わらず、この度のアンケートにご協力を頂きました皆様に、この場をお借りして厚く御礼申し上げます。今回の結果は、今後の提言・Q&Aのアップデートの参考とさせて頂きます。引き続き、本学会へのご協力をどうぞよろしくお願い致します。
目次
参考資料:地域別のCOVID-19患者の受け入れ状況
2.日本消化器内視鏡学会からの提言・Q&Aの周知・活用について
参考資料:地域別の防護具供給の実態
9.診断目的の内視鏡検査件数の推移(1か月平均)と変化率の推移
参考資料:地域別の消化器内視鏡検査数推移
参考資料:地域別の消化器内視鏡治療数の推移
1.アンケート回答施設概要
調査期間:2020年7月14日―8月15日
調査対象:1643 施設
・指導施設および指導連携施設:1466
・指導施設/指導連携施設に所属していない社団/学術評議員が所属する施設:177
回収数(率):552 (33.6%)
*COVID-19患者を受け入れた施設は、大学病院で57施設(87.7%)、公的病院で164施設(73.9%)、民間病院で76施設(35.5%)、クリニック・検診施設では0施設でした。
*地域別のCOVID-19患者の受け入れ状況は以下の通りです。
2.日本消化器内視鏡学会からの提言・Q&Aの周知・活用について
アンケート対象となった御施設では、本学会からの提言やQ&Aの認知度は高く、550施設(99.1%)で提言やQ&Aを参考にして頂いておりました。
3.各施設でのCOVID-19対応について
多くの施設で、施設独自の対応マニュアルを作成しておられました。また、各施設でのCOVID-19に対する対応としては、内視鏡診療前の問診と体温測定はかなりの頻度で行われていましたが、待合室における患者や事務職視点からの感染対策については不十分な施設もありました。また、COVID-19対策として入院患者に対して面会禁止としている施設が多数でしたが、内視鏡室においても家族や同伴者の入室制限を行っていた施設が多くありました。また、COVID-19患者に対する消化器内視鏡診療は陰圧室での施行が望ましいのですが、陰圧室が整備されている施設は108施設(19.6%)であり、現実としてCOVID-19患者に対する陰圧室対応は難しいことが浮き彫りとなっています。
4.内視鏡医の防護具装着について
個人防護具については、提言でも推奨していたように、袖付きガウン、マスク、フェイスシールド、手袋は着用している施設が多い一方で、キャップやシューカバーの着用率は低いことがわかりました。
5.内視鏡介助者・看護スタッフの防護具装着について
内視鏡介助者、看護スタッフについても、内視鏡医と同様に主たる個人防護具着用は適切に行われていました。
6.内視鏡洗浄スタッフの防護具装着について
内視鏡洗浄スタッフについても、内視鏡医同様に主たる個人防護具着用は適切に行われていましたが、袖付きガウンやフェイスシールドの装着率が内視鏡医や介助スタッフに比して低い傾向にありました。
7.個人防護具の充足状況について
この質問は、時期を区切って(緊急事態宣言発出前、発出中、解除後)回答を求めたものではありませんでしたが、2020年4−7月のCOVID-19感染拡大時期における個人防護具の供給に関してはかなり不足していたことがわかりました。その内訳としては、装着率の高い袖付きガウン、マスク、フェイスシールドの不足が目立ちました。一方、手袋に関しては不足が問題とはならなかったことも明らかになりました。なお、以下の参考資料には地域別の防護具供給の実態が示されていますが、これを見ますと防護具充足状況には地域差はほとんどなかったことがわかります。まさに、日本全国広い範囲で同様に供給不足に陥っていたことが改めて検証されました。この結果も貴重なデータと考えます。
*参考資料:地域別の防護具供給の実態
8.袖付きガウンの症例毎の交換について
袖付きガウンは、症例毎の交換が望ましいとされますが、本邦における2020年4月・5月のCOVID-19感染拡大期においては、内視鏡医・介助者ともに、過半数の施設で確保できずに症例毎の交換が不可能であったことが示されました。
9.診断目的の内視鏡検査件数の推移(1か月平均)と変化率の推移
施設により検査の種類には差がありますが、緊急事態発出前、緊急事態宣言発出中、緊急事態宣言解除後の3期での検査数の推移をみると、いずれも緊急事態宣言発出中には延期可能な内視鏡検査を施行していなかったことがわかりました。一方、緊急事態宣言解除後には、いわゆるV字回復を呈しています。日本消化器内視鏡学会では、緊急事態宣言発出中は4月22日付けで「緊急事態宣言の期間中は緊急性のない消化器内視鏡診療の延期・中止を強く勧めます」との提言を出しており、その影響が伺えます。また、緊急事態宣言解除後には5月29日付けで「緊急性のない待機的な内視鏡検査や内視鏡検診に関しても、長期にわたる休止は患者や検診受診者に重大な不利益を生む可能性は否定できません。本学会としては、適切なトリアージと確実な感染防護策をとって頂ければ、検診を含む通常消化器内視鏡診療の再開は可能と考えます」との提言アップデートを行っています。上記のグラフからも、多くの施設で学会提言をご参考頂けたものと考えております。
*参考資料:地域別の消化器内視鏡検査数推移
10.治療目的の内視鏡施術件数の推移(1か月平均)と変化率
治療に関しても、検査同様に緊急事態宣言発出中は減少していますが、検査と違い変化率はそれほど大きくはありません。特に、消化管出血処置や胆管炎の治療となるERCP関連治療については、施行しないこと自体が患者の生命予後に直結するため、適切なトリアージのもとで治療が行われていたことが推測できます。一方、腫瘍治療については、緊急性のあるものが必ずしも多くないため、変化率は診断的内視鏡と同様の推移を来したものと思われます。いずれにしても、緊急事態宣言解除後は発出前のレベルに戻っており、学会の提言に基づいた通常の内視鏡診療が再開されたことが推測できます。
*参考資料:地域別の消化器内視鏡治療数の推移
11.内視鏡診療を介した二次感染について
今回の調査では、消化器内視鏡診療を介したCOVID-19の感染は認められておりません。これは極めて重要な結果であると考えています。
12.感染拡大に伴う病院経営への影響について
*施設区分別
多くの施設で、COVID-19感染拡大が病院・クリニック経営に影響を及ぼしたと回答しています。特に、検診施設においてはその影響はかなり大きいことがわかります。
13.日本消化器内視鏡学会からの提言の影響について
1)全体的な経営への影響について
2)『提言 第1版(2020.3.25、緊急事態宣言発出前)』の影響
*施設区分別
3)『提言 第4版(2020.4.22、緊急事態宣言発出後)』の影響
*施設区分別
4)『提言 第6版(緊急事態宣言解除後)』の影響
*施設区分別
5)「提言」の評価
① 緊急事態宣言発出後
*施設区分別
② 緊急事態宣言解除後
*施設区分別
本学会の提言では、消化器内視鏡診療におけるリスク分類に基づいた適切なトリアージと個人防護の徹底を提唱してまいりました。特に、全国を対象地域とした緊急事態宣言発出後の第4版においては、「SARS-CoV-2のPCR検査陽性の方・以下の条件のいずれかに該当する方(COVID-19が確定した症例・臨床的にCOVID-19を疑う症例:ハイリスク患者)に対しては、緊急性のある場合においてのみ消化器内視鏡診療の施行を推奨します」とし、また、緊急事態宣言解除後は、「適切なトリアージと確実な感染防護策をとって頂ければ、検診を含む通常消化器内視鏡診療の再開は可能と考えます」と記載しています。今回の質問内容に含まれている病院経営や感染対策の点からも、多くの施設で学会からの提言を参考にして頂いたことがわかりました。また、提言第4版、第6版で示した「延期の推奨」「再開の推奨」についても、概ね90%のご施設から妥当との評価を頂いています。一方、この「延期・再開の推奨」については、施設区分別でご評価に若干の違いが見られております。今回の提言は施設区分別ではなく一律の内容として出させて頂きましたが、今回のアンケート結果に鑑みて、施設区分を考慮した提言内容も検討したいと考えています。
14.今後の感染防護策の継続について
*施設区分別
提言第6版では、「各施設での感染防護策の強化、可能であれば換気設備の改修、検査室や待合のレイアウトの工夫・改修、個人防護具の在庫の確保、感染対策規則の周知徹底等を行い、感染拡大の再来に備えておくことを是非ご考慮ください。長期的には、通常の消化器内視鏡診療体制が、あらゆる感染症に対応できる体制であることが理想と言えます」と記載しています。ほとんどの施設では今後も感染防護対策が必要としていますが。必要と考えても不可能とする施設もありました。その理由としては、防護具不足、防護具コストが理由として挙げられていました。また、全ての内視鏡診療に現在求められているレベルの感染防護対策は不要であるとの意見もあり、今後の課題が明らかになりました。
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