一般社団法人 日本消化器内視鏡学会 Japan Gastroenterological Endoscopy Society

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食道アカラシアは内視鏡で治療できますか?

 食道アカラシア(以下アカラシア)に対する内視鏡治療は、内視鏡的バルーン拡張術と、経口内視鏡的筋層切開術(Per-Oral Endoscopic Myotomy:POEM)があり、現在は、1回の治療で高い治療効果を維持できるPOEMが、国内外で広く行われています。詳細を以下に記します。

アカラシアとは

 アカラシアとは、下部食道括約部(胃に近い食道の2-3㎝の筋肉)が開かなくなることや、食道の蠕動運動が障害を受けることにより、食道から胃への通過障害を生じる原因不明の疾患です。

・つかえ感(水や食物が胃に下りていかない)

・食べたものが口の中に逆流してくる

・胸の痛み

・体重減少

・嘔吐などにより夜間、目が覚める

・原因不明の気管支炎や肺炎を繰り返す

といった症状により、日常生活の質は著しく低下します。

アカラシアに対する主な治療法

 アカラシアに対する主な治療法は4つあります(表1)。

1)薬物療法

2)内視鏡的バルーン拡張術

3)外科手術(Heller-Dor手術)

4)POEM(図1)

 

 バルーン拡張術は、静脈麻酔下で内視鏡(胃カメラ)を用いて行います。患者さんの体への負担は、手術やPOEMに比べると低いものですが、治療を複数回行うことが一般的です。

 外科手術(Heller-Dor手術)は、全身麻酔下で主に腹腔鏡を用いて行います。筋層切開を行った後に噴門形成術を追加するため、POEMに比べると、治療後の胃食道逆流症が少ないと言われています。

 POEMは、2008年に井上晴洋医師らによって開発された治療法で、体表に傷をつけず、 外科手術と同等の効果を期待できる画期的な内視鏡治療です。トンネルの入り口の位置を調整すれば、切開する筋肉の長さを自由にコントロールすることが出来るため、バルーン拡張術や外科手術では治療効果が低いタイプのアカラシア(食道全体に強い収縮を伴うアカラシア)でも問題なく治療を行うことが可能です。2015年に保険医療として認可され、国内では、2022年4月現在、4,000例以上のPOEMが安全に施行されました。長期の治療成績も問題ないことが分かっています。POEMは、既に内視鏡的バルーン拡張術や外科手術が行われた患者さんに対しても行うことができます。開発当初は、術後の胃食道逆流症を心配する声もありましたが、実際には、重症の胃食道逆流症の頻度は少なく(約6%)、仮に発症したとしても、酸分泌抑制薬の内服でコントロールが可能です。治療については、たくさんの症例を経験している施設で相談されるのがよいかもしれません。

 

図1:POEMの概略

A)粘膜下層トンネルの作製:粘膜を切開し、そこを起点にして、胃側2-3㎝まで粘膜下層トンネルを作製します。

B)筋層切開:病気の本態である下部食道括約部を含め、食道から胃にかけて筋層切開を行います。

C)粘膜切開部の閉鎖:最後に粘膜下層トンネルの入り口をクリップで閉鎖して治療を終えます。

 

表1:治療法の比較

 

1)薬物療法

2)内視鏡的
バルーン拡張術

3)外科手術

4)POEM
(上記図1参照)

治療を行うところ

外来

内視鏡室で
静脈麻酔下

手術室で
全身麻酔下

手術室で
全身麻酔下

治療の回数

継続的な投与

繰り返しの治療が前提

特殊な場合を除き1回

特殊な場合を除き1回

治療効果

×~△

△~○

体への負担

少~中

中~大

メリット

体への負担が少ない

内視鏡治療のため、体に傷がつかない

1回の治療で高い治療効果が望める

1回の治療で高い効果が望める

 

施行できる施設が多い

 

体に傷をつけず、手術と同等の治療効果を期待できる

 

 

 

どのタイプのアカラシアでも対応することが出来る

デメリット

治療効果が限られる

繰り返しの治療が一般的

他の治療に比べて体への負担が大きい

施行できる施設が限られている

 

食道全体に強い収縮を伴うアカラシアでは効果が乏しい

食道全体に強い収縮を伴うアカラシアでは効果が乏しい

他の治療法に比べると術後の胃食道逆流症の割合が若干高い

 

福岡大学医学部 消化器外科
塩飽 洋生
(2022年5月18日掲載)