食道や胃を観察する上部消化管内視鏡検査には、内視鏡を口から挿入する経口内視鏡検査と鼻腔より挿入する経鼻内視鏡検査の2種類があります。最近では、内視鏡胃がん検診の現場で経鼻内視鏡検査が選択されることが多く、日常的に広く使用されるようになっています。本稿では、経鼻内視鏡検査と経口内視鏡検査の特徴を、両内視鏡検査を比較しながら説明します。
経鼻内視鏡検査で使用する細径内視鏡の直径は5-6mmであり、通常の経口内視鏡の8-9mmと比較して約半分の太さです。内視鏡検査時の苦痛は、内視鏡を挿入する際の咽頭や舌根への刺激の強さが原因の1つと考えられていますが、内視鏡の太さは、その刺激の強弱に影響するため、経鼻内視鏡検査は経口内視鏡検査よりも、一般的には苦痛が少ないと評価されています。
以前の経鼻内視鏡では、内視鏡検査中に胃内を観察する向きを変えるアングルの数が少なかったり、明るさを増すライトが少なかったりと経口内視鏡よりも装備が限られていました。依然、経鼻内視鏡では拡大機能が装備されていないため、病変を評価する点で経口内視鏡と比較して劣ることもありますが、それ以外は両内視鏡ともほぼ同じ機能を装備しています。
今までの経鼻内視鏡は、経口内視鏡と比較して画質や解像度で劣り、それに伴って胃がんなどの発見率が劣る可能性が指摘されてきました。しかしながら、2020年以降に発売された経鼻内視鏡の解像度は格段に向上し、さらに新たなプロセッサの開発も相まって経口内視鏡と同様の画質が得られるようになりました。そのため、内視鏡胃がん検診時のみならず、一般的な診療の現場でも有用性が期待される内視鏡となっています。
現在、内視鏡検査では通常の観察方法(白色光観察)だけではなく、新たな光技術を応用した画像強調内視鏡検査を併用して消化管内を評価することが一般的となりました。画像強調内視鏡検査の種類は使用する経鼻内視鏡で異なりますが、基本的にどの内視鏡を使用しても病変の発見率には差は認めません。また、画像強調内視鏡検査は、経鼻内視鏡でも経口内視鏡でも使用することは可能であり、新たに開発された高解像度の経鼻内視鏡では、旧型の内視鏡と比較して画像強調内視鏡の画質は劇的に改善しています。
前述のように経鼻内視鏡と経口内視鏡ではほぼ同じ機能を装備しています。ただし、経鼻内視鏡は内視鏡径が細いために、内視鏡検査・治療時に使用する一部の処置具は入りません。最近では経鼻内視鏡に対応した内視鏡処置具も市販されつつありますが、経鼻内視鏡を使用した内視鏡治療を行うことは限られた施設で行われている状況です。ただし、今後、経鼻内視鏡を使用した内視鏡治療は普及されることも予想されています。そのため、現時点では健康診断などで定期的に上部消化管をスクリーニングする際に好まれて使用されています。
経口内視鏡検査は施行前に咽頭部を中心に口腔内の麻酔を行いますが、経鼻内視鏡検査では鼻腔内の麻酔を行います。また、経鼻内視鏡検査の特徴的な合併症の1つに鼻出血があります。施設のより異なりますが、内視鏡の鼻粘膜への接触により鼻出血を予防するために、検査前に薬剤(血管収縮薬)を噴霧してから行うことが一般的です。
また、経鼻内視鏡検査が選択された場合でも、鼻腔の狭さや角度によって経鼻内視鏡を鼻腔内に挿入できないこともあります。その場合には適宜経口内視鏡検査に変更して行われますので、注意が必要です。
経口内視鏡検査は、食道入口部挿入時などに心拍数や血圧が上昇することが多いため、心筋酸素消費量(心拍数×収縮期血圧×10-2(double product))は増加します。一方、経鼻内視鏡検査は検査中でも心拍数や血圧はあまり変化しないことが多いため、心筋酸素消費量も変化しません。酸素飽和度は、経鼻内視鏡検査では口呼吸を行うことが可能なため変化は少ないですが、経口内視鏡検査では鼻で呼吸する必要があるため、人によりわずかに低下することがあります。以上のことから、心肺機能に及ぼす影響は経口内視鏡検査よりも経鼻内視鏡検査の方が少なく、安全に検査を行うことができます。
経鼻内視鏡検査と経口内視鏡検査は、それぞれにメリットとデメリットを持ち合わせています。担当医の先生とよく相談し、どちらの内視鏡を使用して内視鏡検査をお受けになるかを決めてください。