(特にクリニックや比較的規模の小さな病院での内視鏡検査を想定した場合)
日本消化器内視鏡学会、2023年9月15日(改訂第9版)
COVID-19が感染症法5類に変更されたことに伴い、内容をアップデート致しました。
新型コロナウイルス感染拡大下での消化器内視鏡診療にあたっては、本学会の提言を含めて種々のガイドラインや各施設内の指針に準じて万全の体制で臨まれてこられたことと存じます。感染拡大を防ぎ、かつ医療従事者を守ることは極めて重要です。一方、一般のクリニックや比較的規模の小さな病院では対策に苦慮されているとのお話を多く耳にします。このような状況に鑑み、日本消化器内視鏡学会では、そのような先生方への情報提供として「新型コロナウイルス感染症に関する消化器内視鏡診療についてのQ&A」を作成し、適宜アップデートしてきました。
令和5年5月からは、新型コロナウイルス感染症は感染症法における5類に変更となり、様々な規制が緩和され、社会生活もコロナ禍以前の状況に近づいております。しかしながら、医療現場に於いては、現在でも感染リスクを常に念頭におきつつ、日常診療にあたらなくてはならない状況は続いております。
今回のアップデートでは、5類変更に伴い、これまで設定していたQuestionを見直し、不必要と思われるものは削除し、従来よりも緩和した内容になっております。しかし、基本的な感染予防や個人防護具(Personal Protective Equipment、以下PPE)着用等につきましては、これまで同様の対応が重要であり、大きな変更はございません。
このQ&Aは本学会が示したひとつの目安であり、それぞれの施設の対応を制限するものではありません。この指針を参考にしていただき、各地域の感染状況や方針、各施設の状況に応じて具体的に適切な対応策を決めていただくことが重要です。
2023年9月15日
一般社団法人日本消化器内視鏡学会
理事長 田中 信治
医療安全委員会 担当理事・委員長 入澤 篤志
副委員長 古田 隆久
委員 青木 利佳、池田 宜央、大塚 隆生、
河原 祥朗、菅野 敦、鷹取 元、
水上 一弘、山田 玲子
I. はじめに
II. 新型コロナウイルス感染症に関する消化器内視鏡診療についての Q&A
CQ3. COVID-19感染後から内視鏡診療までの空けるべき期間について
CQ6. 患者が来院した際に、新型コロナ感染症に対して事前に問診すべき項目
CQ8. 消化器内視鏡診療施行前のSARS-CoV-2検査について
CQ9. 問診にて感染リスクが低いと判断された患者の検査当日の同意取得
CQ10. 感染が疑わしいと考えられた患者への検査当日の同意取得
CQ14. 内視鏡診療を実施するスタッフとしての基本的な考え方
CQ20. 感染確定・疑い患者に対する緊急内視鏡診療を施行する場合の対応
CQ22. 感染確定・疑い患者に対する緊急内視鏡診療施行後における術者の留意点
CQ23. 感染確定・疑い患者に対する緊急内視鏡診療施行後における患者対応の留意点
CQ24. 感染確定・疑い患者に対する緊急内視鏡診療施行後の内視鏡機器の取り扱い
CQ27. 感染確定・疑い患者に対する緊急内視鏡診療施行後の検査室への処置
CQ28. 感染確定・疑い患者に使用したスコープ以外の機器の取り扱い
CQ31. 感染確定・疑い患者に対する経験の浅い内視鏡医による施行の是非
CQ33. 観察目的の消化器内視鏡検査とワクチン接種時期について
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大は、消化器内視鏡診療に大きな影響を及ぼしてきました。日本消化器内視鏡学会では、その時々のCOVID-19の状況に鑑みた内視鏡診療について、『新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への消化器内視鏡診療についての提言』(https://www.jges.net/medical/covid-19-proposal)を発表し、2020年3月25日の第1版発表以降、本邦における状況に鑑みて、提言およびQ&Aのアップデートを行ってまいりました。
2023年5月に、COVID-19は感染症法における5類に変更され、これまでの規制等も大幅に緩和され、法律に基づき行政が様々な要請・関与をしていく仕組みから、個人の選択を尊重し、国民の自主的な取組をベースとした対応に変わりました。しかしながら、医療現場においては、様々なリスクをお持ちの患者さんが多くいらっしゃることからも、未だ確実な感染対策が求められています。特に、SARS-CoV2に関連したエアロゾル発生の危険性があるとされる消化器内視鏡診療においては、現時点においてもしっかりとした感染対策を講じる必要があると考えます。
今回、COVID-19が5類に変更されたことを基として、Q&Aをアップデート致しました。ここでは、消化器内視鏡に関わる医師および関連するスタッフにむけた、具体的な対応案を示しています。なお、このQ&Aは、一般のクリニックや比較的規模の小さな病院のみならず、幅広いご施設で参考としていただけるものとして作成しておりますが、その内容は本学会が示したひとつの目安であり、それぞれの施設の対応を制限するものではありません。この指針を参考にしていただき、各施設の状況に応じて具体的に適切な対応策を決めていただくことが重要です。
CQ1. 5類に変更後の通常消化器内視鏡診療に際して留意すべき点はありますでしょうか? |
Ans. COVID-19が5類に変更されたとはいえ、各施設内においては引き続きの感染対策が求められていると思います。消化器内視鏡診療においては、この診療自体がエアロゾルを産生し、COVID-19のみならず様々な感染症の感染リスクを高めること1を十分に理解し、感染防護策を徹底し、緊張感をもって実施してください。受診者に対する事前の問診と健康チェックは引き続き実施してください。また、これまで同様の確実なPPEの着用・感染対策は実施してください。
CQ2. 濃厚接触者に対する消化器内視鏡診療に際して留意すべき点を教えてください。 |
Ans. 濃厚接触者については、国の指針として一連の外出自粛などはなくなりましたが、基本的には、最後の曝露後から最低でも5日間は消化器内視鏡診療は行わない方がよいでしょう(濃厚接触から7日目までは発症する可能性があるともされています)2。詳細は各施設の基準に則ってご考慮ください。5日以内に内視鏡診療を行う場合は、感染者に対する対応に準じて実施してください。なお、内視鏡検査中の飛沫の拡散を防ぐ効果があるとされる被検者用のスリット入りマスクや、被検者をフィルムなどで被覆する装置も発売されており、これらを活用することも有効と思われます。
CQ3. COVID-19感染後からどのくらいの間隔を空けて消化器内視鏡診療をすべきでしょうか? |
Ans. COVID-19の罹患後の緊急性のない内視鏡診療は、COVID-19の重症度と内視鏡の侵襲度を考慮して決定すべきですが、COVID-19の罹患後から消化器内視鏡診療を行うまでの期間について明確なエビデンスはありません。COVID-19蔓延初期における感染後の外科的治療についての研究では、治癒から7週間後に有意に術後合併症・死亡率が減るといった報告がなされており3、この観点からは待期的外科手術は7週間の間隔を空けることが考慮できます。しかしながら、現在のオミクロン株の状況に合致するか否かはわからず、また、内視鏡的治療の侵襲と外科的手術の侵襲度の違いもあるため、あくまで参考程度としてください。日本麻酔科学会では、COVID-19治癒後から待期的外科手術までの期間を、軽症から中等症患者では発症から4週間、集中治療を要した患者では12週間空けることを提案しています4。消化器内視鏡診療においても、全身麻酔下や深鎮静下で手技を行うこともあり、特にCOVID-19の重症例においては、前述の報告は参考にしてください。
一方、院内感染予防の観点から、COVID-19感染後の消化器内視鏡実施時期については、現在厚生労働省が示している「外出を控えることが推奨される期間:5日間」は遵守すべきですし、また、緊急例以外では、発症後10日間が経過するまではウイルス排出の可能性があること2を考慮した実施が必要です。
2022年5月に発出された英国からの待期的外科的手術に関するステートメント5では、症状が持続する患者や中等度から重度のCOVID-19患者の場合は、最低でも15-20日間、場合によっては7週間より長い延期が必要になることもあるとされています。このステートメントが出された時の状況は現在とは異なりますが、各患者の病状に鑑みてご検討ください。
CQ4. 受付スタッフはどのように対応すべきしょうか? |
Ans. 受付のスタッフも手指消毒に努め、マスクを着用し、患者にもマスク着用をお願いするようにしてください。
CQ5. 患者待合での注意事項について教えてください。 |
Ans. 以下を参考にしてください。
CQ6. 患者が来院した際に、COVID-19に対して事前に問診すべき項目とその時の注意点を教えてください。 |
Ans. 問診票での質問項目としては下記の項目を含めることを推奨します(どのような状況であってもしっかりとリスクについての情報を得ることは重要です:参考資料4)。
① 発熱、のどの痛み、咳や痰などの風邪の症状はありますか?
② 疲れやすい、倦怠感などの症状はありますか?
③ 味覚や嗅覚に異常を感じますか?
④ 4−5日続く下痢等の消化器症状はありますか?
⑤ 現在の体温は?
① 新型コロナウイルスに感染したことがありますか?
② 新型コロナウイルス感染の症状がでてから何日経過しましたか?
*厚生労働省が公開している外出を控えることが推奨される期間は以下の通りです2
1.症状がある方
1)発症後5日間が経過し、かつ、症状軽快から24時間経過するまで。
2.症状のない方(無症状病原体保有者)
1)検査採取日を発症日(0日)として、5日間経過するまで。
CQ7. 問診や体温測定でCOVID-19が否定できませんでした。どのように対応すべきでしょうか? |
Ans. 以下の対応を推奨します。
CQ8. 消化器内視鏡診療前に SARS-CoV-2検査は必要でしょうか? |
Ans. 地域の感染率が必ずしも高くない場合は、確実なPPE装着下での消化器内視鏡診療であれば、事前のPCR検査や抗原定量検査の意味はあまりないとされていますが、感染者数が増加した際には院内感染防止に一定の効果が期待できます8。各施設で体制・対応についてご検討ください。なお、これらの検査は偽陰性の問題もありますので、陰性と判断されてもPPEをしっかりして検査を行うことが肝要です。
CQ9. 問診にて感染リスクが低いと判断された患者の検査当日の同意取得は通常どおりの対応で宜しいでしょうか? |
Ans. 無症候感染例や発症前の潜伏期間中の患者からの感染も報告されております。同意を取る際には、マスクを着用し可能な限りの距離を保ってください。
CQ10. 感染が疑わしいと考えられた患者からの検査当日の同意の取り方について教えてください。 |
Ans. 感染が疑わしいとされた患者で検査を施行すると判断した場合、患者には必ずマスクを着用してもらったうえで、同意書のサインには使い捨てのペンを使用して、マスク、フェースシールドと手袋を着用したスタッフが対応する必要があります9。
CQ11. 消化器内視鏡診療前の前処置に関して注意点を教えてください。 |
Ans. 以下の点にご注意ください。
CQ12. 感染リスクの低い患者での前処置での防護策はどうしたらよいでしょうか? |
Ans. 無症候の感染者もいることが知られており、スタッフは専用スクラブ、サージカルマスク、袖付きのガウン、手袋、フェースシールドまたはゴーグル(アイシールド付きマスクも可)、さらにキャップを着用することを推奨します。基本的には全ての患者さんが感染者であることを前提に対処する事が望ましいと考えます。
CQ13. 感染が疑われている患者に対する前処置はどのようにすべきでしょうか? |
Ans. 前処置室への患者出入においては、各患者の手指消毒などをしっかりと行うことを推奨します。また、前処置を行う際には基本的な防護に加えて、N95のマスクを使用するなど、前処置における感染の危険性を十分考慮ください。なお、感染の可能性がある患者に対しては、むせり・咳嗽誘発、エアロゾル発生を防止する観点から、スプレーなどを用いた咽頭麻酔は行わず、ゼリー・ビスカス等での対処がよいと考えます。しかし、ゼリー等が苦手な方もいらっしゃいますので、各施設で咳嗽を誘発しないような咽頭麻酔方法について工夫してください。
CQ14. 内視鏡診療を実施するスタッフとしての基本的な考え方を教えてください。 |
Ans. 誰もがこのウイルスを保有している可能性があるとして対応してください。感染しないための個人防護策、感染させないための対策等々に関して、各施設のルールを遵守してください。特に目、鼻、口の防護が重要です。内視鏡診療に関わる全スタッフが各施設でのCOVID-19対策の取り決めついて十分に理解している必要があります9。
CQ15. 内視鏡診療はなぜ感染リスクを高めるのでしょうか? |
Ans. SARS-CoV-2は気道分泌物および糞便から分離されます11。そして、接触、飛沫、エアロゾルを介して感染します。消化器内視鏡診療においては、スコープの挿管および抜去、咳嗽・げっぷ、患者のガスと液体の排出、鉗子口への器具の挿入および抜去時の汚染された液体の拡散などが感染伝播に関与します12、13。SARS-CoV2は空中で数時間程度生存するとの報告もあり14、内視鏡室など密閉された空間では、光源装置内の強制空冷システムによるウイルス粒子や媒介物の拡散も関与して1、高濃度の汚染されたエアロゾルが充満し、一定時間曝露した場合にはエアロゾルによるSARA-COV-2の伝播が高頻度で起こりうると考えられます。その他、ウイルスが付着した手や手袋等から直接あるいは間接的に⽬、⿐、⼝の粘膜に付着する事もあり得ます。使用したスコープやその他の機器も感染源となり得ます。
CQ16. 内視鏡スタッフの個人防護策について具体的に教えてください。 |
Ans. COVID-19を考慮した内視鏡診療においては、⾶沫感染予防策と接触感染予防策を確実に講じる必要があります9,15,16。なお、PPE着脱については様々な動画を含む資料が公開されています(① 日本医師会 http://www.med.or.jp/doctor/kansen/novel_corona/009082.html ②東京都福祉保険局 https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/smph/iryo/kansen/shingatainflu/cyakudatsu.html など)。これらを参考に確実な着脱を心がけてください。
ここでは、すべての内視鏡検査・処置における最低限のPPEについてお示しします。感染陽性あるいは感染が疑われる症例に対する緊急内視鏡の場合は、CQ20を参照ください。なお、既報17では、適切にPPEを使用することで、消化器内視鏡診療を介した内視鏡スタッフ(施行医・介助者等)への感染リスクはほとんどないことが示されています。
CQ17. 消化器内視鏡施行時の飛沫対策としてどのような方法がありますでしょうか? |
Ans. 消化器内視鏡診療にあたっては、内視鏡挿入部からの飛沫拡散への対策が重要となります。上部消化管内視鏡施行時の飛沫散乱対策としては、以下の様な対策が報告されています:サージカルマスクに内視鏡スコープが通過できるような切り込みをいれて、マウスピースの上から患者さんにつけてもらう方法18,19(スリット入りマスクも販売されています20)、マウスピースに飛沫防止のためのシートをつける方法21、密閉性のある麻酔用マスクのようなものに内視鏡が通過できるような穴をあける方法22,23、などがあります。また、マウスピースの内視鏡挿入部に切れ込みの入ったスポンジを有し、患者さんの顔を覆うドレープを備えた飛沫低減機構付きマウスピース24やボックスタイプの内視鏡専用飛沫遮蔽機材25、同様の観点から被検者の頭部付近を透明なビニールで覆う方法26,27なども考案・販売されています。そのほか、患者の飛沫を吸引し特殊なフィルタで捕集する機器28も含め、内視鏡室における特殊機材を用いたair filtrationの有用性も示されてきています29。大腸内視鏡に関しても、挿入部付近を覆う方法が考案され実用化に向けて検討されております。最近は、いろいろと考案された方法・機材等の有用性が客観性をもって示されてきておりますが、各々の方法がどの程度の飛沫防止効果があるのか、そしてどの方法が優れているか等についての十分な検証はできておりません。このことはしっかりと理解しておく必要があります。いずれにしても、室内換気については十分にご配慮ください。
CQ18. 内視鏡スタッフの健康管理としてすべきことがあれば教えてください。 |
Ans. スタッフは体温や自覚症状の有無、家族内での感染者の有無など、自身の感染のリスクが高いと考えた場合は、内視鏡室の管理者に相談し各施設の規則に従ってください。
CQ19. 内視鏡室における人員・動線について工夫すべき事があれば教えてください。 |
Ans. 感染例や感染の可能性の高い症例に対するマニュアル(患者の待合での場所、使用する内視鏡室、リカバリー室での場所、患者の動線等々)を作成しておくことが肝要です10。特に、感染リスクの高い患者の動線については、予め施設内で決めておくことが必要です(ゾーニングの推奨)。また、その場合は内視鏡診療に関わるスタッフも最小限にすることを推奨します。
CQ20. 感染が疑われる患者や感染確定患者に対して緊急内視鏡を施行する場合にはどのように対応すべきでしょうか? |
Ans. 以下の対応を推奨します。
CQ21. 患者毎に袖付きのガウン等を交換していると在庫が直ぐに無くなってしまいます。今後も継続して全例で感染防護具を交換する必要があるのでしょうか? |
Ans. 基本的には必要と考えます。それは、PPEが感染源になるためです。しかしながら、各地域・施設によって感染状況や防護具在庫状況は異なり、PPEがどの施設でも潤沢に使用できるとは限りません。以下をご参考に、施設ごとに具体的な方策を講じてください。
CQ22. 感染が疑われる患者や感染確定患者での緊急内視鏡施行後の術者が留意すべきことについて教えてください。 |
Ans. 施行後も引き続き感染予防対策を講じていくことが必要です。術者・スタッフのPPEは、内視鏡室を出る際に破棄します。なお、PPEを破棄する際にはウイルス飛散などの可能性について十分に留意してください。PPEを外す際には、手袋、ゴーグルあるいはフェースシールド、ガウン、マスクの順に外す、もしくは手袋とガウンを同時に外して最後にマスクを外す、などの方法がありますが、いずれも汚染面に触れないように注意してください。ガウンは汚染面が内側にくるようにたたんでまとめて廃棄してください。また、破棄後は肘までの手指洗浄を徹底して行うことが重要です。また、スコープや再利用する機器は本学会ガイドライン33に従った洗浄をお願いします。
感染確定患者の内視鏡診療後は、個人防護策を徹底していれば曝露リスクは低リスクと判定されます。しかし、認識されない曝露があるかもしれないため、その日は業務から外れるなど各施設の基準に則り対応してください。以降は、自己モニタリングは必須であり、毎日の体温測定、症状の評価を行い無症状であることを確認してからその日の業務を始めてください。
PPEの着脱法については、東京都福祉保健局(https://www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/kansen/shingatainflu/cyakudatsu.html)や日本職業制御研究会(https://www.safety.jrgoicp.org/ppe-3-usage-putonoff.html)などから具体例が公開されていますので参照してください。各施設においてPPEの着脱のトレーニングを行うことも効果的です。
CQ23. 感染が疑われる患者や感染確定患者での緊急内視鏡施行後の患者への対応で注意すべき点について教えてください。 |
Ans. 内視鏡終了後には患者にもマスクを着用させます。特に経口内視鏡を施行した場合では、咳嗽の頻度も高く、飛沫感染を予防するためにマスクを必ず着用させてください。また、感染が疑われる患者がリカバリー部屋を用いる場合は、必ず他の患者と隔離される別の部屋をご用意ください7。
CQ24. 感染が疑われる患者や感染確定患者での緊急内視鏡施行後の内視鏡機器の取り扱いについて注意すべき点について教えてください。 |
Ans. 終了後の内視鏡の運搬や洗浄に関しても十分な感染予防策をとることが重要です。スコープ類など洗浄にかけるものは、可能な限り密閉容器での運搬を推奨します。それが難しい場合は、台車にオイフのようなディスポーザブルシーツを敷き、その上にスコープを置き、さらにスコープの上にもディスポーザブルシーツをかけて周囲への汚染を最小限にすることに努めてください。また、洗浄を担当するスタッフも、飛散による汚染、感染防止のため、術者同様に長袖ガウン、マスク、ゴーグル(もしくはフェースシールド)、キャップ、手袋を着用して、直接、口、目、鼻のみならず、肌への飛散がないようにしてください。洗浄終了後にスコープを取り出すときには、汚染されていない長袖ガウンに交換していることが望ましいと考えます。洗浄も手慣れたスタッフが施行することが必要です8。なお、PPEの着脱については十分注意を払ってください。
CQ25. 感染が疑われる患者や感染確定患者での緊急内視鏡後のスコープの洗浄方法は何か特殊な方法がありますか? |
Ans. 特殊な方法はありません。スコープの洗浄は本学会の「消化器内視鏡の洗浄・消毒標準化にむけたガイドライン」に従って洗浄、消毒していただければ問題ありません33。洗浄履歴を忘れずに記録することが肝要です。*参考資料1・2・3を参照してください。
CQ26. 感染が疑われる患者や感染確定患者での緊急内視鏡後の処置具等のcritical器具の洗浄方法は何か特殊な方法がありますか? |
Ans. 特殊な方法はありません。処置具はディスポーザブル製品を用いることを推奨しますが、再使用可能製品を使用する場合は、再使用可能製品メーカーの取扱い説明書に従った十分な洗浄・滅菌が必要であると考えます。
CQ27. 感染疑い、あるいは確定患者での緊急内視鏡後の内視鏡室はどのような処置が必要でしょうか? |
Ans. 内視鏡施行後は、ウイルスが飛沫しエアロゾル感染が起こりやすい状況となっていると考えるべきであり、内視鏡室の扉は開放せずに十分な時間をかけて換気を行ってください34。内視鏡室の換気回数の把握は、換気時間の参考になりますので調べておくことを推奨します。その後、室内を通常清掃し、部屋全体をアルコール等で清拭し消毒を行うことを推奨します。また、内視鏡室内のPCキーボード等の消毒も徹底してください。
CQ28. 感染疑い、あるいは確定患者に対する消化器内視鏡診療の際に使用した、スコープ以外の機器の取り扱いについて教えてください。 |
Ans. 鉗子等のディスポのデバイス類は、各内視鏡室に備え付けの感染性廃棄容器に入れてください。そうした容器を開ける際にも注意が必要です。再利用する物品に関しても本学会のガイドライン33に従い、洗浄後アルコール等での消毒をすることを推奨します。患者に触れた聴診器や体温計、⾎圧計等、パルスオキシメータ等の器材は、アルコールや抗ウイルス作⽤のある消毒剤含有のクロスでの清拭消毒を⾏います。検査台のシーツ、枕カバー、トロリー使用の紙シーツ類は必ず交換してください。シーツ類は感染汚染物として取り扱ってください。
CQ29. 感染のリスクの少ない患者に消化器内視鏡診療を行ったところ、後日感染していることが判明しました。どのように対応したら宜しいでしょうか? |
Ans. 個人防護策および検査後の手指洗浄が徹底されていれば、感染のリスクは低いと考えられます17。ただし、認識されない曝露の可能性は否定できないため、無症候性の感染をしていることも想定しなくてはなりません。自己モニタリングだけではなく、施設の関係部署に連絡し対応を協議してください。検査受診者にすぐに連絡がつく体制を整えておくことが重要で、受診者には検査後に体調不良を自覚した場合には、すぐに施設に連絡をするように促す事が必要です。
個人防護策に不備があった場合(フェースシールド、マスク、袖付きのガウン、手袋のいずれかが未着用で、目・鼻・口や手指腕等のいずれかの防護が不完全であった場合)、高リスクとなります。従いまして、内視鏡施行時の状況を含めて、各施設の対応部署に報告し、消毒の方法や範囲、濃厚接触となった方への対応、業務継続の可否など事後措置について指示を仰いでください。5類に変更されてからは濃厚接触に該当する場合は一連の外出自粛などはなくなりましたが、基本的には、最後の曝露後から5日間は業務から外れる必要があると考えます(この点は施設基準に則りご対応ください)。
なお、「忙しさ」は感染のリスクに関わる重要なポイントです。消化器内視鏡診療が多くなることで、多忙・疲労がもたらす注意力低下により、PPE装着や手指洗浄などの感染防御がおろそかになる可能性があります。この点も考慮した診療スケジュールを立てることも重要と考えます。
CQ30. 消化器内視鏡診療終了後の被検者に対する注意事項はありますか? |
Ans. 内視鏡診療当日に無症状であっても、施行翌日に症状が出現し感染が判明した事例も報告されております。被検者には内視鏡診療後も体調管理に注意をしていただき、感染者では、10日間が経過するまではウイルス排出の可能性があることから、概ね検査後2週間以内に異変があれば、速やかに連絡してもらうことを伝えておくべきです。このことは院内感染対策としても極めて重要と考えます。
CQ31. 経験の浅い内視鏡医が感染疑いあるいは確定患者に対して消化器内視鏡診療をしてもよいでしょうか? |
Ans. 施行医の技術が未熟な場合には、経口的な検査では、挿入がスムーズにいかず、被検者の誤嚥や反射的な咳嗽を誘発しやすく、飛沫感染のリスクを高めます。大腸内視鏡検査においても送気量が多くなりがちであり、排ガスの頻度も増加し、結果として飛沫感染のリスクが高くなります10。また、技術が未熟な場合は全体的な検査時間が長くなることも予想され、感染リスクも上昇することが考えられます。したがって、感染確定患者に対しては介助者も含めて十分経験を積んだ上級者が行うことを推奨します。一方、感染疑い患者に対しては、施行時間が長くなる状況においては上級者への術者交代をご検討ください。
CQ32. COVID-19の感染リスクを考えた場合、観察目的の上部消化管内視鏡検査では、咳や嘔吐反射が少ない経鼻内視鏡の方が適当と考えて宜しいでしょうか? |
Ans. いいえ。経鼻内視鏡検査が経口内視鏡検査よりも感染リスクが低いかは明らかにされておりません。確かに、経鼻内視鏡検査では経口内視鏡検査に比較して咳や嘔吐反射が少なく、エアロゾル発生による感染のリスクは低く抑えられる可能性はあります。しかし、感染初期より副鼻腔や鼻腔にはウイルスは定着しており35、鼻腔からのswabでウイルスの検査が施行されているのもこのためです。また、経鼻内視鏡検査においては、前処置の際の反射による嚔(くしゃみ)や咳嗽にも十分な注意が必要です。また、使用したスコープは汚染されている可能性が高いとの認識を持ち、スコープの取り扱い(特に運搬)には十分にご配慮ください。経鼻、経口いずれにおいても感染のリスクがあることを十分認識し、何れにおいても、適切な防護策を講じてください。
CQ33. 観察目的の消化器内視鏡検査とCOVID-19ワクチンの接種が予定される場合,両者の実施時期について注意すべき点はありますでしょうか? |
Ans. ワクチン接種後の観察目的に施行する消化器内視鏡検査(生検を含む)は、接種時期に関わらす施行可能です36。ワクチン接種後であっても、通常の検査と同様に患者の状態(副反応の有無を含む)を考慮して検査を施行してください。また、観察目的の内視鏡検査後のワクチン接種に関しては、検査後に特に問題がなければ接種は可能と判断できます。
CQ34. 消化器内視鏡治療とCOVID-19ワクチン接種の実施時期について注意すべき点はありますでしょうか? |
Ans. ワクチン接種後の消化器内視鏡治療は副反応の確認のため3日目以降で治療の侵襲度を考慮して予定してください。逆に、内視鏡治療後にワクチン接種をするのであれば、可能であれば1−2週経過後にしてください。
新型コロナワクチン接種と手術侵襲に関して、両者の実施間隔についてのエビデンスに基づく医学的に明確な基準はありませんが、ある一定期間を空けることが推奨されています。その理由としては、1)処置に伴って発熱等の症状が出た場合にワクチンの影響かどうかを区別するため、2)一般的なワクチンの十分な抗体産生には1〜2 週間程度を要することから、免疫抑制をきたす侵襲性の高い治療までには2 週間を空ける、等が考えられています4,37,38。従って、副反応の頻度が少なくなる接種後3日目以降であれば待期的手術は可能ではありますが、コロナワクチンの抗体産生といった観点から、免疫抑制をきたしかねない外科手術であればワクチン接種から14日以上空けることが望ましいとされています36。消化器内視鏡治療における侵襲性は様々ですが、ワクチン接種後の患者の副反応の有無を確認の上、患者の状態と内視鏡治療の侵襲性を考慮し、担当医の判断で治療を施行してください。しかしながら、治療の侵襲によっては、ワクチン接種による抗体産生が減少する可能性があるため、このことを患者さんに説明する事も必要とされています4。一方、緊急での処置が必要な場合はこの限りではなく、内視鏡治療を優先しなくてはなりません。
内視鏡治療後のワクチン接種についても、特に定められた期間はありません。治療処置後の臨床経過に問題なければ、ワクチン接種は可能と考えます。なお、外科的手術後の場合は、一般的な待機期間である2週間が妥当ではないかという考えも示されております4。これは、ワクチンの副反応への体力回復期間を考慮すること、また、手術治療を含め免疫抑制をきたす治療は、免疫機能の回復に 1〜2週間を要すること等がその理由として挙げられています。いずれにしても、施行した内視鏡治療による侵襲を勘案し、各施設でご検討ください。
なお、上記については明確なエビデンスに基づいたものではないことであり、施設の感染対策部門ともよく検討し、院内で共通認識をもって臨むことを推奨します。
(この項の作成にあたっては、英国レスター大学教授の鈴木亨先生にもご指導いただきました。この場を借りて深謝致します。)
CQ35. 新型コロナウイルス感染症は終息しておらず、また、今後も別の感染症でのPandemicもあり得ます。消化器内視鏡診療に際して今後どう対応すべきでしょうか? |
Ans. 日本消化器内視鏡学会が施行したアンケート結果39により、SARS-CoV2の感染広がりにける重大な問題として、感染防護具不足(特に長袖ガウン、マスク、フェースシールド)があげられました。今後の新たなpandemicが起こらないとは言えないことから、消化器内視鏡実施施設においては、ある程度のPPEの備蓄が必要と考えます。その他、各施設での感染防護策の強化、感染対策規則の周知徹底、スタッフへの教育、可能であれば換気設備の改修、内視鏡室や待合のレイアウトの工夫・改修、等を行い、感染拡大の再来に備えておくことを是非ご考慮ください。長期的には、通常の消化器内視鏡診療体制が、あらゆる感染症に対応できる体制になることが理想と言えます40。
参考1_アルコールフラッシュを行うことができない場合の対応方法 オリンパス社製スコープ用
参考2_アルコールフラッシュを行うことができない場合の対応方法 富士フイルム社製スコープ用(2020年6月11日改訂)
参考3_アルコールフラッシュを行うことができない場合の対応方法 HOYA社製(PENTAX)スコープ用
参考4
▼過去の掲載実績
新型コロナウイルス感染症に関する消化器内視鏡診療についてのQ&A(2020年4月16日 第1版)
新型コロナウイルス感染症に関する消化器内視鏡診療についてのQ&A(2020年4月22日 第2版)
新型コロナウイルス感染症に関する消化器内視鏡診療についてのQ&A(2020年5月1日 第3版)
新型コロナウイルス感染症に関する消化器内視鏡診療についてのQ&A(2020年6月5日 第4版)
新型コロナウイルス感染症に関する消化器内視鏡診療についてのQ&A(2020年10月7日 第5版)
新型コロナウイルス感染症に関する消化器内視鏡診療についてのQ&A(2021年2月24日 第6版)
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