改訂第11版
日本消化器内視鏡学会 2023年9月15日
(COVID-19が感染症法5類に変更になったことに伴いアップデート致しました)
本提言の内容は日本消化器内視鏡学会が示したひとつの目安であり、それぞれの施設の対応を制限するものではありません。この提言を参考にしていただき、地域・施設の状況に応じて、各施設の関連部門等と協議し具体的な方針を決定していただくことが重要です。なお、今回記しました内容については、情勢や政府からの情報更新等に伴い改訂される可能性がありますのでご承知おきください。
今般の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大に関して、消化器内視鏡診療の実施については、国・厚労省の方針や各施設の状況等を考慮した対応が求められてきました。日本消化器内視鏡学会では、COVID-19の国内発生当初から、COVID-19感染拡大下での消化器内視鏡診療に関する「提言」および「Q&A」を公表し、状況に応じてアップデートして参りました。このたび、令和5年5月8日にCOVID-19は感染症法における「5類感染症」に変更となり、法律に基づき行政が様々な要請・関与をしていく仕組みから、個人の選択を尊重し、国民の皆様の自主的な取組をベースとした対応に変わりました。しかしながら、医療現場においては、様々なリスクをお持ちの患者さんが多くいらっしゃることからも、引き続きしっかりとした感染対策が求められています。特に、エアロゾルを発生する消化器内視鏡診療においては、5類に変更になった現在でも、引き続きPPEを中心とした確実な感染対策を講じる必要があります。
このたび、COVID-19が5類に変更になった社会情勢に鑑み、以下の様に提言をアップデートいたします。
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染経路は接触感染、飛沫感染、空気感染です[1]、[2]。消化器内視鏡診療においては、むせり・咳嗽誘発、鉗子口などが関与する飛沫感染や接触感染のほか、空気中に排出されたエアロゾル化したSARS-CoV-2による空気感染も危惧されます[3]、[4]。SARS-CoV-2は空中で数時間程度生存するとの報告もあり[5]、内視鏡室など密閉された空間では、内視鏡光源のジェネレーターによる拡散等も関与して[2]、高濃度の汚染されたエアロゾルが充満し、一定時間曝露した場合にはエアロゾルによるSARA-COV-2の伝播が高頻度で起こりうると考えられます。また、下部消化管内視鏡検査等を介した感染リスクは低い可能性が指摘されていますが[4]、糞便からもSARS-CoV-2が排出されることは確認されており[6]、[7]、下部消化管内視鏡検査における潜在的な感染リスクも考える必要があります。
令和5年5月8日に、COVID-19は感染症法における「5類感染症」に変更となりましたが、医療現場においては、様々なリスクをお持ちの患者さんが多くいらっしゃることからも、未だ確実な感染対策;主として、患者のトリアージならびに個人防護具(Personal Protective Equipment、以下PPE)を中心とした感染防護が求められています。
1)消化器内視鏡診療におけるCOVID-19リスク別の対応
SARS-CoV-2のPCR検査や抗原検査陽性の方・以下の条件のいずれかに該当する方(COVID-19が確定した症例・臨床的にCOVID-19を疑う症例)[8]、[9]、[10]、[11]、[12]、[13]、[14] に対しては、5類に変更された現在においても、従来同様、緊急性のある場合においてのみ消化器内視鏡診療の施行を推奨します。無症候等により臨床的にCOVID-19を疑わない方への検診を含む消化器内視鏡診療においても、SARS-CoV-2陽性の可能性があることを十分にご理解頂いて、引き続き同様の感染対策を取ってください。
★臨床的にCOVID-19を疑う症例(ハイリスク)
① 持続する感冒症状や発熱、息苦しさ(呼吸困難感)、強いだるさ(倦怠感)のいずれかがある場合。
② 2週間以内の新型コロナウイルスの患者やその疑いがある患者との濃厚接触歴。
③ 明らかな誘因のない味覚・嗅覚異常。
④ 明らかな誘因なく4−5日続く下痢等の消化器症状。
*オミクロン株ではこれまでのデルタ株などとは症状の傾向が異なることが明らかになっています。感冒様症状として咽頭痛・咳嗽・鼻汁が多い傾向にあり、味覚・嗅覚障害は少ないとされています。また、無症状病原体保有者が多いことにも注意してください。
2)COVID-19の罹患後の消化器内視鏡診療
療養解除後から消化器内視鏡施行までの健康チェックと当日の問診や体温測定は必須です。薬剤を服用した場合は当日症状の消失している場合もあることにご注意ください。
COVID-19の罹患後の消化器内視鏡実施時期については、明確なエビデンスはありませんが、院内感染予防の観点から、COVID-19感染後の消化器内視鏡実施時期については、現在厚生労働省[15]が示している「外出を控えることが推奨される期間(1.症状がある方では、発症後5日間が経過し、かつ、症状軽快から24時間経過するまで。2.症状のない方では、検査採取日を0日として、5日間経過するまで)」、また、発症後10日間が経過するまではウイルス排出の可能性があることを考慮し、COVID-19の罹患後の緊急性のない消化器内視鏡診療は、最低でも10日は期間を空けた方がよいと考えます。なお、2022年5月に発出された英国からのステートメント[16]では、症状が持続する患者や中等度から重度のCOVID-19患者の場合は、最低でも15-20日間、場合によっては7週間より長い延期が必要になることもあるとされています。また、免疫抑制状態にある患者などでは30日を超える長期ウイルス排出者の報告[17]もありますので、これらの点も考慮して、患者の重症度に応じてご対応ください。一方、罹患後10日を経ていない患者で緊急性がある場合は、ハイリスクと考えて感染者に準じて各施設基準に則り対応すべきです。
なお、COVID-19蔓延初期における感染後の外科的治療についての研究では、治癒から7週間後には有意に術後合併症・死亡率が減るといった報告[18]があります。しかしながら、現在のオミクロン株の状況に合致するか否かはわからず、また、内視鏡的治療の侵襲と外科的手術の侵襲度の違いもあるため、あくまで参考程度としてください。日本麻酔科学会では、COVID-19治癒後から待期的外科手術までの期間を、軽症から中等症患者では発症から4週間、集中治療を要した患者では12週間空けることを提案しています。消化器内視鏡診療においても、全身麻酔下や深鎮静下で手技を行うこともあり、特に重症例においては、可能であればやや長めの待期期間を設けた方が良いと思われます。
地域の感染状況も参考にして、無症状の感染例は一定数存在していることを念頭に、5類に変更された現在でも、消化器内視鏡診療の際には、飛沫感染、接触感染、空気感染に十分に考慮した感染防護策を講じることを強く推奨します[20]、[21]。
消化器内視鏡実施の際には、フェースシールド付きマスク(またはゴーグル+マスク)・手袋・キャップ・ガウン(長袖)をしっかりと着用してください(可能な限り、患者毎に取り換えが望ましい)。そして、検査・治療終了後には手指から肘までのしっかりとした洗浄を行ってください。マスクに関しては、サージカルマスクの着用を標準的防護具として推奨します。ハイリスク患者に対しては、各施設の規定に従ってください。なお、仮にハイリスク患者に対して消化器内視鏡診療を行ったとしても、感染防護策および検査後の手指洗浄が徹底されていれば、感染のリスクは低いと判定されます。
消化器内視鏡診療終了後の内視鏡運搬や洗浄に際しては、十分な防護策の下で本学会の「消化器内視鏡の洗浄・消毒標準化にむけたガイドライン」[22]に則り対処してください。
COVID-19が確定あるいは疑う患者に対して消化器内視鏡診療を行わなくてはならない場合、または消化器内視鏡施行後に感染が判明した場合は、事前事後の対応策(内視鏡室の消毒、閉鎖の是非、閉鎖期間、再開の判断等々)については各施設で検討していただき、十分な対応をとってください[23]。また、COVID-19確定の方に対して使用した防護具は速やかに廃棄してください。
各施設で、COVID-19に関する医療従事者側の就業基準が設けられていると思います。医療従事者が感染源とならないよう、消化器内視鏡診療に携わるスタッフの健康管理を徹底してください。消化器内視鏡担当医もしくはメディカルスタッフも日々の健康状態には充分に留意し、前述のハイリスク項目①-④に該当する際には、消化器内視鏡診療には携わらないでください。
5類に変更された現在でも、消化器内視鏡診療施行当日には確実な問診、そして体温測定を行うことを推奨します。体温および当日の身体症状の確認により、消化器内視鏡診療実施の可否について慎重に判断してください。なお、症状が出始めた時点での迅速抗原検査ではウイルスの検出ができない場合もあることは理解しておいてください。また、消化器内視鏡診療前日以前に発熱・身体症状があった場合、薬剤投与歴のある場合もありますのでご注意ください。
内視鏡室における飛沫感染や接触感染の予防、更には換気にも注意して、空気感染に配慮した対策も必要です。
消化器内視鏡診療とワクチン接種時期の関係についての明確なエビデンスはありませんが、これまでに報告されたワクチンの副反応の頻度や重篤度に鑑みると、現時点では、ワクチン接種の影響を過剰に懸念することなく、患者さんにとって必要な消化器内視鏡診療は通常通り行っていただきたいと考えます。なお、待期的外科的手術においては、ワクチン接種から手術までの期間を2週間以上空ける、また、外科的手術後はワクチン接種まで2週間の待期が妥当、とする考えも示されております[19]。いずれも、施行した内視鏡手技による侵襲性を勘案し、詳細については各施設でご検討ください。
繰り返しになりますが、5類に変更になった現在であっても、消化器内視鏡診療にあたってはしっかりとした感染対策が求められます。今後も新たなウイルスによるpandemicが起こる可能性は否定できません。可能な限り、各施設での感染防護策の強化、可能であれば換気設備の改修、検査室や待合のレイアウトの工夫・改修、個人防護具の在庫の確保、感染対策規則の周知徹底等を行っていただければと思います。長期的には、通常の消化器内視鏡診療体制が、あらゆる感染症に対応できる体制であることが理想と言えます[24]。
令和5年9月15日
一般社団法人日本消化器内視鏡学会
理事長 田中 信治
医療安全委員会
担当理事 入澤 篤志
[1]World Health Organization (WHO), “Coronavirus disease (COVID-19): How is it transmitted?” (2021); who.int/news-room/q-a-detail/coronavirus-disease-covid-19-how-is-it-transmitted.
[2] Chaussade S, Pellat A, Chamseddine A, et al. Airborne transmission of SARS-Cov2: What consequences for digestive endoscopy? United European Gastroenterol J. 2023;11:171-178.
[3] Wang J, Du G. COVID-19 may transmit through aerosol. Ir J Med Sci. 2020;189:1143-1144.
[4] Chan VWS, Rahman L, Ng HHL, Tang KP, et al. Mitigation of COVID-19 transmission in endoscopic and surgical aerosol-generating procedures: a narrative review of early-pandemic literature. Hong Kong Med J. 2023;29:247-255.
[5] van Doremalen N, Bushmaker T, Morris DH, et al. Aerosol and Surface Stability of SARS-CoV-2 as Compared with SARS-CoV-1. N Engl J Med. 2020;382:1564-1567.
[6] Gu J, Han B, Wang J. COVID-19: Gastrointestinal manifestations and potential fecal-oral transmission. Gastroenterology. 2020 [Epub ahead of print]
[7] Wong SH, Lui RN, Sung JJ. Covid-19 and the Digestive System. J Gastroenterol Hepatol. 2020 ;35:744-748.
[8] Guan WJ, Ni ZY, Hu Y, et al. China Medical Treatment Expert Group for Covid-19. Clinical Characteristics of Coronavirus Disease 2019 in China. N Engl J Med. 2020;382:1708-1720.
[9] Huang C, Wang Y, Li X, et al. Clinical features of patients infected with 2019 novel coronavirus in Wuhan, China. Lancet. 2020;395(10223):497-506.
[10] Jin X, Lian JS, Hu JH, Gao J et al. Epidemiological, clinical and virological characteristics of 74 cases of coronavirus-infected disease 2019 (COVID-19) with gastrointestinal symptoms. Gut. 2020;69:1002-1009.
[11] Giacomelli A, Pezzati L, Conti F, et al. Self-reported olfactory and taste disorders in SARS-CoV-2 patients: a cross-sectional study. Clin Infect Dis. 2020;71:889-890.
[12] Tian Y, Rong L, Nian W et al. Review article: gastrointestinal features in COVID-19 and the possibility of faecal transmission. Aliment Pharmacol Ther. 2020;51:843-851.
[13] Zhu J, Zhong Z, Ji P, et al. Clinicopathological characteristics of 8697 patients with COVID-19 in China: a meta-analysis. Fam Med Community Health 2020;8:e000406.
[14] Zhu J, Ji P, Pang J, et al. Clinical characteristics of 3,062 COVID-19 patients: a meta-analysis. J Med Virol. 2020;92:1902-1914.
[15] 厚生労働省.https://www.mhlw.go.jp/stf/corona5rui.html
[16] K El-Boghdadly et al. Timing of elective surgery and risk assessment after SARS-CoV-2 infection: an update: A multidisciplinary consensus statement on behalf of the Association of Anaesthetists, Centre for Perioperative Care, Federation of Surgical Specialty Associations, Royal College of Anaesthetists, Royal College of Surgeons of England. Anaesthesia 2022;77:580-587.
[17] Li N, Wang X, Lv T. Prolonged SARS-CoV-2 RNA Shedding: Not a Rare Phenomenon Affiliations expand. J Med Viro 2020;92:2286-2287.
[18] COVID Surg Collaborative; Global Surg Collaborative. Timing of surgery following SARS- CoV-2 infection: an international prospective cohort study. Anaesthesia 2021; 76: 748-58.
[19] 公益社団法人 日本麻酔科学会「麻酔・手術を受ける患者さんへのワクチン接種の提言」. https://anesth.or.jp/img/upload/news/9cae8b8d50e6a6c89ea69bc34a8349f1.pdf
[20] Chu D.K., Akl E.A., Duda S., et al. Physical distancing, face masks, and eye protection to prevent person-to-person transmission of SARS-CoV-2 and COVID-19: a systematic review and meta-analysis. Lancet. 2020;395:1973–1987.
[21] Castro Filho EC, Castro R, Fernandes FF, Pereira G, Perazzo H. Gastrointestinal endoscopy during COVID-19 pandemic: an updated review of guidelines and statements from international and national societies. Gastrointest endosc 92;440-445.e6:2020.
[22] 岩切 龍一, 田中 聖人, 後藤田 卓志ほか. 消化器内視鏡の洗浄・消毒標準化にむけたガイドライン. Gastroenterol Endosc 60;1370-1396:2018.(https://www.jstage.jst.go.jp/article/gee/60/7/60_1370/_pdf/-char/ja)
[23] Dexter F, Parra MC, Brown JR, et al. Perioperative COVID-19 Defense: An Evidence-Based Approach for Optimization of Infection Control and Operating Room Management. Anesth Analg. 2020;131:37-42.
[24] Sultan S. Gastrointestinal Endoscopy in Patients with Coronavirus Disease 2019: Indications, Findings, and Safety. Gastroenterol Clin North Am. 2023;52:157-172.
▼過去の掲載実績
・新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への消化器内視鏡診療の対応について(2020年3月25日)
・新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への消化器内視鏡診療の対応について(2020年3月30日更新)
・新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への消化器内視鏡診療についての提言(2020年4月6日 第2版)
・新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への消化器内視鏡診療についての提言(2020年4月9日 第3版)
・新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への消化器内視鏡診療についての提言(2020年4月22日 第4版)
・新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への消化器内視鏡診療についての提言(2020年5月18日 第5版)
・新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への消化器内視鏡診療についての提言(2020年5月29日 第6版)
・新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への消化器内視鏡診療についての提言(2020年12月25日 第7版)
・新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への消化器内視鏡診療についての提言(2021年6月15日 第8版)
会員ログイン
現在メンテナンス中のため、
会員ログインはご利用いただけません。
※終了予定:12/2(月) 正午