小腸は長いため、これまで長い間内視鏡で観察することは困難でしたが、カプセル内視鏡やバルーン内視鏡の登場により、小腸すべてを観察することが可能となりました。小腸の病気が疑われる場合に行われる検査です。
これらの検査を行っているかどうかを事前に施設にお問い合わせください。
Ⅰ.小腸カプセル内視鏡
- 薬のカプセルよりも少し大きなカプセル内視鏡(長さ26mm、幅11mm)を飲んだのち、カプセルが消化管の動きによって徐々に進みながら、1秒間に2枚ずつ、または6枚ずつ撮影し、腰に取り付けたレコーダーに記録します。これをあとでコンピューターで動画として解析します。患者さんの負担が少なく、小腸全体を観察することができますが、食道や胃、大腸は十分に観察することはできません。小腸にたまっている内容物の影響や、撮影時間に限りがあるため、小腸の奥のほうを観察できないこともあります。また、組織検査のため一部をとったり、治療することはできません。
- 消化管がとても狭い患者さんや、腸閉塞をきたしたことのある患者さん、おなかに放射線をあてたことのある患者さん、ペースメーカーのある患者さん、飲み込みに問題のある患者さん、妊婦さんなどは検査を施行できません。
- 消化管が狭い可能性がある場合には、大きさが小腸カプセル内視鏡と同じで、時間がたつと(30~33時間経過後から)形がくずれて溶けるパテンシーカプセルをあらかじめのんでいただきます。形がくずれずに排泄されるか、レントゲンやCTなどで大腸まで進んでいることを確認できれば、カプセル内視鏡を施行することができます。
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図1 小腸カプセル内視鏡
(画像提供:メドトロニック株式会社)
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図2 パテンシーカプセル
(画像提供:メドトロニック株式会社)
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図3 カプセル内視鏡画像(小腸潰瘍)
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図4 カプセル内視鏡画像(小腸ポリープ)
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a. カプセル内視鏡検査の受け方
- 検査前日の夕食は、午後9時までにすませます。それ以降の飲食は控えてください。水など水分の摂取は構いません。
- 検査当日の食事は控えてください。水は結構です。
- 施設によっては、検査前に下剤や消化管の動きをよくする薬や消化液の泡を取り除く薬などを服用していただくことがあります。
- おなかにセンサーを装着し、レコーダーを腰のベルトに固定します。
- 水とともにカプセルを飲みます。
- 2時間後より水を飲むことができ、4時間後には軽い食事もできます。
- 検査は通常午前9時頃に開始し、8時間後の夕方5時頃に装置をはずします。
- 強い磁気にさらされたり、激しい運動さえしなければ自由に行動でき、通常の日常生活をすごしたり、仕事をすることも可能です。
- カプセルが便とともに排泄されたかを報告するように指示されます。排泄を確認できない場合には、おなかのX線写真を撮影して確認します。
- 2021年にペースメーカーのある患者さんでも検査のできる360°のパノラマ撮影が可能なカプセル内視鏡が登場しております。撮影された画像はカプセルの中に保存されますので、排便時にカプセルを必ず回収してコンピューターで画像を解析する必要があります。
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図5 小腸カプセル内視鏡(画像提供:長瀬産業株式会社)
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図6 カプセル内視鏡画像(小腸血管拡張症) (画像提供:長瀬産業株式会社)
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b. 偶発症
まれに、消化管の狭いところを通過できないことがあります。どうしても自然排泄されない場合には、内視鏡で回収したり、外科手術で回収とともに原因となる狭い部分を切除します。なお、カプセル内視鏡検査に伴う偶発症発生頻度は全国集計(2008年から2012年の5年間)で0.222%でした。
Ⅱ. バルーン内視鏡
バルーン内視鏡とは、長さ2mの長いスコープとバルーンの付いたオーバーチューブを組み合わせたものです。バルーンを膨らませたりへこましたりしながら、オーバーチューブとスコープを進めたり引いたりすることにより、長い小腸を折りたたむように縮めながら奥へ進んでいきます。この方法の開発により、小腸全体を内視鏡観察することができるようになりました。
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図7 ダブルバルーン内視鏡
(画像提供:富士フイルムメディカル株式会社)
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図8 シングルバルーン内視鏡
(画像提供:オリンパス株式会社)
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- バルーン内視鏡には、ダブルバルーン内視鏡(バルーンがオーバーチューブとスコープの2ヵ所についたもの)とシングルバルーン内視鏡(バルーンがオーバーチューブのみについたもの)の2種類があります。
- バルーン内視鏡は、X線透視で適宜位置を確認しながら進めます。
- 経口的にも経肛門的にも挿入することが可能で、両方向からの挿入を組み合わせることにより小腸すべてを観察することもできます。
- 観察するだけでなく、組織を一部採取したり、出血に対して止血したり、ポリープを切除したり、狭いところを広げたりすることもできます。
- また、大腸が長かったり、癒着のために大腸内視鏡を挿入することが困難な方に対しても有用です。
a. バルーン内視鏡検査の受け方
- 多くは入院して行いますが、定期的な経過観察などでは外来で行う場合もあります。
- 口からのアプローチの場合には上部消化管内視鏡検査に準じます。
- 経肛門的にアプローチする場合には大腸内視鏡検査に準じます。
- 腸管の緊張を和らげる薬や鎮痛薬、鎮静薬を注射します。
- 検査時間は患者さんにより多少違いますが、およそ1~2時間です。
b. 偶発症
まれに、穿孔や出血、誤嚥性肺炎、急性膵炎などをおこすことがあります。なお、バルーン小腸内視鏡検査に伴う偶発症発生頻度は全国集計(2008年から2012年の5年間)で、経口で0.333%、経肛門で0.093%でした。
Ⅲ. プッシュ式小腸内視鏡
バルーンのついていないスコープを用いて、上部消化管内視鏡検査と同様に経口的に進めることにより小腸に内視鏡を挿入する方法です。観察できる距離は長くはありませんが、手技が容易で、検査時間も短くなっています。
図11 悪性リンパ腫
埼玉医科大学 消化管内科
今枝 博之
(2017年6月29日掲載、2024年3月29日更新)