食道がんは細胞の種類から扁平上皮がんあるいは腺がんに分類され、本邦ではほとんどが扁平上皮がんです。食道がんのうち、内視鏡切除の対象となる病変は、①一括切除(病変を周りの粘膜と一緒にひとかたまりに切除)が可能で、②リンパ節に転移している危険性が低い病変です。
本邦では、内視鏡的粘膜切除術(Endoscopic Mucosal Resection:EMR)、内視鏡的粘膜下層剥離術(Endoscopic Submucosal Dissection: ESD)という内視鏡切除法が開発され、広く普及しております。EMRは簡便ですが、一括切除できる大きさに制限があります。ESDはEMRよりも時間がかかりますが、病変の存在する部位や大きさにかかわらず、ほとんどの食道がんに対して安全に一括切除を行うことが可能となりました。
図1.EMR(内視鏡的粘膜切除術)
図2.ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)
(図1・2出典:Abe S, et al. Endoscopic resection of esophageal squamous cellcarcinoma: Current indications and treatment outcomes. DEN Open.2022;2:e45. https://doi.org/10.1002/deo2.45)
食道がんのリンパ節転移の危険性は、主に食道がんの深さによって規定されます。リンパ節転移の危険性が低い条件を満たす病変であれば、内視鏡切除の対象となります。具体的には下図(図3)の深さのうち、粘膜上皮(EP)、粘膜固有層(LPM)と診断された病変は内視鏡切除の対象です。なお、粘膜筋板(MM)や粘膜下層浅層(SM1, 粘膜筋板から200μm以下)と診断された病変も、病変の深さの診断が難しいこと、また安全に内視鏡治療で切除可能であることから、内視鏡治療が行われるようになりました。
図3.内視鏡切除の対象
粘膜下層深層(SM2)に浸潤した食道がんはリンパ節転移の危険性が高いため、原則として転移している可能性のあるリンパ節も含め、外科手術切除する必要があります。また、手術以外の方法として抗がん剤と放射線治療を組み合わせた治療を行う事もあります。
内視鏡切除を行った後にもリンパ節転移の危険性が無いかどうか、切除標本の顕微鏡検査で以下の条件について確認します。
図4.組織所見による治癒切除基準
深さ |
切除断端 |
脈管侵襲 |
EP(粘膜上皮) |
陰性 |
陰性 |
LPM(粘膜固有層) |
陰性 |
陰性 |
なお、上記と診断された病変であっても、内視鏡切除後に食道が狭くなって食べ物の通りが悪くなることがあるため、内視鏡切除以外の方法が行われることがあります。
切除標本の組織検査で上記図4の条件を満たさない食道がんは、リンパ節転移の危険性があり、内視鏡切除後にリンパ節や他の臓器に再発する可能性があります。上記の条件を満たさない食道がんのうち、粘膜下層浸潤(SM1、SM2)や脈管侵襲陽性の病変は、原則として手術あるいは抗がん剤と放射線療法を組み合わせた治療が必要となります。
病変が内視鏡切除の対象であるかどうかは、たくさんの症例を経験している施設で相談されるのがよいかもしれません。
国立がん研究センター中央病院 内視鏡科
阿部 清一郎
(2022年3月2日掲載)