(特にクリニックや比較的規模の小さな病院での内視鏡検査を想定した場合)
日本消化器内視鏡学会、2020年10月7日(第5版)
※2020年10月12日:CQ43の文献を修正いたしました。
今回のアップデートの概要
1.「CQ43. 消化器内視鏡施行時の飛沫対策について」を加えました。
2.「CQ44. 消化器内視鏡施行前の SARS-CoV-2検査の必要性について」を加えました。
3.「CQ45. 院外からの見学、院外からの消化器内視鏡診療支援について」を加えました。
* また、現在の状況に鑑みた文言の変更なども行っております。
新型コロナウイルスが大きな問題となっている現況での消化器内視鏡診療にあたっては、第一線専門施設では本学会の提言を含めて種々のガイドラインや各施設内の指針に準じて万全の体制で臨まれていると存じます。感染拡大を防ぎ、かつ医療従事者を守ることは極めて重要です。一方、一般のクリニックや比較的規模の小さな病院では対策に苦慮されているとのお話を多く耳にします。このような状況に鑑み、日本消化器内視鏡学会では、そのような先生方への情報提供として「新型コロナウイルス感染症に関する消化器内視鏡診療についてのQ&A」を作成してきました。
その後、感染状況も変化し、新型コロナウイルス対策の特別措置法に基づく緊急事態宣言も全国で解除となりました。しかし、感染は終息しておらず、新規感染者数も一定数見られております。しかしながら、現況においては感染リスクを常に念頭におきつつ通常の内視鏡診療を遂行していかねばなりません。こうした状況に鑑み、このたびQ&Aをアップデートすることといたしました。なお、この内容は一般のクリニックや小規模病院のみならず、幅広いご施設で参考としていただけるものと考えております。
なお、このQ&Aは本学会が示したひとつの目安であり、それぞれの施設の対応を制限するものではありません。この指針を参考にしていただき、各地域の感染状況や方針、各施設の状況に応じて具体的に適切な対応策を決めていただくことが重要です。
2020年10月7日
一般社団法人日本消化器内視鏡学会
理事長 井上 晴洋
医療安全委員会 委員長 入澤 篤志
副委員長 古田 隆久
I. はじめに
II. 新型コロナウイルス感染症に関する消化器内視鏡診療についての Q&A
CQ2. すでに検査予約済みの内視鏡検査の実施に関しての対応
CQ9. 患者が来院した際に、新型コロナ感染症に対して事前に問診すべき項目
CQ10. 予約患者に対して、事前にCQ9の質問を事前に行うことは推奨できるか
CQ12. 新型コロナウイルス感染の可能性が低いと判断された時の対応
CQ13. 問診にて感染リスクが低いと判断された患者の検査当日の同意取得
CQ14. 感染が疑わしいと考えられた患者への検査当日の同意取得
CQ18. 内視鏡検査実施するするスタッフとしての基本的な考え方
CQ22. 内視鏡検査室の人流れ、人員について工夫すべきこと
CQ23. 感染確定・疑い患者に対する緊急内視鏡検査を施行する場合の対応
CQ24. 検査の付き添いの家族への検査室への入室で注意すべきこと
CQ25. 感染確定・疑い患者に対する緊急内視鏡検査施行後における術者の留意点
CQ26. 感染確定・疑い患者に対する緊急内視鏡検査施行後における患者対応の留意点
CQ27. 感染確定・疑い患者に対する緊急内視鏡検査施行後の内視鏡機器の取り扱い
CQ29. 検査終了後の処置具(critical器具)の洗浄・消毒
CQ30. 感染確定・疑い患者に対する緊急内視鏡検査施行後の検査室への処置
CQ31. 感染確定・疑い患者に使用したスコープ以外の機器の取り扱い
CQ32. 消毒用のアルコールが入手困難な場合のアルコールフラッシュの代替方法
CQ34. 緊急事態宣言解除後も緊急性のない内視鏡検査は延期すべきか
CQ35. 緊急事態宣言解除後の消化器内視鏡検査の再開に際しての留意点
CQ36. 新型ウイルスの既感染者や濃厚接触者への対応の留意点
CQ38. 感染確定・疑い患者に対する経験の浅い内視鏡医による施行の是非
CQ44. 消化器内視鏡施行前の SARS-CoV-2検査について
CQ45. 内視鏡診療時の院外からの見学あるいは研修スタッフの同席
今般の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大に関して、消化器内視鏡診療の実施については、国・厚労省の方針や各施設の状況等を考慮した対応が求められています。2020年4月8日には新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐための「新型インフルエンザ等対策特別措置法」に基づく緊急事態宣言が発令されましたが、徐々に感染状態も落ち着き、全国的に広がった宣言は解除されました。しかし、新規の感染例の報告は依然として続いており、予断を許さない状況です。
日本消化器内視鏡学会は現在のCOVID-19の状況に鑑みた内視鏡診療について、『新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への消化器内視鏡診療についての提言(https://www.jges.net/medical/covid-19-proposal)を発表し、2020年3月25日の第1版発表以降、本邦における状況に鑑みたアップデートを行ってまいりました。現在では第6版となっております(5月29日更新)。このたび、緊急事態宣言が解除された現状に鑑みて、このQ&Aもアップデート致しました。しかしながら、再度の緊急事態宣言発出の可能性も考えて全体を構成していることをご承知おきください。
ここでは、消化器内視鏡に関わる先生方および関連するスタッフの方々にむけた、具体的な対応案を示しています。各御施設の実態を勘案してご判断ください。なお、このQ&Aは、一般のクリニックや比較的規模の小さな病院のみならず、幅広いご施設でご参考としていただけるものとして作成しておりますが、その内容は本学会が示したひとつの目安であり、それぞれの施設の対応を制限するものではありません。この指針を参考にしていただき、各地域の感染状況や方針、各施設の状況に応じて具体的に適切な対応策を決めていただくことが重要です。特に感染が完全に終息していない状況であることを十分ご理解の上、万全の対策を講じるようお願いいたします。
CQ1. 新規の内視鏡検査の予約に際して留意すべき点はありますか? |
Ans. 無症候性の感染者の報告も相次いでいますので、 内視鏡従事者と被検者を守る観点から、緊急事態宣言が発出された場合は緊急性の無い内視鏡検査は延期を考慮することを推奨します1–4。なお、新型コロナウイルス感染は地域での差が見られており、その地域ごとの状況に応じての対処が必要なのは言うまでもありません。新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく政府による緊急事態宣言(以下 緊急事態宣言)の解除後は検診を含む通常の内視鏡検査の再開は可能と考えますが、感染防護体制の状況に加えて、地域の感染状況、自治体独自に発出される新型コロナウィルスに関する通達や医師会等の意見も参考に再開ならびに新規予約をご検討ください。
CQ2. すでに検査予約済みの内視鏡検査に関してはどのように対応すべきでしょうか? |
Ans. CQ1と同様に、緊急事態宣言下では緊急性のない消化器内視鏡検査・治療に関しては延期を考慮することを推奨します2,3。被検者に電話や郵便等で連絡し、事情を説明し来院を控えるよう指示することが肝要と考えます。この「事情」については、物品不足・感染拡大など、各施設や地域の実情に沿ってご説明ください。緊急事態宣言の解除後は、検診を含む通常の内視鏡検査の再開は可能と考えますが、感染防護体制の状況に加えて、地域の感染状況や医師会等の意見も参考に再開をご検討ください。
CQ3. 緊急事態宣言下では延期してよい内視鏡検査にはどのようなものがありますか? |
Ans. 以下の検査は緊急事態宣言下では延期を考慮すべきであると考えられます5。
CQ4. 緊急事態宣言下でも延期できない内視鏡検査にはどのようなものがありますか? |
Ans. 以下の場合は緊急事態宣言下でも延期すべきではないと考えます1,3,5。
これらの検査・治療の多くはクリニックで施行する頻度は低いと考えられますので、実施可能で感染対策がとれている施設に紹介されることが肝要と考えます。その際にはしっかりと新型コロナウイルス感染症に関する問診をとっていただいて、その内容を紹介先にお伝えいただけると病診連携がスムーズに運ぶと思います。
CQ5. 検査の前に患者に対応するスタッフ(受付等)でも防護策は必要でしょうか? |
Ans. 必要です。受付のスタッフも手指消毒に努め、マスクと手袋を着用し、可能であれば、フェースシールドまたはゴーグル(アイシールド付きマスクも可)着用を考慮してください。その上で、いわゆる社会的距離をしっかりと保ってください。目、口、鼻の防護が肝要です。コンビニエンスストアやスーパーマーケットのレジなどでみられるビニールカーテンの設置も有用かもしれません。
CQ6. 患者待合での注意事項について教えてください。 |
Ans. 以下を参考にしてください。
CQ7. 待合室の環境管理での注意事項について教えてください。 |
Ans. 以下を参考にしてください。
CQ8. 内視鏡検査で来院した患者に伝えるべき事はありますか? |
Ans. 以下の内容をお伝えください。
CQ9. 患者が来院した際に、新型コロナウイルス感染症に対して事前に問診すべき項目とその時の注意点を教えてください。 |
Ans. 問診票での質問項目としては下記の項目を含めることを推奨します(緊急事態宣言解除に伴い、緩和された内容もありますが、どのような状況であってもしっかりとリスクについての情報を得ることは重要です)。
1.患者の状態について
①発熱、のどの痛み、咳や痰などの風邪の症状はありますか?
②疲れやすい、倦怠感などの症状はありますか?
③味覚や嗅覚に異常を感じますか?
④4−5日続く下痢等の消化器症状はありますか?
⑤現在の体温は?
2.感染リスクについて
①2週間以内に感染者が増加している地域を訪問したり、そちらから来られた方と接触したことがありましたか?
*「感染者が増加している地域」の定義は地域・施設によって異なりますので、その時の状況によって各施設でご判断ください。
②2週間以内に「新型コロナウイルス感染者やその疑いがある人」、または、「そのような人と接触した人」との接触がありましたか?
③2週間以内に海外に渡航されましたか?
④2週間以内に海外から帰国された方や、そうした方と接触した人との接触がありましたか?
⑤2週間以内に、大規模なイベント、ライブハウス等の人の多いお店や接待を伴う外食店に行かれたことがありましたか?
3.新型ウイルス感染の既往について
① 新型コロナウイルスに感染したことがありますか?
② 新型コロナウイルスへ感染の治癒はどのようにして確認されましたか?
(治癒判断:発症日から2週間経過し、かつ症状軽快後72時間経過した場合、
あるいは10日以上経過しPCR検査2回にて陰性が確認されている場合。CQ36参照)
内視鏡検査当日は検温することが肝要です。問診や体温測定の結果、すべての項目で該当しなければ感染の可能性が低いと判断してください。1項目でも該当する場合は感染が否定できないと考え、各施設の規則に従って対応してください。
なお、直接問診する場合には、最低でも 1m以上の距離をあけて、マスクやフェースシールド等を着用するなど個人防護に配慮した状態でお願いします6。
CQ10. 予約患者に対して、来院前にCQ9の質問を事前に行う事は推奨できますか? |
Ans. 推奨できます。来院前に問診にて感染リスクがわかれば、感染リスクのある患者の来院を防ぐことができます。この観点から、可能であれば来院前に電話等によりCQ9で示した問診を行い、感染のリスクが疑われた場合は、検査の延期をご検討ください6。延期できない場合には、実施可能で感染対策がとれている施設に紹介することご検討ください。自院で実施される場合には自院の感染防護策を確認するとともに、患者さんには内視鏡検査をうける当日までの毎日、体温と各種症状の記録をつけていただくことを推奨します。新規の予約時には体温を含む症状の日誌( 参考1_新型コロナウイルス感染症 内視鏡検査前症状日誌 (案))を渡し,それを検査日に持参してもらってください。
CQ11. 問診や体温測定で新型コロナウイルスの感染が否定できませんでした。どのように対応すべきでしょうか? |
Ans. 以下の対応を推奨します。
CQ12. 問診や体温測定で新型コロナウイルス感染者の可能性が低いと判断されました。どのように対応すべきでしょうか? |
Ans. 万全を期すためにも、内視鏡検査室や待合室にいる間にウイルスに曝露する可能性があることを伝えた上で検査を行ってください。なお、患者の状態や検査内容によっては他施設への紹介をご検討ください6。この点については,各地域の感染状況に応じた連携体制をあらかじめご確認ください。
CQ13. 問診にて感染リスクが低いと判断された患者の検査当日の同意取得は通常どおりの対応で宜しいでしょうか? |
Ans. 無症候感染例も報告されております。同意を取る際には、マスクを着用し可能な限りの距離を保ってください。なお、地域や施設の状況に応じて、内視鏡検査室や待合室にいる間にウイルスに曝露する可能性についての同意をいただくこともご検討ください。
CQ14. 感染が疑わしいと考えられた患者からの検査当日の同意の取り方について教えてください。 |
Ans. 感染が疑わしいとされた患者で検査を施行すると判断した場合、患者には必ずマスクを着用してもらったうえで、同意書のサインには使い捨てのペンを使用して、マスク、フェースシールドと手袋を着用したスタッフが対応する必要があります1。
CQ15. 内視鏡検査前の前処置に関して注意点を教えてください。 |
Ans. 以下の点にご注意ください。
CQ16. 感染リスクの低い患者での前処置での防護策はどうしたらよいでしょうか? |
Ans. 無症候の感染者もいることが知られており、スタッフは専用スクラブ、サージカルマスク、袖付きのガウン、手袋、フェースシールドまたはゴーグル(アイシールド付きマスクも可)、さらにキャップを着用することを推奨します。しかしながら、各地域・施設によって感染状況や防護具在庫状況は異なります。その状況に応じた対応策をご検討ください。
CQ17. 感染リスクが疑われている患者に対する前処置はどのようにすべきでしょうか? |
Ans. 前処置室への患者出入においては、各患者の手指消毒などをしっかりと行うことを推奨します。また、前処置を行う際にはCQ16の防護に加えて、N95のマスクを使用するなど、前処置における感染の危険性を十分考慮ください。内視鏡の必要性を判断し、他施設への紹介もご検討ください。なお、咳嗽誘発、エアロゾル発生を防止する観点から、スプレータイプでの咽頭麻酔は行わず、ゼリー・ビスカス等での対処がよいと思います。
CQ18. 内視鏡検査を実施するスタッフとしての基本的な考え方を教えてください。 |
Ans. 誰もがこのウイルスを保有している可能性があるとして対応してください。感染しないための個人防護策、感染させないための対策等々に関して、各施設のルールを遵守してください。特に目、鼻、口の防護が重要です。内視鏡室に入るスタッフの人数は最小限としてください2,6,8。このことは、防護具不足対策にも繋がります。
内視鏡検査に関わる全スタッフが各施設でのCOVID-19対策の取り決めについて十分に理解している必要があります9。
CQ19. 内視鏡検査はなぜ感染リスクを高めるのでしょうか? |
Ans. 新型コロナウイルスは気道分泌物および糞便から分離されます。そして、飛沫やエアロゾルを介しての感染が考えられます。内視鏡検査時には、上部消化管内視鏡では患者の咳き込みや嘔吐反射の際に、また、大腸内視鏡検査ではガス排出時などに、ウイルスを含む⾶沫やエアロゾルが拡散し、これらを介した感染が起こりえます10。その他、ウイルスが付着した手や手袋等から直接あるいは間接的に⽬、⿐、⼝の粘膜に付着する事もあり得ます。検査後のスコープや使用したその他の機器も感染源となり得ます。また、検査室に設置してある電子カルテ等のキーボードも感染源になる可能性もあります。
CQ20. 内視鏡検査スタッフの個人防護策について具体的に教えてください。 |
Ans. 新型コロナウイルス感染症では⾶沫感染予防策と接触感染予防策を講じる必要があります。以下の点をご考慮ください5,8,11。
CQ21. 内視鏡検査スタッフの健康管理としてすべきことがあれば教えてください。 |
Ans. 以下の内容を推奨します。
CQ22. 内視鏡検査室の人の流れ、人員について工夫すべき事があれば教えてください。 |
Ans. 内視鏡検査室への人の出入を最小限にすることに努め、また、感染例や感染の可能性の高い症例に対するマニュアル(患者の待合での場所、使用する検査室、リカバリー室での場所、患者の動線等々)を作成しておくことが肝要です6。特に、感染リスクの高い患者の動線については、予め施設内で決めておくことが必要です(ゾーニングの推奨)。また、検査に関わるスタッフも最小限にすることを推奨します。
CQ23. 感染が疑われる患者や感染確定患者の緊急内視鏡検査を施行する場合にはどのように対応すべきでしょうか? |
Ans. 以下の対応を推奨します。
CQ24. 検査の付き添いの家族への検査室への入室に関してはどうしたらよいでしょうか? |
Ans. 付き添いの方が検査室に入室する際にも、術者と同等レベルの個人防護策を講じる必要がありますが、個人防護具には限りがあります。また、付き添い者も感染リスクを負うことになります9。別室でのモニターがあれば、それを活用したり検査後の画像を紹介するなど施設の状況に応じた対応をお願いします。どうしてもという場合でも1名を限度とすべきです。なお、付き添い関しては、検査終了後のリカバリー室での感染リスクにも配慮してください。
CQ25. 感染が疑われる患者や感染確定患者での緊急内視鏡検査の施行後の術者が留意すべきことについて教えてください。 |
Ans. 検査後も引き続き感染予防対策を講じていくことが必要です。術者・スタッフの個⼈防護具は、検査室を出る際に破棄します。なお、防護具を破棄する際にはウイルス飛散などの可能性について十分に留意してください。個人防護具を外す際には、手袋、ガウン、マスクの順に外す、もしくは手袋とガウンを同時に外して最後にマスクを外す、などの方法がありますが、いずれも汚染面に触れないように注意して下さい。ガウンは汚染面が内側にくるようにたたんでまとめて廃棄して下さい。また、破棄後は肘までの手指洗浄を徹底して行うことが重要です。なお、防護具の具体的な外し方についてはいくつか提示されていますのでご参照ください(http://www.kankyokansen.org/uploads/uploads/files/jsipc/COVID-19_taioguide3.pdf、https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/iryo/kansen/shingatainflu/cyakudatsu.html、http://jrgoicp.umin.ac.jp/related/ppe_catalog_2011/PPE_PPT_201102-2.pdf)。また、スコープや再利用する機器は本学会ガイドライン13に従った洗浄をお願いします。
感染確定患者の検査後は、個人防護策を徹底していれば曝露リスクは低リスクと判定されます。しかし、認識されない曝露があるかもしれないため、その日は業務から外れるなど各施設の基準に則り対応してください。以降は、自己モニタリングは必須であり、毎日の体温測定、症状の評価を行い無症状であることを確認してからその日の業務を始めてください14。
CQ26. 感染が疑われる患者や感染確定患者での緊急内視鏡検査後の患者への対応で注意すべき点について教えてください。 |
Ans. 検査終了後には患者にもマスクを着用させます。特に経口的な検査を行った場合では、咳嗽の頻度も高く、検査後の飛沫感染を予防するためにマスクを必ず着用させてください。また、感染が疑われる患者がリカバリー部屋を用いる場合は、必ず他の患者と隔離される別の部屋をご用意ください5。
CQ27. 感染が疑われる患者や感染確定患者での緊急内視鏡検査後の内視鏡機器の取り扱いについて注意すべき点について教えてください。 |
Ans. 検査終了後の内視鏡の運搬や洗浄に関しても十分な感染予防策をとることが重要です。スコープ類など洗浄にかけるものは、可能な限り密閉容器での運搬を推奨します。それが難しい場合は、台車にオイフのようなディスポーザブルシーツを敷き、その上にスコープを置き、さらにスコープの上にもディスポーザブルシーツをかけて周囲への汚染を最小限にすることに努めてください。また、洗浄を担当するスタッフも、飛散による汚染、感染防止のため、術者同様に長袖ガウン、マスク、ゴーグル(もしくはフェースシールド)、キャップ、二重手袋、シューズカバーを着用して、直接、口、目、鼻のみならず、肌への飛散がないようにしてください。洗浄終了後にスコープを取り出すときには、汚染されていない長袖ガウンに交換していることが望ましいと考えます。洗浄も手慣れたスタッフが施行することが必要です7。
CQ28. 感染が疑われる患者や感染確定患者での緊急内視鏡検査後のスコープの洗浄方法は何か特殊な方法がありますか? |
Ans. 特殊な方法はありません。スコープの洗浄は本学会の「消化器内視鏡の洗浄・消毒標準化にむけたガイドライン」に従って洗浄、消毒していただければ問題ありません13(https://www.jstage.jst.go.jp/article/gee/60/7/60_1370/_pdf/-char/ja)。洗浄履歴をきちんとつけることが肝要です。
CQ29. 感染が疑われる患者や感染確定患者での緊急内視鏡検査後の処置具等のcritical器具の洗浄方法は何か特殊な方法がありますか? |
Ans. 特殊な方法はありません。処置具はディスポーザブル製品を用いることを推奨しますが、再使用可能製品を使用する場合は,再使用可能製品メーカーの取扱い説明書に従った十分な洗浄・滅菌が必要であると考えます13。
具体的な方法の一案として、あるクリニックでの運用方法をご紹介いたします15。使用した器具は、使用後直ぐに蛋白分解酵素を溶解した水にしっかりと浸します。その後、鉗子ではカップなどをブラシで洗浄します。そして超音波洗浄機に30分かけます。流水ですすぎ、潤滑・防錆剤(スティンミルクs200など)に浸します。ガーゼで水分を拭き取り、滅菌パックにいれて、オートクレーブ等の滅菌処置を行います。
CQ30. 感染疑い、あるいは確定患者での緊急内視鏡検査後の検査室はどのような処置が必要でしょうか? |
Ans. 内視鏡検査後は、ウイルスが飛沫しエアロゾル感染が起こりやすい状況となっていると考えるべきで、検査終了後には、検査室の扉は開放せずに十分な時間をかけて換気を行ってください。その後、室内を通常清掃し、部屋全体をアルコール等で清拭し消毒を行うことを推奨します5,6。また、先述のように、検査室内の電子カルテキーボードの消毒も徹底してください。
CQ31. 内視鏡検査の際に使用した、スコープ以外の機器の取り扱いについて教えてください。 |
Ans. 鉗子等のディスポのデバイス類は、検査の各部屋に備え付けの感染性廃棄容器に入れてください。そうした容器を開ける際にも注意が必要です。Critical器具で再利用される場合はCQ29を参考にしてください。それ以外のnon-criticalなもので再利用する物品に関しても本学会のガイドライン13に従い、洗浄後アルコール等での消毒をすることを推奨します。患者に触れた聴診器や体温計、⾎圧計等、パルスオキシメータ等の器材は、アルコールや抗ウイルス作⽤のある消毒剤含有のクロスでの清拭消毒を⾏います。検査台のシーツ、枕カバー、トロリー使用の紙シーツ類は毎回交換してください。シーツ類は感染汚染物として取り扱ってください。
CQ32. 消毒用のアルコールが入手困難となってしまいました。スコープの洗浄過程でのアルコールフラッシュができなくなりそうです。何かよい方法はありますでしょうか? |
Ans. 以下の内容を推奨いたします。
CQ33. 感染のリスクの少ない患者の検査をしたところ、後日感染していることが判明しました。どのように対応したら宜しいでしょうか? |
Ans. 個人防護策および検査後の手指洗浄が徹底されていれば、低リスクと判定されます。ただし、認識されない曝露の可能性は否定できないため、自己モニタリングだけではなく、施設の関係部署に連絡し対応を協議してください。状況によっては保健所に連絡し指示を受ける必要があります。
個人防護策に不備があった場合(フェースシールド、マスク、袖付きのガウン、手袋のいずれかが未着用で、目・鼻・口や手指腕等のいずれかの防護が不完全であった場合)、高リスクと判定されますので、内視鏡検査施行時の状況を含めて各施設の対応部署、または保健所に報告し、消毒の方法や範囲、濃厚接触者への対応、業務継続の可否など事後措置について指示を仰いでください。基本的には、最後の曝露後から14日間は業務から外れる必要があり、積極的な体温測定や症状のチェック等のモニタリグンを受けなくてはなりません。曝露後濃厚接触した個人(他の医療スタッフ)がいれば同様の対応が必要です14。また、内視鏡室の消毒も不十分であれば、徹底して行う必要があります。
CQ34. 緊急事態宣言解除後も緊急性のない内視鏡検査は延期すべきでしょうか? |
Ans. 緊急性のない待機的な内視鏡検査や内視鏡検診に関しても、長期にわたる休止は患者や検診受診者に重大な不利益を生む可能性は否定できません。従って、緊急事態宣言の解除に伴い、ハイリスク条件に該当しない方(無症候等により臨床的にCOVID-19を疑わない症例:ローリスク患者)への検診を含む通常内視鏡診療は、適切なトリアージと確実な感染防護策の実施する事が可能であれば、再開をご検討いただいても良いと考えます。具体的には、待機的な内視鏡検査予定日の2週間以内には3密となる行動を避けてもらう、1日の検査数を少なく設定し段階的に増やしていく、なども一案です。また、施設によっては内視鏡診療前のPCR検査をご検討されているところもあると思います。繰り返しますが、ローリスク患者であってもSARS-CoV-2陽性の可能性もあることをご理解頂いて、確実な感染防護策を取った上で施行してください。また、PCR検査で陰性であっても、偽陰性の可能性があることにも注意が必要です。
なお、ハイリスク患者に対して緊急の消化器内視鏡診療が必要な場合は、これまで通り各施設基準に則り施行してください。
CQ35. 緊急事態宣言解除後の消化器内視鏡検査の再開に際して留意すべき点はありますでしょうか? |
Ans. 緊急事態宣言解除後も新規の感染例の報告は続いております。そして、無症状のウィルス感染例が存在していることを念頭に、再開にあたっては引き続き感染防護策を徹底し、緊張感をもって内視鏡診療を実施してください。受診者ならびにスタッフに対する事前の問診と体温測定は継続してください。
CQ36. 新型ウイルスの既感染者や濃厚接触者の内視鏡検査に際して留意すべき点を教えてください。 |
Ans. SARS-CoV-2感染が確認された有症状者でも、発症日から2週間経過し、かつ症状軽快後72時間経過した場合、あるいは10日以上経過しPCR検査2回にて陰性が確認されている場合は、治癒していると考えて通常内視鏡検査も施行可能です16。感染者との濃厚接触者は、14日間の自宅待機を経て臨床症状に問題がなければ、感染低リスクと判断して内視鏡検査可能と判断できます。しかしながら、いずれの場合においても、治癒判断後から内視鏡施行までの健康チェックおよび当日の問診や体温測定は必須と考えます。
CQ37. 新型コロナウイルスの第二波、第三波のリスクが懸念されております。また、今後も別の感染症でのPandemicのリスクも危惧されます。消化器内視鏡診療に際して今後どう対応すべきでしょうか? |
Ans. COVID19の感染広がりにおいて重大な問題として、感染防護具不足があげられました。内視鏡検査施設においては、ある程度の感染防護具の備蓄が必要と考えます。マスク、フェースシールド、袖付きガウン、手袋、キャップ等の防護具の確保は、今後の内視鏡診療を行う際に必須と考えてください。手指や検査室の消毒薬の確保も同様に必要です。その他、各施設での感染防護策の強化、感染対策規則の周知徹底、スタッフへの教育、可能であれば換気設備の改修、検査室や待合のレイアウトの工夫・改修、等を行い、感染拡大の再来に備えておくことを是非ご考慮ください。長期的には、通常の消化器内視鏡診療体制が、あらゆる感染症に対応できる体制になることが理想と言えます。
CQ38. 経験の浅い内視鏡医が感染疑いあるいは確定患者に対して検査をしてもよいでしょうか? |
Ans. 施行医の技術が未熟な場合には、経口的な検査では、挿入がスムーズにいかず、被検者の誤嚥や反射的な咳嗽を誘発しやすく、飛沫感染のリスクを高めます。大腸内視鏡検査においても送気量が多くなりがちであり、排ガスの頻度も増加し、結果として飛沫感染のリスクが高くなります9。全体的な検査時間が長くなることも予想され、全ての面で感染リスクも上昇します。したがって、感染確定患者に対しては介助者も含めて十分経験を積んだ上級者が行うことを推奨します17。一方、感染疑い患者に対しては、検査時間が長くなる状況においては上級者への術者交代をご検討ください。
CQ39. 患者毎に袖付きのガウン等を交換していると在庫が直ぐに無くなってしまいます。本当に全例での感染防護具の交換が毎回必要でしょうか? |
Ans. 基本的には必要と考えます。それは、防護具が感染源になるためです。しかしながら、各地域・施設によって感染状況や防護具在庫状況は異なり、個人防護具がどの施設でも潤沢に使用できるとは限りません。以下をご参考に、施設ごとに具体的な方策を講じてください。
CQ40. N95マスクは供給に限りがあるため、再利用も可能と言われています。どのようにすればよいでしょうか? |
Ans. 内視鏡検査はエアロゾルが発生しやすくN95マスクを用いることが望ましいため、使用頻度も高いと考えます。使い捨てが好ましいですが、現状ではN95マスクの供給の見通しが立たないことから破棄せずに再利用に努めることが厚生労働省から提示されました12。以下の方法が提示されております。
CQ41. 防護具不足に対する工夫はなにかありますか? |
Ans. 下記のようなことが報告されています。
CQ42. COVID-19の感染リスクを考えた場合、観察目的の上部消化管内視鏡検査では、咳や嘔吐反射が少ない経鼻内視鏡の方が適当と考えて宜しいでしょうか? |
Ans. いいえ、 経鼻内視鏡検査が経口内視鏡検査よりも感染リスクが低いかは明らかにされておりません。確かに、経鼻内視鏡検査では経口内視鏡検査に比較して咳や嘔吐反射が少なく、エアロゾル発生による感染のリスクは低く抑えられる可能性はあります。しかし、感染初期より副鼻腔や鼻腔にはウイルスは定着しており19、鼻腔からのswabでウイルスの検査が施行されているのもこのためです。また、経鼻内視鏡検査においては、前処置の際の反射による嚔(くしゃみ)や咳嗽にも十分な注意が必要です。また、使用したスコープは汚染されている可能性が高いとの認識を持ち、スコープの取り扱い(特に運搬)には十分な配慮が必要です。内視鏡検査の延期が難しい場合は、臭覚異常等の感染徴候以外の鼻腔の症状にも注意が必要です。その上で、経鼻、経口いずれにおいても感染のリスクがあることを十分認識してください。何れにしても、適切な防護策を取る必要があることは言うまでもありません。
CQ43. 消化器内視鏡施行時の飛沫対策としてどのような方法がありますでしょうか? |
Ans. SARS-CoV-2の感染経路は主として飛沫感染と接触感染ですが、これまでのいくつかの研究を基として、その可能性は低いものの空気感染についても注意喚起がなされています20、21。周知の通り、飛沫感染と空気感染のいずれにおいても換気が極めて重要ですが、消化器内視鏡診療にあたっては、内視鏡挿入部からの飛沫拡散への対策が重要となります。
上部消化管内視鏡施行時の飛沫散乱対策としては、いくつか考案されております。サージカルマスクに内視鏡スコープが通過できるような切り込みをいれて、マウスピースの上から患者さんにつけてもらう方法22、23、マウスピースに飛沫防止のためのシートをつける方法24、密閉性のある麻酔用マスクのようなものに内視鏡が通過できるような穴をあける方法25、などがあります。また、マウスピースの内視鏡挿入部に切れ込みの入ったスポンジを有し、患者さんの顔を覆うドレープを備えた飛沫低減機構付きマウスピース26やボックスタイプの内視鏡専用飛沫遮蔽機材27、28なども発売されていますし、同様の観点から被検者の頭部付近を透明なビニールで覆う方法29も考案されております。そのほか、患者の飛沫を吸引し特殊なフィルタで捕集する機器も販売されています30。下部消化管内視鏡検査に関しても、挿入部付近を覆う方法が考案され実用化に向けて検証されております。
しかしながら、各々の方法がどの程度の飛沫防止効果があるのか、そしてどの方法が優れているか等についての十分な検証はできておりません。このことはしっかりと理解しておく必要があります。
CQ44. 内視鏡検査前に SARS-CoV-2検査は必要でしょうか? |
Ans. 消化器内視鏡診療前に、PCR検査や抗原検査で SARS-CoV-2感染状況を調べることは、偽陰性や偽陽性の問題もあり、現時点で全例に実施する事を推奨できるかにつしては一定の見解はありません。特に、通常の観察目的の内視鏡検査であれば10分以内で終わることが多いと思いますが、これであれば濃厚接触の定義に抵触する15分に至ることは殆どないため、検査前の感染リスクを評価してトリアージを行い、低リスク患者に対してPPEをしっかりして検査を行うのであれば、特に必要ないと考えます。一方、ESDやERCP等の治療内視鏡で検査時間が長くなる場合では、可能であればPCR検査や抗原検査でSARS-COV-2感染状況を調べることを考慮して良いと考えます。
米国消化器病学会では、以下の指針を出していますので、参考にされてください31。
CQ45. 内視鏡診療時に院外からの見学あるいは研修スタッフを同席させても良いですか?また院外からの内視鏡診療応援は依頼しても良いですか? |
Ans. 院外からの医師やコメディカルスタッフの見学や研修を受け入れる施設においては、院内の関係部署と相談し受け入れの可否を決定する必要があります。また見学・研修を目的に来られる方に関しては、来院前2週間は、感染リスクのある行動(感染が拡大している地域への訪問や、大規模なイベント・ライブハウス等の人の多いお店や接待を伴う外食店の利用)を控えることを徹底していただく必要があります。また見学・研修前に問診・体温測定を行うなどの健康管理も重要です。さらに見学・研修中には、患者に近距離で接しないようにする注意も必要です。
また、他施設からの消化器内視鏡診療の応援を依頼する場合には、医療従事者が感染源とならないように、個人の感染対策を徹底するとともに、依頼元と依頼先の施設の間で十分に協議を行い、お互いの施設での了承を得るようにしてください。この際にも、来院時の体温測定等の管理が必要となります。
参考1_新型コロナウイルス感染症 内視鏡検査前症状日誌 (案)
参考2_アルコールフラッシュを行うことができない場合の対応方法 オリンパス社製スコープ用
参考3_アルコールフラッシュを行うことができない場合の対応方法 富士フイルム社製スコープ用(2020年6月11日改訂)
参考4_アルコールフラッシュを行うことができない場合の対応方法 HOYA社製(PENTAX)スコープ用
Transmission of SARS-CoV-2: implications for infection prevention precautions: scientific brief, 09 July 2020. World Health Organization. https://apps.who.int/iris/bitstream/handle/10665/333114/WHO-2019-nCoV-Sci_Brief-Transmission_modes-2020.3-eng.pdf?sequence=1&isAllowed=y
https://www.cdc.gov/infectioncontrol/guidelines/environmental/background/air.html
Lazaridis N, Skamnelos A, Murino A, et al. “Double-surgical-mask-with-slit” method: reducing exposure to aerosol generation at upper gastrointestinal endoscopy during the COVID-19 pandemic. Endoscopy 2020;52:928-929.
Endo H, Koike T, Masamune A. Novel device for preventing diffusion of aerosol droplets from subjects undergoing esophagogastroduodenoscopy during COVID-19 pandemic. Dig Endosc 2020.
Bojorquez A, Larequi FJZ, Betes MT, et al. Commercially available endoscopy facemasks to prevent aerosolizing spread of droplets during COVID-19 outbreak. Endosc Int Open 2020;8:E815-E816.
Maruyama H, Higashimori A, Yamamoto K, et al. Coronavirus disease outbreak: a simple infection prevention measure using a surgical mask during endoscopy. Endoscopy 2020 Aug 20. (online ahead of print)
https://www.fujifilm.com/jp/ja/healthcare/endoscopy/endoscopy-accessories/mouthpiece
Sagami R, Nishikiori H, Sato T, Murakami K. Endoscopic shield: barrier enclosure during the endoscopy to prevent aerosol droplets during the COVID-19 pandemic. VideoGIE 2020 May 11. (Online ahead of print)
https://www.yomiuri.co.jp/local/oita/news/20200902-OYTNT50062/
Kikuchi D, Suzuki Y, Nomura K, et al. New safety measure for the endoscopic procedures during the COVID-19 pandemic: New STEP.VideoGIE. 2020 Sep 17.(Online ahead of print)
Sultan S, Siddique SM, Altayar O, et al. AGA Institute Rapid Review and Recommendations on the Role of Pre-Procedure SARS-CoV-2 Testing and Endoscopy. Gastroenterology 2020 Jul. (Online ahead of print)
▼過去の掲載実績
新型コロナウイルス感染症に関する消化器内視鏡診療についてのQ&A(2020年4月16日 第1版)
新型コロナウイルス感染症に関する消化器内視鏡診療についてのQ&A(2020年4月22日 第2版)
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